第11話(1)陸海空兼用
拾壱
深夜、ハイウェイを走る真っ赤なバイクがあった。ヘルメットを着けず、全身を黒いライダースジャケットで包んだ黒髪無造作ヘアーの少年――年頃は17、18くらいであろうか――が規定速度を無視した速度で走る。その少年をヘリコプターが上空からライトで照らす。
「へへっ、ようやく追いついてきやがったか……」
「~~~!」
ヘリコプターから何やら声がする。少年は苦笑する。
「無線の調子を確認してから喋れよ、何を言ってるか分かんねえっての」
「兄貴~!」
「あん⁉」
少年が斜め後ろを振り返ると、バイクに乗った小柄な少年が、物々しいアーマーに身を包んだ者たちが乗る二台のバイクに追いつかれそうになっている。
「やべえ! こいつら速えよ!」
「新型か⁉ くっ、接近に気が付かなかった!」
「捕まっちまうよ~」
小柄な少年が弱音を上げる。少年が声をかける。
「アマ! もっとスピードを上げろ!」
「もうこれ以上は無理だって~」
アマと呼ばれた小柄な少年のバイクを二台のバイクが左右から挟み込もうとする。
「待ってろ!」
少年が急減速し、アマたちの後方まで下がる。そこからすぐさま急加速し、追跡者たちのバイクの間に割って入る。
「……!」
追跡者たちが驚いたように、少年に対して視線を向ける。
「おらあっ!」
「!」
少年がハンドルを掴んだまま、両脚を左右に広げ、追跡者たちのバイクを器用に蹴倒してみせる。倒れた二台のバイクは道路を滑っていき、さらに後方にいた他の追跡者たちのバイクをも巻き込み、転倒させる。
「へへっ、ストライク!」
少年が鼻の頭をこする。
「あ、ありがとう兄貴……でも無茶するな~」
「これくらいなんてことねえよ」
アマに並びかけ、少年は悪戯っぽくウインクする。
「あ、兄さん!」
少年に無線が入る。少年が真面目な顔つきになって応える。
「どうした、ジロー?」
「いや、川沿いのルートを走っていたら、すげえ速いジェットスキーで追ってきやがった!」
「ちっ、ルート分散を読んでいやがったか……アマ、お前はこのまま先に行ってろ、ジローはオイラがなんとかする!」
そう言って、少年はハイウェイから飛び降り、下の道路に降りる。川沿いに目をやると、バイクに乗った太っちょの少年が、川を走るジェットスキーに網で捕まえられそうになっている。太っちょの少年が騒ぐ。
「おいおい! 参っちゃうな!」
「ジロー、待ってろ!」
「あ、兄さん⁉」
少年の乗るバイクがカラーリングを真っ青に変える。少年はバイクを川に躊躇なく突っ込ませる。バイクは水上を凄まじいスピードで走り、ジェットスキーに追いつく。
「……‼」
ジェットスキーを操縦していた者が驚いて振り返る。
「そいつは煮ても焼いても食えねえぞ!」
「‼」
ジェットスキーに並びかけた少年は鋭い裏拳を喰らわせる。ジェットスキーを操縦していた者がバランスを崩し、ジェットスキーは派手に転倒する。少年は肩をすくめる。
「へっ、大したことねえな!」
「た、助かったぜ、兄さん!」
「いいってことよ!」
「きょ、兄弟!」
少年にまた別の無線が入る。少年が即座に応じる。
「どうした、ヒノ⁉」
「ヘリに見つかった! 俺のバイクじゃ追いつかれる!」
「ちっ、そっちのルートにも網を張っていやがったか! 待ってろ! すぐ行く!」
「あ、兄さん……」
「心配すんなジロー、例の場所で合流だ!」
少年はそう言うと、バイクをジャンプさせ、川から大きな道路に移る。そこにはヘリが伸ばしたアームにバイクごと掴まれそうな瘦せ型の少年が見える。瘦せ型の少年が叫ぶ。
「おいおい! そんなのありかよ!」
「へへっ、ヒノ、クレーンゲームの景品になったのか⁉」
「冗談言っている場合じゃねえよ!」
「分かっているよ、オイラに任せろ!」
少年の乗るバイクが今度は真っ白にカラーリングを変える。バイクが空中に浮上し、ヘリに接近する。ヘリを操縦していた者が驚いたように視線を向ける。
「……⁉」
「うおりゃあ!」
「⁉」
少年は斜め後ろからバイクをヘリに突っ込ませる。ヘリは斜めに割れ、地上に落下する。少年が右手の人差し指を突き上げる。
「どうよ⁉」
「助かったよ、兄弟。しかし、相変わらず無茶苦茶するな……」
「ロボットの警備兵相手に遠慮してたら、こっちがやられちまうぜ?」
「まあ、それはそうだが……⁉」
ヘリよりも大きい飛行型のドローンが追いかけてくる。少年は驚きながら指示する。
「うおっ、ヤバそうなのが来たな! ヒノ! ここは俺に任せて先に行ってくれ!」
「わ、分かった!」
ヒノと呼ばれた少年が先を急ぐ。それを見届けた少年はドローンの方に振り返る。
「……狙いはオイラか? しかし、ちょっと手こずりそうだな……」
「! ! !」
「おおっ⁉」
銃声が三度響いたかと思うと、各所を正確に射抜かれた飛行型ドローンはバランスを崩し、地上に落下して爆発する。少年はバイクを地上に着陸させ、周囲や後方を警戒しつつ、猛スピードで走り回り、しばらくしてあるスラム街に到着する。
「……」
その街の一角にある中華料理店の前で、チャイナドレスを着た若い女性がタバコをふかしている。バイクを停めた少年が声をかける。
「リンファ姐! さすがの長距離射撃だったよ。助かったぜ」
「こっちの区画にあのドローンが飛んで来たら迷惑だっただけだよ……」
リンファと呼ばれた女性は長くウェーブがかかった黒髪をかき上げながら答える。
「腹減った! 炒飯食べてえ!」
「分かったから裏口から入んな。アンタが常連だとバレたら面倒だ……」
リンファが店の裏手を指し示す。少年が首を傾げる。
「この大義賊、
「名乗るな馬鹿、誰が聞いているかも分からないのに……その玩具も見えない所に停めな」
リンファが真っ赤なバイクを指差す。克洋と名乗った少年は唇を尖らせる。
「玩具って言うな! 水陸空兼用のすっげえバイク、『トライストライカー』だぞ!」
「はいはい、すっごいチャリンコね……」
「チャリンコじゃねえって! ったく、分かんねえかな~」
克洋はバイクを店の影に停めると、リンファに続いて店に入る。
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