第8話(3)言の葉を振るう
「ひいっ!」
「おらっ!」
「がはっ!」
「うわあ!」
「おらおらっ!」
「ぐはっ!」
「うおっ!」
「おらおらおらっ!」
「ごはっ!」
素子が次々と男たちを薙ぎ倒す。
「ぐっ……」
「……こいつらも香川の連中か、さっきの真海ちゃんに比べると情けないねえ……」
「……」
「あれ? もしかしてくたばった?」
「ううっ……」
「いや、大丈夫か、やっちゃダメってのも逆にメンドイもんだなあ……」
素子は頭をポリポリと掻く。
「~~~」
「!」
死角からなにやら声が聞こえたため、素子は飛び上がってそちらに顔を向ける。
「ほう……」
巫女装束に身を包んだ小柄な女性が現れる。青みがかった黒い長髪が印象的である。
「誰?」
「ふふっ……」
「迷子……ってわけじゃないだろうね。こんな辺鄙な島に巫女さんが常駐するほどの神社があるわけじゃないし……」
「ふふふっ……」
「いや、だから誰よ?」
「問うならば まず己から 名乗るべし」
「え?」
素子が女性の口調に戸惑う。
「問うならば」
「ああ、分かった、分かった、アタシは麦宿素子だよ」
「わたくしは
「ふ、ふ~ん……識ちゃんも参加者ってことで良いのかな?」
「………」
識と名乗った女性は無言で頷く。
「そっか、参ったな……」
「?」
素子の発言に識は首を傾げる。素子はわざとらしく両手を広げる。
「武器も持っていない小柄な巫女さんを倒したら弱いものいじめだと思われちゃうからね」
「その言葉 そっくりそのまま お返しす」
「あん⁉」
「…………」
識がにっこりと微笑む。素子が顔を引きつらせる。
「へ、へえ、かわいい顔して言ってくれんじゃん……」
「ふっ……」
「笑ってやれないようにしてやるよ!」
素子が識に向かって殴りかかる。
「その拳 己が身に ぶち当たる」
「あっ⁉ ぐおっ⁉」
識が文言を唱えたかと思うと、素子は自分で自分の体を殴ってしまい、悶絶する。
「その力 自分痛める 皮肉かな」
「う、うるさいな! 訳分かんねえ喋り方して!」
素子が立ち上がり、再び識に飛びかかろうとする。
「天地逆 あらま地面と ごっつんこ」
「のあっ⁉ どおっ⁉」
識が再び唱えると、素子の体が逆さまになり、地面に落下して頭を打つ。識は指折り確認してから呟く。
「……字足らず」
「く、くそっ!」
「またも立つ 思う以上の タフさかな」
「だからその口調をやめなって! 調子が狂うから!」
「それならば こちら側から 攻撃す」
「なにっ⁉」
「指弾く その刹那に 爆発す」
識が指をパチンと弾くと、素子の体が爆発する。
「ぐはっ⁉」
素子は堪らず片膝をつく。
「まだよまだ 追いの攻めをば 喰らいあれ」
「‼」
「石礫 四方八方と 襲い来る」
「どわっ⁉」
周囲の地面に転がる無数の石が素子に向かって飛ぶ。素子はそれらをかわすことが出来ず、石の礫を体中に受けてしまう。素子が両膝をつく。
「ここまでか 降参するを おすすめす」
「じょ、冗談も休み休み言いなって……」
素子が笑みを浮かべる。識が一瞬悲しそうな顔をして頷く。
「了解す 倒れ込むまで 追い込むか」
「よ、ようやく分かった……!」
素子が識をビシっと指差す。
「!」
「俳句を詠んでいるのかと思ったら、それが識ちゃんの攻撃方法なんだね……言葉が実現する……いやはやなんとも不可思議な術だ……」
「訂正す 俳句ではなく 川柳と」
「こ、細かいことはこの際良いじゃないの……」
「そのことは わたくしもまた そう思う」
識がうんうんと頷く。素子が苦笑する。
「ふん……」
「言の葉を 刃に変えて 飛ばすかな」
「⁉ がはっ……!」
識の開いた口から斬撃が飛び、素子の体を斬りつける。防御しきれなかった素子はついにうつ伏せに倒れ込む。
「胸痛む 心虚しき 勝利かな」
識は胸を抑えて悲しそうに呟く。
「ちっ、借りを返そうと思ったら、先を越されたか……」
「‼」
識が顔を向けると、そこには真海が立っていた。
「その不可思議な術……なるほど、お前が愛媛県勢の本命というわけか……」
「……わたくしは 冬口識と 申します」
「これはこれはご丁寧に……自分は天空真海だ」
真海が刀を抜いて構える。識が手のひらを前に突き出す。
「お待ちあれ お体かなり 傷目立つ」
「心配するな。これくらい、唾を付けておけば治る」
「……手加減を 出来ぬ性分 ご理解を」
「問題ない……」
真海と識が向かい合う。
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