第10話(2)何のために

「……スリーピースバンド……」


「えっと、ウチらは……」


 セミロングの髪をレインボーカラーに染めた派手な女の子が口を開く。レオナルドが右手を左右に大きく振る。


「ああ、そういうのいいからいいから」


「え?」


「時間がもったいないの。さっさと準備して」


「あ、はい……」


 レオナルドの言葉に虹色の頭の女の子が頷き、楽器を取り出す。三人組はセッティングを手際よく終える。男性が問う。


「……準備はいいかな?」


「はい、いつでもいいです」


「先生……」


 男性がレオナルドに視線を向ける。レオナルドが頷く。


「どうぞ、始めて下さい」


「はい……」


 虹色の頭の女の子はベースを手に頷き、後方のドラムに目配せする。ドラムがスティックを鳴らし、カウントを取る。


「ワン、ツー……ワン、ツー、スリー、フォー!」


「~~~~♪」


「!」


 演奏が始まると、レオナルドの顔つきが変わる。椅子の背もたれに寄りかかっていたが、すぐに前のめりの体勢になる。


「~♪」


「ふむ……あのギター……」


 レオナルドがギターを弾くロリータファッションに身を包んだ小柄なツインテールの女の子を見る。


「~~♪ ~♪」


「情熱的に、それでいて冷静にメロディーを奏でているわね……」


「~~♪」


「あのドラム……」


 レオナルドが今度はドラムを叩く、ライダースジャケットを着た大柄なポニーテールの女の子に視線を移す。


「~! ~~‼」


「力強くそれでいて正確なドラミングね、リズムをよく支えているわ……」


「~~~♪」


「そして、あのベース&ボーカル……」


 レオナルドが、虹色の頭をした、ラフなファッションの女の子に視線をやる。


「~~♪ ~~~♪」


「非常にテクニカルな演奏、極めて高い歌唱力……さらになんといってもあの圧倒的なまでのカリスマ性! バンドを文字通り牽引しているわね……」


「~~~♪ ~~~‼」


 演奏が終了した。レオナルドが立ち上がって拍手する。


「……良かったわ」


「……ありがとうございます」


 三人の女の子が頭を下げる。レオナルドが席に座り直し、口を開く。


「……とりあえずバンド名を聞いてもいいかしら?」


「(仮)です」


「(仮)?」


「はい」


「それはどういう意味?」


「完成形ではなく、常により良い形を追求していこうという意味を込めています」


「ふ~ん……」


「バンド名を考えるのが面倒だったわけではありません」


「ふっ……お名前をそれぞれ伺おうかしらね……そこのロリータの子」


「あ、は、はい……ギターの犬童蜜いんどうみつです……」


「ライダースの子」


「はい、ドラムをやっています、灰冠純はいかぶりじゅんです」


「派手な頭の子」


「ベースとボーカルやってます、虹乃光にじのひかりっす」


「ふむ……あらためて言うけど、良いパフォーマンスだったわ」


「ありがとうございます」


 光が頭を下げる。


「聞きたいことがあるのだけど……」


「なんでしょうか?」


「『平和』、『正義』、『自由』という言葉について思うことは?」


「嘘くさい……」


 蜜がボソッと口にする。レオナルドが続ける。


「それでは、『夢』、『希望』という言葉は?」


「インチキ臭いですね」


 純がはっきりと答える。レオナルドがさらに続ける。


「それでは……『愛』は?」


「偽物っす」


 光が即答する。レオナルドが顎をさすりながら尋ねる。


「音楽をやっている子たちは、大体『愛』と『平和』を願うものだけど……」


「ウチらはそういうの興味ありません」


「なんで?」


「音楽で世の中良くなるなら、とっくになっているはずじゃないっすか」


「ふむ……では、貴女たちは何の為に音楽をやっているの? ロリータちゃん?」


 レオナルドが蜜に尋ねる。蜜が首を傾げながら答える。


「う~ん、お金の為?」


「え?」


「美容とかファッションとか何かとお金がかかるし……」


「ライダースちゃんは?」


 レオナルドが純に問う。純が答える。


「同じくお金の為です」


「ほう……」


「単車の維持費も馬鹿にならないので……」


「それじゃあ、派手頭ちゃんは?」


「派手な頭はアンタもだろ……」


 光が小声で呟く。レオナルドが首を傾げる。


「ん?」


「いや、なんでもないっす……」


「何のために音楽を?」


「金の為っす」


「へえ……何に使うの?」


「もちろん、自分自身を満足させるためっす」


「ふむ……」


 レオナルドが笑みを浮かべる。光が尋ねる。


「……どうでしょうか?」


「気に入ったわ。欲望に忠実なところは大変結構……」


「それじゃあ……」


「う~ん、不合格ね」


「ええっ⁉」


 レオナルドの言葉に光たちが驚く。

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