証言・第一発見者

 まず、そういう関係なんじゃとおれ達は思ってましたけど、実際本当にそう・・だったのかは、わかりません。

 話したこともありませんでしたし、ただ雰囲気的に、そういう関係なんじゃないかと、思ってただけで。

 そこ、そこにベンチがあるでしょう? いつも三時くらいになると図書館の方から二人でフラーっとやってきて、そこで一緒に菓子食ってたんすよ。

 それで食い終わったら図書館の方にフラーって。

 いつ頃からだったっけな……おれらがこの公園通うようになってからもう三年くらい経つけど……

 あ、やっぱり? やっぱりそうだよなその頃にはもういたよな?

 それだけ長い期間ほぼ毎日のように一緒にいるのを見続けてたもんだから、多分友達とかじゃなくて恋人同士なんだろうなって、思ってて。

 ……とはいえ、食ってる間も両方ともほとんど無言だったけど、話してるところってあんまり見たことが……それに。

 だよな、うん。何言ってんのかわかんなかったんすよ、声は割としっかり聞こえてくるのに、内容はさっぱり。

 多分アレって、昏夏語? だったんじゃないかって思います。

 ええ、どっちも。十塚のおねーさ……すんません娘さんだけじゃなくてその、犯人の方も流暢にペラペラと。

 でもまあその、何話してるのかはわかんなかったです。

 聞こえてきた声の口調とか、一緒にいる時の雰囲気とか思い返してみると、恋人同士、みたいな甘ったるい感じは……今思うとほぼなかったような気がします。

 けどなんだろう……気安い? 気を許してるってか、そこに二人揃ってるのが当たり前みたいな感じだったんすよね、傍目から見てると。

 それで…………

 わかりました、言います。

 なんて言うか、あの二人はきっとこの先もずっと二人でいるんだろうな、当たり前のように一緒にいて、当たり前のように結婚して、当たり前のように一緒に死ぬんだろうな、って、そう思ったことが、何回か。

 なんででしょうかね、別にいちゃついてたところとか見たことないのに、おれは……おれらは、そう思ってたんです。

 というかむしろそうだったからこそ、余計にそう思ったのかもしれない。

 そんなことが必要ないくらい、あの二人は……

 だからあの日、あの二人を見つけた時……

 ……あの日のことは、よく覚えています。何かあったんじゃないかって何度も何度も思い返したので。

 でもあの二人、いつも通りだったんすよ。

 いつもみたいに三時くらいにフラーっとやってきて、菓子食って、特になんも話さずに食い終わって、それでまた図書館に。

 変わったところとかも……なかった、なかったよなあ、本当になかったよなお前ら。

 ……うん、おれも何度も思い返した、でも普通だった、いつも通りだった、あの日の三時はいつもとなんも変わらない、ありきたりの日常だった……!!

 公園にいたメンツもいつも通りで、変な奴がいたとか変なことが起こったとかそういうことも特になくて、本当にいつも通りで。

 二人が食ってたのはクッキーだった、娘さんはいつも通りペットボトルのミルクティーを、犯人もいつも通り缶コーヒーを飲んでた。

 娘さんはセーラー服で、犯人の方は黒いパーカー着てて、フードもかぶってたから暑くねえのかなって、思って……

 ……そういやおれ、犯人の顔、まともに見たことなかったんすよ。

 お前らも? ……だよな、うん。

 だから、犯人が誰だったのかは、ずっとずっと知らなくて。

 娘さんの方は、前に店で会って、ああいつも公園にいる人だなって、そうかあの人、妹の好きな菓子屋のお嬢さんだったんだなって、一応知ってたんすけど。

 犯人はいっつもフードかぶってたし、菓子食ってる時以外はマスクしてたみたいだったし……

 だからあの人が、あの勇者候補だったってことを知ったのは、事件の後で……

 でも、普通に気付きませんでした、雰囲気全然違ったので。

 おれ、テレビよくみるから勇者候補のことわりかし見たことあるんすよ、なんて言うか完璧超人っていうか、慈悲と慈愛の人っていうか、いつも愛想良くニコニコ笑ってて……

 あ、いや、これは……いや、話します。

 うちの妹、犯人の妹と弟と同級生です。というか妹さんの方は、うちに何度か来たことが……

 友達、なんすよ、うちの妹ってほらああいう感じじゃないっすか、だから友達、その二人だけで……

 とはいえ、おれは勇者候補とは会ったことはねぇです。

 妹は……妹も会ったことはないって、言ってました。

 なんか知ってるんじゃないかと思って聞いてみたんすけど、「お友達のことならまだしも、そのお兄さんのことは知りません、会ったこともないです」って。

 妹経由でその……犯人の妹と弟に接触できれば、なんてことも思いましたが……それは流石に……

 そんなことして妹と同世代の子供の傷口抉るのも嫌ですし、何よりそんなことしようとしたら……うちの妹に呪われる。

 詳しい話は一時間くらい説教しても口を割らなかったんすけど、どうも命の恩人らしくて……

 何やらかしたのかは知らないんすけど、どうもその、呪い関係で死にかけたらしくて……その時に……

 だから、そのすんません、これ以上は……

 話を元に戻します。

 とにかく、あの人と勇者候補って、全然印象が違ったんすよ。

 勇者候補ってなんかいつも笑ってるっていうか、それでいて完璧超人で、人っぽくない感じの人だったじゃないすか、少なくともおれはテレビで見てそう思ってたんすよ。

 けど、そのあの人は、犯人は……全然そんな感じじゃなくて。

 無愛想っていうか、ガラが悪そうっていうか、偏屈っぽいっていうか……それで陰気っぽくて、基本的に人間嫌いなんだろうな、いわゆる陰キャなんだろうなって。

 雰囲気がなんていうか、暗くて刺々しかったんですよね、あの人。

 それで、どこにでもいる普通の、年相応の少年なんだろうなって。

 それも、滅茶苦茶に捻くれた子供って感じの……

 ……あの人多分、十塚のおねーさんのこと、普通に滅茶苦茶好きなんだろうなって、思ってました。

 傍目から見てすごい人間大嫌いって感じの人だったんですよね、あの人。

 そういうあからさまな雰囲気が見てるだけでわかる人だった。

 けど、十塚のおねーさんのことは全然邪険にはしてなくて、それどころかずっとずっと一緒にいて、それで話してる声も、何言ってんのか全然わかんなかったけど、なんというか……あんまり機嫌よくはなさそうなのに穏やかで。

 心を許しているんだろうな、って、思ってた。

 ああ、そっか、だからバカップルなんて、思ったのか。

 ……おれが、おれらが知っているのは、このくらいです。

 あの日の二人はいつも通りで、その前のことを思い出しても、喧嘩してたり雰囲気が悪かったりとか、そういうのは一切なかったです。

 だから多分、何かが起こったのはあの日の三時以降なんだと思います。

 何があって、あの人があんな事をしたのか、その理由も原因も、おれには一切わかりません。

 いっぱい、いっぱい考えたけど、何もかも憶測の域で、ただの妄想で、きっとテレビや世間でいろんな人が好き勝手言っている妄想と大差ないんで、これ以上何を話してもきっとあなたの役には立たないと思います。

 ごめんなさい、おれらが話せるのは、だからここまでです。

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