第12話(4)その少年、魔王につき

「おい、急げよ!」


「分かっている!」


 太ったモヒカンヘアーの男に対し、痩身のアフロヘアーの男が言い返す。


「もたもたしていると警備の兵が来るぞ!」


「だから分かっている!」


「お前ら、落ち着け! 騒ぐんじゃねえ!」


「お前こそ落ち着け! 大声を出すなよ!」


「なんだよ⁉」


「やんのか⁉」


 小柄なドレッドヘアーの男と長身のロングヘアーの男が睨み合う。


「……お前ら、いいから早くしてくれないか」


 店の外で見張り役をしていたスキンヘッドの男が店の中に呆れ気味に声をかける。


「オッケー!」


「分かったぜ!」


「ラジャ―!」


「任せてくれ!」


 4人の男性が元気よく返事する。


「だから静かにしろっての……なんでこいつらなんかと組まなきゃならねえんだか……これが終わったらどうにかして抜けるか……」


「あ、あの……」


「うん?」


 スキンヘッドが声のした方を見ると、立派な着物に身を包んだ小柄な少年が立っていた。「ぬ、盗みはよくありませんよ……」


「ああん⁉」


「ひっ……」


 スキンヘッドに凄まれ、少年は怯む。


「なんだてめえは……身なりはやけに良いな。どこかのお坊ちゃんか?」


「え、えっと……」


「お偉いさんの息子か? 拉致っちまうか……」


「えっ⁉」


「いや、リスクが大きいな……気が進まねえが、バラしちまうか……」


「ええっ⁉」


「馬鹿野郎、大声を出すなよ、おいお前ら、作業は一旦中断だ……!」


 4人が店の外にぞろぞろと出てくる。


「どうかしたんすか? うん?」


「ガキに見られた、始末しろ」


「ええっ、嫌だな~」


「やったやつには特別ボーナスを出す……」


「乗った!」


 太ったモヒカンがナイフを取り出す。それを見た少年が怯える。


「ひ、ひいっ……」


「へへっ、悪く思うな……よっ!」


「わあっ!」


「だはっ⁉」


 少年が瞬きをしたかと思うと、太ったモヒカンが吹っ飛び、動かなくなる。


「ブラザー! てめえ、何しやがった⁉」


 逆上した痩身のアフロがナイフで襲いかかる。


「わわっ!」


「ぢはっ⁉」


 少年が手を叩くと、痩身のアフロが両耳を抑えながら倒れ込む。


「ブラザー‼ おい、このガキ!」


 小柄なドレッドがナイフを手にして襲いかかる。


「ぷはっ!」


「づはっ⁉」


 少年が口を開くと、小柄なドレッドが鼻をつまみながら崩れ落ちる。


「ブラザー⁉ いい加減にしろよ、このガキが!」


 長身のロングヘア―がナイフを持って襲いかかる。


「うわあっ!」


「ではっ⁉」


 少年が自らの体を抱きしめると、長身のロングヘアーが体勢を崩して転ぶ。


「な、なんだ……?」


 スキンヘッドが信じられないと言った様子で目の前の光景を見つめる。


「ひ、ひぃ……」


 転がった4人を見て少年はさらに怯える。その様子を見て、スキンヘッドが怒る。


「い、いや、てめえがやったんだろうが!」


「ご、ごめんなさい!」


「ごめんで済んだら警察は要らねえんだよ!」


 スキンヘッドが銃を取り出す。


「あっ⁉」


「接近するとやべえみてえだからな、これで黙らせる!」


「ま、待って……」


「待たねえよ!」


「べ、べえ!」


「どはっ⁉」


 少年が舌を出したかと思うと、スキンヘッドの体に傷がつく。スキンヘッドは膝をつきながら、銃を発砲しようとする。


「⁉」


「お、終わりだ! 化け物め!」


「……お前が終わりだ」


「‼」


 亜嵐が銃を叩き落とし、蹴りを食らわせて、スキンヘッドを大人しくさせる。


「どうだ? 志摩雄? 他の連中は?」


「……皆、息があります。さすがは上様、なんと慈悲深い……」


「お、お前らは⁉ ってことは、あのガキは……」


「五感にまつわる行動……瞬きだけで人をどうにか出来る魔王様です。それ以外も……」


「夜明、余計なことは言うな……俺だ、N‐6エリアに来てくれ。コソ泥が5人だ……」


「あ、亜嵐、希望、志摩雄……」


「お迎えに上がりました。織田桐修羅おだぎりしゅら様……」


 亜嵐たちが膝をついて、揃って少年に頭を下げる。


――これはあり得るかもしれない未来の日本の話――


 日本は十の道州と二つの特別区に別れた。


 十の道州の内の一つ、東海道は道都である名古屋をほぼ全てを地下に移すことによって、防衛体勢を構築した。軍事力だけでなく、富と権力も集中させて、道政府の増強に成功した。


 もちろん、この政策には反対もあった。しかし、道政府は強力無比な的指導者をトップに据え、反対勢力を半ば強引に黙らせた。逆に、トップの持つ圧倒的なカリスマ性に魅了され、ほぼ無条件に政府に従う者も多かった。トップは何度か代替わりをしたが、カリスマ性は不思議と受け継がれていった。独特な変化を遂げていたが……。


 その少年は極めて臆病である。


 争いを好まない心優しい性格の持ち主である。


 いつも逃げ出そうとしては配下に捕まる。


 鋭敏過ぎる感覚が恐るべき武器となっている。


第六感魔王だいろっかんまおう


 織田桐修羅おだぎりしゅら


 広大な地下街で静かに鳴動する。


 最後に笑うのは誰だ。

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