第10話(1)仁義なきオーディション

                  拾


「う~ん……」


 中国州の都市、広島の街中にあるビルの一室で、スキンヘッドに派手なメイクをして、大柄かつ屈強な肉体をノースリーブとロングスカートで包んだ男性が腕を組んでいた。


「い、いかがでしょうか、レオナルドひのき先生……?」


 スーツ姿の男性が汗を拭きながら問う。レオナルドと呼ばれた男性が口を開く。


「……今のところは全部外れね」


「ぜ、全部外れですか……」


「そう、外れも外れ、大外れよ」


 レオナルドは持っていた端末をテーブルにドカッと置く。


「お、大外れ……」


「州都の『山京さんきょう』に連れて行きたくなるほどの人材は見当たらないわね」


「そ、そうですか……」


「そうよ、大都会岡山なのだから……そこで活動するには、並大抵の子じゃ困るのよ」


「ここ広島を中心に、若者などにちょっと話題の存在を集めてみたのですが……」


 男性は再び汗を拭う。レオナルドが苦笑する。


「ちょっと話題とかじゃあダメなのよ」


「ダ、ダメですか……」


 レオナルドは立ち上がり大げさに右手を掲げる。


「求めているのは抜群のスター性!」


「ば、抜群……」


 レオナルドは右手を下げ、左手を掲げる。


「そして、類を見ないタレント性!」


「る、類を見ない……」


 レオナルドは一旦左手を下げ、両手を掲げる。


「さらに圧倒的なまでのカリスマ性!」


「あ、圧倒的な……」


「……他にも求めていることはあるのだけど……」


「え?」


「いいえ、なんでもないわ」


 レオナルドが首を振って、席に座る。


「はあ……」


「ふう……どうやら今回のオーディションは空振りだったようね……」


 レオナルドがテーブルに頬杖をつき、ため息交じりで呟く。


「ちょ、ちょっとお待ち下さい!」


「ん?」


「まだ五組ほど残っています! それらを見てからでも判断は遅くないはずです!」


「五組?」


「ええ、二組ほど遅れておりますが!」


「既に遅いじゃないの……」


 レオナルドが呆れる。


「と、とにかく見て下さい!」


「分かったわよ……」


 レオナルドが一応姿勢を正す。


「よろしいのですね?」


「いいわよ……それじゃあ次の方どうぞ」


「はい!」


 あまり綺麗とは言えない身なりの男性三人組が入ってくる。


「ふむ……」


「よろしくお願いします!」


 男性たちが頭を下げる。


「細かいことは良いわ、パフォーマンスをどうぞ」


 男性たちの中で最も太っている男性が手を挙げる。


「はい! 自分は『平和』を愛する者です! 今から矢を三本同時に折ります!」


「平和を愛しているからね、武器は要らないわよね」


 レオナルドが相槌を打つ。


「そうです! 見ていて下さい! うおおっ! お、折れない……」


 男性たちの中で最も痩せている男性が太っている男性を小突く。


「お前な、そういうのはまず一本、二本と折ってからやるんだよ!」


「ネタフリとしてはそうね」


「そうです! 自分は『正義』を愛する者なので! 曲がったことが許せないんです!」


 痩せている男性がレオナルドに応える。太っている男性が矢を二本置く。


「それではまず、一本から! ……お、折れない!」


「そもそも非力じゃねえか! ……はい!」


 瘦せている男性が太っている男性の頭を叩き、レオナルドを見る。レオナルドは戸惑う。


「こ、ここにきて、お笑い志望とは……聞きたいことがあるのだけど?」


「はい! なんでしょう⁉」


「……彼は?」


 レオナルドが三人の中で中肉中背の男性を指差す。瘦せている男性が答える。


「はい、こいつは『自由』を愛する者なので、自由に振る舞っています!」


「ボケ、ツッコミ、フリーマンって組み合わせは斬新にも程があるのよ! もういいわ!」


「そ、そんな……」


「とにかく控室に戻って! ……次の方どうぞ」


「は~い♡」


 それぞれギターを抱えたビキニ姿の女性二人組が入ってくる。レオナルドが促す。


「パフォーマンスをどうぞ……」


「はい♡ ラララ~♪」


「ヘイ! ヘイ! ヘイ!」


 片方の女性が歌いながら横に揺れ、もう片方の女性が手拍子しながら縦に揺れる。レオナルドが思わず立ち上がる。


「いや、ギター弾かないんかい!」


「あ、前奏代わりです。五分ほど」


「長いわね!」


「結構皆さんの注目は集められますよ」


「それは違う部分に注目しているんじゃないの?」


 レオナルドが女性たちの揺れる胸を見ながら呆れ気味に尋ねる。


「私たちは『夢』と『希望』を愛する者なので……」


「ある意味夢と希望ではあるわね……もういいわ、控室に戻ってちょうだい」


「あ、は、はい……」


「次の方どうぞ」


「イエーイ‼」


 白黒のタイツに身を包んだ男性が部屋に元気よく入ってくる。レオナルドが呟く。


「パフォーマンスをどうぞ……」


「はい! アイラブユーからの~」


 男性が両手でハートマークを作り、レオナルドに向かって突き出す。


「……」


「ユーラブミー~」


 男性がハートマークをゆっくりと自分の胸元に戻す。レオナルドが声を上げる。


「何よそれ!」


「『愛』のキャッチボールです」


「それはもはや壁当てよ! もういいわ! 控室に戻ってちょうだい!」


「は、は~い……」


「はあ……次の方どうぞ……って、遅刻してるんだっけ?」


「いや、来たようです……」


「……失礼します」


 楽器を持った若い女性三人組が入ってくる。

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