第11話(4)なぞらえさせる義賊

「い、嫌ねえ、魔族なわけないじゃない……」


「魔族なわけあるだろ!」


「その翼はなんでゴザルか⁉」


 克洋とカイラがエミを指差す。


「こ、これは、あれよ、ファッションよ。ちょっと痛い子なの、アタシ」


「本当に痛い子は痛いという自覚がないでゴザル!」


「説得力があるね……」


「ああん⁉」


 リンファの呟きにカイラが振り返る。リンファはくわえたタバコに火を付ける。


「リンファ姐! 呑気にタバコなんか吸ってる場合じゃ……!」


「逆だよ、馬鹿。周りを見てみな」


「え⁉」


 克洋が周囲を見回すと、多くのロボット兵とそれらを引き連れた人間の警備兵が克洋たちを取り囲んでいる。警備兵の一人が告げる。


「侵入者ども! お前らは完全に包囲されている! 大人しく投降しろ!」


「お、お決まりのセリフがキター!」


「喜んでいる場合じゃないでしょ!」


 カイラに対し、エミが突っ込む。


「ど、どうする⁉」


「……アンタはどうしたいんだよ?」


 克洋にリンファが問い返す。克洋が答える。


「亜希を助けたい!」


「じゃあ、やることは一つだろ……」


「ごちゃごちゃやかましいぞ! 制圧されたいのか! ロボット兵、用意……⁉」


 警備兵が手を挙げた瞬間、周りのロボット兵が銃撃を食らって倒れる。


「……包囲網を突破する」


 銃を構えながらリンファが呟く。警備兵が叫ぶ。


「て、抵抗の意思あり! 制圧を許可する!」


 ロボット兵が動き出す。リンファがエミに話しかける。


「数が多い。無駄撃ちは避けたい。しがない山賊ちゃん、さっきの火、お願い出来る?」


「だ、誰がしがない山賊よ! アタシは誇り高き魔族よ! あ……」


 エミが口を抑える。リンファがため息交じりで促す。


「……別にどっちでもいいからさ、早くしてくれる?」


「ええい!」


 エミが両手を掲げると、両手から火の玉が無数に飛び出し、多くのロボット兵を燃やす。


「おおっ! さながら『ファイヤーボール』でゴザルね⁉」


「ダサいネーミング止めてよ! 『ファイヤーボム』よ!」


「いや、大体同じようなもんでゴザロウ⁉」


 エミの答えにカイラが戸惑う。リンファが声を上げる。


「包囲陣形が崩れた! 突破するよ!」


「くっ、そうはさせん!」


「がはっ⁉」


 バイクを走らせたリンファに小型のロボット兵が蹴りを喰らわす。リンファは転倒する。


「リンファ姐!」


「はっ! 新型ロボット兵のスピードはどうだ⁉」


「スピード勝負ならば分があるでゴザル!」


 カイラが新型に迫る。


「!」


「ぐはっ!」


 新型が素早く弾を発射し、カイラの腹部、さらに両手両脚に命中させる。


「ははっ! 新型の銃撃テクニックはどうだ⁉ ゴム弾でも当たると痛いだろう⁉」


「弾を何発出そうが、魔術で圧倒する!」


「‼」


「ごはっ⁉」


 新型はエミとの距離をスピードであっという間に詰める。エミも反応し、防御バリアのようなものを展開するが、新型はそれごと殴り飛ばしてみせる。


「はははっ! 新型のパワーはどうだ⁉」


「皆! くっ……」


 克洋が唇を噛む。


「さあ、これ以上、無駄な抵抗は止せ!」


「なめんなよ!」


「やるか⁉ 新型、男には手加減不要だ!」


「……!」


 新型が弾を発射する。


「はあっ!」


 剣士のような姿になった克洋が日本刀を振るって、無数の弾を切り落とす。


「なっ⁉ ど、どこから刀を⁉ スピードで圧倒しろ!」


「……‼」


「遅えよ! はああっ!」


 今度は忍者のような姿になった克洋が手裏剣を投げ、新型の両脚に突き刺す。


「移動力が削がれた⁉ ならば、パワー勝負だ!」


「はあああっ!」


「⁉」


 お次は力士のような姿になった克洋が強烈な張り手を繰り出し、新型を破壊する。


「ば、馬鹿な……な、なんだ、あのガキは……」


「様々な者に自らをなぞらえさせる『擬賊ぎぞく』の力、興味深いな……」


「け、敬礼!」


 突如現れたスーツ姿で、白髪交じりの黒髪オールバックの男性に警備兵たちが敬礼する。


「……島田克洋君だね?」


「誰だよ、おっさん……?」


 元の姿に戻った克洋が尋ねる。


「まあ、それは追々話す……単刀直入に言おう。その三名の女性とともに、東京特別区の管轄下に入ってもらいたい。無論ただとは言わない。ギャラも払う。さらに君の妹さんの身の安全、並びに進学などについても便宜をはかろう」


「……分かった。良いよな、三人とも?」


「ここは従うのが賢い判断のようね」


「オッケーでゴザル……」


「やむを得ないね……」


「……オイラたちの力、貸してやるよ!」


 克洋が両手を大きく広げて叫ぶ。


――これはあり得るかもしれない未来の日本の話――


 日本は十の道州と二つの特別区に別れた。


 二つの特別区の内の一つ、東京特別区は23区のほぼ全てを空に浮かべるという荒業で、防御体勢を構築した。富と権力をさらに集中させることによって、勢力の増強には成功した。


 だが、負の側面も当然ある。『下界』の誕生がそれである。貧困層主体の下界の治安悪化は大きな問題となった。その問題を解決すべく、いわゆる『上級国民』たちは様々な施策を打つこととなった。その施策の一つには、戦力強化という命題も込められていた……。


 その男はエネルギーを有り余らせている。


 ただし、粗暴というわけではなく、家族、仲間思いである。


 様々な姿に自らをなぞらえさせることが出来る。


 陸海空兼用の愛するバイクに跨る。


天下御免てんかごめん大義賊だいぎぞく


 島田克洋しまだかつひろ


 大都会東京の夜空を疾走する。


 最後に笑うのは誰だ。

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