第11話(3)賊族と

「……どうするつもりだ?」


 バイクに跨りながら克洋がカイラに尋ねる。


「恐らく妹さんはまだあの一番下の階層辺り……」


 カイラが夜空に浮かぶ大きな島の一番下を指差す。克洋が頷く。


「そうだろうな……」


「突っ込むでゴザル!」


「いや、さすがに無謀だろ!」


 カイラの言葉に克洋が突っ込む。


「さっき、後はオイラがなんとかするとか言ってなかったでゴザルか?」


「ああ、言ったな……」


「どうするつもりだったのでゴザル? 見たところ、緻密な作戦など思い付きそうもない面構えでゴザルが……」


「面構えは関係ねえだろうが」


「考えていたのは?」


「……このトライストライカーで突っ込む!」


 克洋がバイクを叩く。カイラが呆れたように克洋を見つめる。


「……アホ丸出しでゴザルな」


「お前も同じこと言っただろうが!」


「拙者の場合はあくまでも冗談でゴザルよ」


「冗談?」


「そう、頭を使う頭脳派ニンジャでゴザルからな」


 カイラはそう言って、自分の側頭部を指でトントンとつつく。


「頭を使うって……」


「これがあの辺の階層の地図でゴザル……」


 カイラが端末を取り出し、3Ⅾの映像を浮かび上がらせる。


「お、おう……」


「エレベーターから降りたら、上の階層か、それともその階層の奥か……どこに向かうにせよ、必ずこのエリアを通るようになっているでゴザル」


 カイラが地図の一部分を指差す。克洋が顎をさすりながら頷く。


「ふむ……」


「このエリアにこちらも最短距離で向かうようにすれば、妹さんの奪回は容易なはず……」


「最短距離たって、警備はどうするつもりだ?」


「良い質問でゴザルな」


「いや、当然の疑問だろう……」


「目と耳を塞ぐ……」


「塞ぐ?」


「監視カメラにはダミーの映像を流すように、センサーは――数分間ではゴザルが――正しく作動しないように細工をするでゴザル」


「おお……!」


「これで侵入までは無事に可能……」


「イケるな!」


「そう上手く行くかね……」


 真っ白なバイクに乗ったリンファが現れる。カイラが笑みを浮かべる。


「そこで伝説の珍飛行団の頭、リンファ殿のお力添えが要るのでゴザル」


「く、空賊だよ!」


「珍飛行団……」


「リ、リピートしなくて良い!」


 リンファが克洋に対し声を上げる。カイラが克洋の後ろに跨る。


「まあ、それはいいとして……行くでゴザルか」


「どうするんだ?」


「このまま飛び上がって、あそこの大きな通気口に突っ込むでゴザル!」


「結局突っ込むんだな……」


「タイミングを見計らって、仕掛けを作動させるでゴザル」


 カイラはボタンを取り出して、克洋に見せる。克洋は尋ねる。


「信じて良いんだな?」


「大船に乗ったつもりで任せなさい」


「乗せてるのはオイラなんだが……」


「盗賊漫才は結構……」


「ニンジャでゴザル!」


「義賊だっつうの!」


 リンファの言葉にカイラと克洋が反発する。リンファがため息をつく。


「はあ……似たようなものだろう……なんでもいいから早くしな」


「……よし、レッツラゴ~!」


 カイラの間の抜けた掛け声とともに、克洋とリンファがバイクを走らせる。


「……飛ぶぞ! リンファ姐、ビビってねえよな⁉」


「誰に口を利いているんだよ!」


「よっしゃ、浮上!」


 ある程度走ったところで、克洋とリンファは各々のバイクを空に浮かび上がらせる。


「仕掛け、作動!」


 カイラがボタンを押す。リンファが感心したように呟く。


「警備用のドローンも寄ってこないな。大した仕掛けだ……」


「よし! 通気口に入るぜ!」


 克洋たちはバイクを島内に侵入させることに成功する。


「やったぜ! 侵入成功だ! ん⁉ 危ねえ⁉」


 克洋たちに向けてロボット兵たちが銃を発砲してくる。克洋とリンファはバイクを器用に操縦し、銃撃をかわす。カイラが口笛を鳴らす。


「~♪ お見事!」


「どういうこった⁉ 思いっきり襲撃されてんぞ⁉」


 克洋が後ろのカイラに問う、カイラは悪びれもせず答える。


「侵入までは無事に可能と言ったでゴザル」


「お、おい、まさか……」


「後は野となれ山となれ♪」


「か、勘弁してくれよ!」


「よそ見をしている暇はないでゴザルよ?」


「! しまっ……⁉」


 克洋に狙いを定めていたロボット兵たちが次々爆散する。克洋が視線を向けると、ライフルを両手で持ち、手放しでバイクを操縦するリンファの姿があった。リンファは舌打ちする。


「……ちっ、盗賊にまんまとハメられたな……」


「賊同士、利用しあっただけのこと。そちらは容易く侵入出来た。一方こちらは空を飛ぶ足が欲しかった。互いにメリットがあったでゴザロウ? うおっ⁉」


 一瞬の隙を突き。銃を持ったロボット兵とは別の兵が手を長く伸ばして、カイラの体を思い切り引っ張る。克洋が慌てるが、リンファは一瞥して吐き捨てる。


「ほっとけ! ここからは自己責任だ!」


「リンファ姐、そうは言っても……!」


「ふん!」


「え⁉」


 カイラが頭突きを食らわして、ロボット兵の頭部を破壊し、額をさする。


「頭脳派の片鱗を覗かせてしまったでゴザルな~」


「頭脳派ってそういうことなのかよ⁉ はっ⁉」


 克洋の進む先にひと際大きなロボット兵が立ちはだかる。兵がその拳を振り上げる。


「邪魔……!」


「ええっ⁉」


 次の瞬間、炎が大きなロボット兵を包み、無力化させる。バイクを停止させた克洋が周囲を見回すと、茶髪のツインテールで、欧風な民族衣装を身に纏った女性が右手を掲げて立っていた。その背中には黒い翼が生えている。その女性は克洋たちに気付くと慌てる。


「あ! え、えっと、アタシはエミ、八王子のしがない山賊よ! 決して魔族ではないわ!」


「絶対魔族だ⁉」


 克洋がエミと名乗った女性を指差す。

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