第5話(3)伸ばしていこう

「……」


「………」


「…………」


「いや、どこまで歩かせんねん! おっさん」


 金髪の少年が声を上げる。


「おっさんちゃう、先生や」


 無双が振り返って訂正する。


「……先生よ、学校行くんちゃうんか?」


「学校行くの気が進まんのやろ? 君ら」


「む……」


 無双が赤スカーフの少年の方を見て声をかける。少年が眉をひそめる。


「せやろ?」


「ウザ……」


 無双が青メッシュの少女にも声をかける。少女は露骨に顔をしかめる。


「そういうわけで、特別課外授業や」


「特別?」


「そう……ここや」


 無双が指し示した先には工事中の大きめなビルが建っている。金髪が首を傾げる。


「ここがなんやねん?」


「感じひんか?」


「え?」


「このビルに、ごっつい妖怪が潜んでいるのよ……」


「「「!」」」


「そのごっつい妖怪を祓ってしまおう!と、本日はそういう授業です」


「ごっつい妖怪……」


「そうやねん」


「それはどれくらいごっついんですか?」


「それはもう、かなりごっついよ」


「答えになってないですよ」


 赤スカーフの少年が苦笑する。


「分かりやすく言えば……『きのえ組』か『きのと組』が対処するケースやね」


「! いやいや、そんなん絶対アカンやん!」


 少女が動揺する。無双がビルを見上げながら、淡々と告げる。


「アカンけど、君らにやってもらうしかない……」


「なんでやねん!」


「落ちこぼれのままで終わってええんか?」


「「「‼」」」


 無双の言葉に三人の顔が変わる。


「ええわけないよね? みんな家族や親戚、友人や知人の期待を背負ってこの大阪、水京まで出てきたんや、落第しましたでは故郷に恥ずかしくて帰られへんやろう」


「そ、それは……」


「そうやけど……」


「だからって、本来なら甲や乙が当たる任務にオレらが当たったところで……」


「なんや、揃いも揃ってビビってんのか?」


 無双が笑みを浮かべながら、金髪の少年に問う。


「ビビってへんわ! 現実を冷静に分析しているまでや!」


「気が合うね」


 無双が金髪の少年をビシっと指差す。少年が戸惑う。


「な、なにがや……」


「わても分析を進めていたんよ……その結果」


「結果?」


「君ら癸組でも十分倒せると踏んだ!」


「ホ、ホンマかいな……」


「ホンマや さあ、まず一階から攻略やで」


 無双は三人を連れて、建設中のビルに入る。


「マジか……」


「うおっ!」


「きゃっ!」


「え? ど、どうした二人とも⁉」


「な、なんか糸に体を巻きとられた……」


「あいつの仕業や……」


「うおっ⁉」


 無双の示した先に地面を這う大きな土蜘蛛の姿があった。赤スカーフの少年が驚く。


「あの糸が厄介やな、なんとかせんと」


「そう言われても……学校で教わった『五行』の術はどれも満足に使えへん。……」


「ほんなら、馬鹿正直に五行の理にこだわらなくてええんちゃう?」


「ええ?」


「『木』、『火』、『土』、『金』、『水』……それすら生かすこともあれば、剋すものは?」


「! そうか……はああ!」


「!」


 赤スカーフの少年が両手で印を結ぶと、鋭い風が発生し、斬撃が土蜘蛛を切り裂いた。無双がうんうんと頷く。


「そういうことや、赤山八綺あかやまやつきくん……」


「えっと……」


「君の家は確か……」


「『慈英賀じえいが』流忍術です。伊賀のIでもなく、甲賀のKでもありません。Jです!」


「まあそれはともかく、スピードある忍術と『風』の術、相性がいい、伸ばしていこう!」


「は、はい!」


「それじゃあ、上の階に行こうか……」


「! こ、これは……河童?」


「屋内プールを河童がすっかり占拠してしまっているね、さあ、どうする?」


 無双が少女に尋ねる。


「え? ウ、ウチ……?」


「五行を全て剋すことが君には出来るはずや……」


「! これや! はああ!」


 少女は両手で印を結ぶと、指先から氷の弾丸が飛び出し、プールごと河童を凍らせてしまう。無双が満足そうに頷く。


「そう、青野百羅あおのゆらさん……君の射撃テクニックと『氷』の術、相性がいい。伸ばしていこう!」


「あ、はい!」


「それじゃあ、屋上に行こうか……」


「! こ、これは……小豆洗い?」


「まだ少し弱そうではあるけどね……ここで力を蓄えられると厄介やな、どうする?」


「ど、どうするってオレ?」


「五行全てを吹っ飛ばすことが君には出来るはずや……」


「! これか! うおお!」


 少年は両手で印を結ぶと、空から雷を落とし、小豆洗いに当てる。小豆洗いはあえなく倒れる。無双は力強く頷く。


「そうや、黄川万星きがわばんせいくん……君のパワーと『雷』の術、相性がいい。伸ばしていこう!」


「おやじさん……」


「おじさん……」


「お、おっさん……」


「せやから先生やろって言うてんねん……ん?」


 妙な気配を感じ、無双が振り返る。

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