午後三時の二人

 あんな事件が起こっても、自分達は結局あの公園に通っていた。

 公園にいる人間はまばらで、あの事件の前に比べると少なく、活気もない。

 そして何より、あの二人がいない。

 あの二人がいつも座っていたベンチは空っぽで、誰も座ろうとはしなかった。

 それでも、ある日突然当たり前のようにあの二人があのベンチに何事もなかったかのように座ってそうなので、そんなありもしない幻想に縋るように、自分達は、少なくとも自分はこの公園に足を運んでしまうのだ。

 ふと、公園の入り口から誰かがふらりと入ってくるのが見えた。

 マスクと眼鏡で顔を隠したその人が自分の知っている人だと理解できたのは、きっと偶然だったのだろう。

「あ……」

 思わず声を上げると、その女の人はこちらに顔を向けて、数秒立ち尽くした後にこちらに歩み寄ってきた。

「あの……」

 何を言ったらいいのかわからなそうなその人に、自分も何をいえばいいのかわからなかった。

 それでも口は、思いついたままの言葉を吐き出していた。

「あ……あのその、妹から聞きました……お店」

「…………そう」

 やっと絞り出したような暗い声で、それだけが返ってきた。

「な、なんかできることがあったら言ってください!! おれも、おれの妹も十塚さんちのお菓子大好きなんで!! ほんと、そのえーっと……」

 一体何ができるっていうんだ、こんななんの力もない不良もどきのただのガキのおれが、何を。

 思考がまとまらない、感情がぐちゃぐちゃになる、あの日見た凄惨な赤と立ち込めていた悍ましい呪いの気配が脳裏を過って、気持ちが悪い。

「……なら、話を、どうか話を聞かせてください」

 彼女は縋るようにそう言ってきた。

「話、ですか?」

「あなた達が第一発見者で……それで、それで、警察に通報した時に……あの子と、犯人をバカップルって言ってた、そのわけを、なんでそう思ったのか、知っていることを」

 矢継ぎ早に言う彼女に、頭の中を一度落ち着けてから、ゆっくりと首を縦に振った。

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