第3話(3)天狗との激闘

「だから言っただろうが!」


「お堂で賑と一緒だと思ったんですよ!」


 法慶に対し、十市は言い返す。


「う~ん、お堂にいると思ったんだけど、いなかったよ」


 賑は呑気に呟く。


「俺たちも撒いたのか⁉ どこまで自由人なんだよ!」


 十市が髪をかきむしる。


「落ち着け、十市」


「これが落ち着いていられますか!」


「賑の“力”があるだろう」


「あ!」


 法慶の言葉に十市はハッとなる。二人は賑を見る。賑は首を傾げる。


「うん?」


「いや、お前さんの持っているあの不思議な力があるだろう? あれで、御曹司の行方を追ってくれないか?」


「え~といっちゃん、あの力使うと半端なく疲れるから嫌なんだよね~」


「そ、そんなこと言っている場合か!」


「あくまで奥の手っていうか……」


「今まさにそれを使うべき時なんだよ!」


「まあ、待て、十市……」


 法慶が十市を宥める。


「なんでアンタが落ち着いているんだよ!」


「慌てていたり、イライラしている者を見ると、冷静になるものだ」


「さっきまであんなにイライラしていたくせに!」


「拙僧に当たるな……賑よ」


「なに? お坊さん」


「五感を研ぎ澄ます方はどうだ?」


「ああ、それなら消耗は少ないけど……」


「それでは頼む」


「いいけど、でも……」


「でも?」


「こんな山の中だと変な臭い嗅いじゃいそうで嫌だな~」


「嗅覚はいい。視覚か聴覚を研ぎ澄ませ」


「あ~なるほど、さすがお坊さん、頭良いね~」


「早くしろ」


「はいはい……あ~なるほどね~」


「なにがなるほどなんだ?」


「御曹司はどこだよ?」


「いや~なんか、囲まれているよ、あたしら」


「⁉」


 法慶たちが周囲を見回してみると、森林から山伏姿をした天狗たちが大量にその姿をあらわした。十市が戸惑う。


「こ、こいつら、いつの間に⁉」


「……何者だ?」


「う~ん、敵かな」


「……それも五感を研ぎ澄ました末の答えか?」


「いや、女の勘」


 法慶の問いに賑は笑う。


「……」


 天狗たちが徐々に包囲を狭めてくる。十市が法慶に尋ねる。


「法慶さん、どうする?」


「……この包囲網を突破して、御曹司と合流するぞ」


「分かった!」


「了解~」


 十市と賑がそれぞれ別の方向に向かって走り出す。法慶が慌てる。


「お、おい! 分散するな! ったく! 仕方がない!」


 法慶が背中に背負っていた薙刀を構える。


「………」


 法慶に数人の天狗が迫る。


「生け捕りにして目的を吐かせたいところだが、そんな余裕はなさそうだな……加減なしでいかせてもらう!」


「……!」


 法慶の大きな体がさらに大きくなる。法慶は薙刀を振り下ろす。


「うおおおっ!」


「!」


 法慶の振るった薙刀が地面を砕き、砕かれた土塊が飛び散って、天狗たちに当たる。予期せぬ攻撃を喰らった天狗たちはたまらず倒れる。


「ふん! この法慶の首をそう簡単に取れると思うなよ!」


「! ……」


 残っていた天狗たちが距離を取り始める。


「来ないのか? ならばこちらから仕掛ける!」


 法慶が薙刀を振りかざしながら突っ込む。


「おっと……さっさと逃げようと思われたら、囲まれたよ……」


 十市を天狗が包囲する。


「………」


「俺の得物ってこれなんだよ」


 十市が弓矢を取り出して天狗たちに見せる。


「…………」


「だから戦うならさ、距離を取ってくれるとありがたいんだけどな~」


「……………」


 天狗たちがどんどんと包囲を狭める。十市が苦笑する。


「まあ、言うこと聞いてくれるわけないか……」


「………!」


 天狗たちは十市が視線をわずかに逸らした隙を突いて、一斉に飛びかかる。しかし、短刀を突き立てた先には十市の姿は無かった。天狗たちが驚いて周りを見回す。


「あれ? おかしいな~」


「⁉」


 少し離れたところに立っていた天狗が次々と矢を放つ。矢を受けた天狗たちが倒れ込む。


「ふふっ、まんまと引っかかったな……」


 天狗の姿から元の姿に戻った十市が笑う。


「う~ん、囲まれちゃった……」


 賑が首を捻る。天狗たちが迫る。


「………………」


「ねえ、見逃してくれない?」


「…………………」


「無視? 感じ悪いな~」


「……………………」


「しょうがないなあ~よっと!」


「‼」


 賑は華麗な舞を踊るようにして天狗の包囲をすり抜ける。天狗たちは崩れ落ちる。交差した際に賑の繰り出した拳や蹴りを急所に喰らったからである。


「……舐められたものだよね~」


 賑は振り返って倒れ込む天狗たちを見て笑う。


「……‼」


「んえっ⁉」


 賑は驚く。残っていた天狗たちが重なり合って、一体の大きな天狗になったからである。


「そ、そんなのありかよ……」


 十市は頭を抱える。

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