路地裏心中事件 全年齢版
朝霧
抜粋・ブログサイト「醤油日和」XXXX年一月XX日
この国は五十年ほど前まで、勇者の国だった。
国によって勇者が定められ、その勇者が国のために厄災を討ち滅ぼす。
そんな英雄譚が建国時から魔術や科学が発展し、軍も十分に整えられた現代まで続いていたのである。
この国は、建国時から度々厄災に苛まれていた。
単純な天変地異もあれば、とてつもなく強力な魔物達に国を蹂躙されたこともあった。
強大な外国との戦争もあれば、異常極まりない殺人鬼が国を恐怖のどん底に陥れたこともあった。
そしてそんな悍ましい厄災に歴代の勇者達は果敢に立ち向かい、勝利した。
そんなわけで古くから勇者に守られ勇者を讃えるのが、五十年前までの我が国の常識だった。
その常識が覆されたのが、今から約五十年前に起こったクーデター、それにより暴かれたとある真実がこの国を絶望の淵に叩き落とした。
この国は勇者の国、しかし技術や貿易の発展とともに、勇者が必要とされるような厄災は、起こらなくなっていった。
だから国は、国の上層部は自らの手で作り上げたのである、勇者が必要とされるような『厄災』を。
それが暴かれたのが、五十年前の例のクーデターであることは多くの人が知るところだろうが、ではそのクーデターが引き起こされたきっかけとなった事件を、ご存じだろうか。
クーデターからさらに遡ること約十年、この国で一つ、とても恐ろしい殺人事件が起こった。
被害者であった少女は数々の暴行を受けた末に惨たらしく殺害され、犯人の少年は自らの首を刃物で突いて自殺した。
それだけでなく犯人は自分と被害者に悍ましく強力な呪いを掛け、死後もその身体が離れぬようにした。
この殺人……いや、無理心中事件は当時の人々の間でかなり話題となった。
何故なら犯人の少年は、その当時の勇者候補だったのである。
国は混乱に陥った、誰もが彼の死に対してああでもないこうでもないと様々な憶測を語っていた。
そうして、この事件をきっかけにさらに起こった複数の殺人事件、その一つが五十年前のクーデターが引き起こされた、その元凶になったのである。
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