第2話(4)女帝、宣言
「あ、あいつは⁉」
「ティラノサウルスか⁉」
驚くイロの横でダテが問う。その問いに助手は答える。
「『ギガノトサウルス』です!」
「なぜ入ってきた⁉」
「そ、装置の誤作動で! 閣下、主任! に、逃げて下さい! はっ⁉」
助手の呼びかけよりも早く、ギガノトサウルスが動き出す。
「や、やべえぞ!」
「行くぞ! イロ!」
「ああ!」
ダテとイロが実験場に駆け込む。その時既にギガノトサウルスが女性たちに迫っていた。
「くっ、僕の念力は連続での使用は難しい……!」
「閣下! マル!」
「あ~問題ない!」
「!」
女性が高く飛び、ギガノトサウルスの頭上あたりにまで到達する。
「スピード、テクニック、サイキック……どれも悪くはねえが……結局!」
「‼」
「最後に物を言うのはこれだぜ!」
「⁉」
女性がいつの間にか取り出した棍棒――薄着の恰好のどこに入れていたのか――を取り出して、ギガノトサウルスを殴りつける。次の瞬間、ギガノトサウルスは地面にその頭と体をめり込ませていた。女性が着地して一言。
「パワーだ!」
「す、すげえな……」
「ええ、規格外です……」
イロとマルが感嘆とする。
「……これが我々を惹き付けてやまない、エカテリーナ
ダテが思わず呟く。エカテリーナは三人を見て笑顔で話す。
「まあ、長所ってもんはそれぞれだ」
「は、はい……」
「イロ、あのスピードは目を見張るものがあったぜ」
「あ、ありがとうございます……」
「ダテ、あの銃撃テクニックをどんどん磨け」
「は、はい、精進します……」
「マル、念力の使い方をもうちょっと工夫してみろ」
「え、ええ……」
「まあ、そんなとこだな、お前らが相変わらず頼りになるということが分かって良かったぜ」
「も、もったいないお言葉です……」
イロが頭を下げる。
「さてと……」
エカテリーナがギガノトサウルスの顔面にドカッと座る。マルが慌てる。
「あ、危ないですよ!」
「大丈夫、気を失っている。それよりもよ……」
エカテリーナが左手で頬杖をつきながら、右手を掲げる。三人はその場に跪く。
「はっ……」
「今後の方針を説明するぜ」
「はい」
「新潟県の部隊に山形県か福島県を攻めさせろ。どちらか守備が手薄な方で良い。その辺は現場の判断に任せる」
「分かりました」
イロが頷く。
「山梨県の部隊には静岡県を攻めさせろ、富士山も取っちまえ」
「はっ」
ダテが頷く。
「長野県の部隊には引き続き、関東方面へ侵攻させろ」
「かしこまりました」
イロが再び頷く。
「福井県の部隊にも、引き続き滋賀県への侵攻を継続させろ、琵琶湖の景色を見てみたい」
「は、はい……お言葉ですが、閣下!」
「なんだよ、マル?」
「そ、そうなると、四方面同時作戦となりますが、さすがに戦線を拡大し過ぎでは⁉」
「ふふっ……」
エカテリーナが笑う。マルが戸惑う。
「な、なにをお笑いに……?」
「いや、話は最後まで聞けよ」
「え?」
エカテリーナが指を一本立てる。
「……もう一つだ、五方面同時作戦だ!」
エカテリーナが右手の指を全て広げる。
「ええっ⁉ そ、それはあまりにも……」
「おいおい、忘れたのか、マル。あいつらの大量生産に成功したんだろうが……」
「! そ、そうでした……」
「待望の機動力が手に入った。そして……」
「そ、そして……」
「正気の沙汰とは思えない多方面の同時作戦展開……周りはワタシの気が狂ったのだとでも思うだろう……その油断を突く!」
「……っ!」
「気が付けば、あっという間にこの国の半分がワタシのものになるって寸法だ……」
「な、なんと……」
エカテリーナは静かに立ち上がり、棍棒を掲げて叫ぶ。
「この混沌とした世をさらなる混沌でもって支配してやる! お前ら、ワタシについてこい! 新しい景色を見せてやる!」
「う、うおおっ!」
ダテたちはつられて、手を突き上げて叫ぶ。この圧倒的な強さを持つエカテリーナについていけば、どんな無謀なことも可能になるのではないか。ダテは心からそう思った。
「しかし……」
眼鏡の種類だけで認識するのは止めて欲しい。いい加減名前を覚えて欲しいとも思った。
――これはあり得るかもしれない未来の日本の話――
日本は十の道州と二つの特別区に別れた。
十の道州の内の一つ、北陸甲信越州には恐竜が突然現れた。人々はパニック状態になりかけたが、窮地に追い込まれた者の強さか、恐竜たちを自分たちに従えさせることに成功した。
巨大な生物兵器とも言える恐竜の出現は外に対しては大きな衝撃を、内に対しては大いなる希望をもたらした。
時をほぼ同じくして、圧倒的なカリスマ性を持った女性が突然現れた。敵対する者はその強さを恐れ、味方する者はその美貌を敬った。その女性が州のトップの座に君臨することに時間はそうかからなかった。
金髪碧眼の女性は圧倒的なまでの強さを誇る。
細腕で振るう棍棒は地割れをも起こせるほどだ。
余談だが極度の眼鏡男子フェチである。余談だが。
強さと美貌、カリスマをカリスマたらしめるには十分過ぎるほどであった。
『
エカテリーナ
北陸の地でかつての支配者たちを従え咆哮を上げる。
最後に笑うのは誰だ。
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