常連の二人

 記憶力がいい方なので、ふらりと職場にやってきたその女性が誰であるのかすぐに気付いてしまった。

 最近世間を騒がせる例の事件、その被害者とされている少女の、母親だった。

 まだあの少女が幼かった頃に、何度かあの少女を迎えにきていたからそれでなんとなく顔を覚えていたのだ。

 しかし随分と様子が変わった。

 全体的にくたびれたというか、あまりにも疲労の色が濃い。

 頬はごっそりと痩けていて、髪は乱れ痛み、目には濃いクマが。

 亡霊のようだ、とその姿を見て思った。

 女性はゆっくりとカウンターに向かってきて、暗く濁った眼でこちらを見据える。

 そうして、こんなことを言ってきた。

「無理は承知です。わかっています。それでも……お聞きしたい話があって、ここに通っていた、ほぼ毎日通っていた、私の娘のことなのですが……」

 少し掠れた暗い声だった、絶望が音になるのなら、きっとこの声もその絶望のうちの一つだろうと思う程度には、酷い声だった。

 無理もない、あんなことが起こってまだ日もそれほど経っていない。

 ここの職員として時折話したことがあるだけの自分も、正直言って何も整理がついていない、あんまりにも酷い事件だったので、実はまだ何もかも嘘だったのではないかとも疑っている。

 自分はすぐに女性の正体に気付いたが、三年前にここの職場に配属されたもう一人の職員は彼女が何者であるのか気付いていないようで、不審げに首を傾げている。

 本当は、いけないことなのだけど。

 それでも話すべきなのだろうと思ったし、何より自分も、その話を誰かに吐き出したかった。

 事情聴取は一応受けた、それでもその時はあんまりな事件に混乱しすぎて、話し忘れてしまっていたこともあった。

 だから、女性の目を正面から見据えて、答える。

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