抗言・最高幹部末席
……あの、もうこういうのやめにしませんか。
先日の心中事件、勇者候補が引き起こした、あの心中事件。
彼が自死した原因は明らかです、わたし達最高幹部が彼に下した密命、あの命令が彼をあんな狂気に駆り立てた。
……罪のない子供が、二人も死にました。
いいえ、いいえ!! そもそも話が狂っているです、あんなの最初っから何もかも間違っていました!!
……もっと前に声をあげるべきだった、後悔してももう遅いけど、これ以上罪を重ねるくらいなら……それならこの場でわたしは声をあげましょう。
ねえ、みなさま、もうこんなこと終わりにしましょうよ、もうこれきりです、だって、こんなことわざわざしなくたって……この国は十分平和でしょう?
確かに、我々が彼に殺させようとした数十名、彼ら彼女らは確かにこの国にとっては危険因子、危険因子となるかもしれない、要注意人物達です。
でもまだ彼ら、ほとんど何もやってないじゃないですか……ただ単にこちら側にとって都合が悪いから殺すってだけでしょう……?
それに、それだけでは足りないと……正しく厄災、正しく虐殺犯となるように、カムフラージュも兼ねて本当に無辜の一般市民の人達を百五十人も……殺せ、なんて。
こんな馬鹿げた命令を、まだ十代の子供相手に、しかも弟と妹を人質に取って、親殺しまで強要して……
……狂ってます、正気じゃない……何よりこれが本当は国のためじゃなくて、あんたらの娯楽のために計画されたってことが、一番頭がおかしい。
なんだってあの子達や、罪のない人達があんたらの玩具にされなきゃならないんですか?
確かに厄災と、それを討ち滅ぼす勇者の存在は我が国の象徴であり、厄災を打ち砕く勇者や勇者候補の存在は、我が国を支えてはきたのでしょう。
けれどだからといって、今ある平穏、今を生きる無罪の人々を犠牲にしてまでわざわざ勇者に滅ぼされる厄災を作る必要なんて、ないでしょう……!!
そんなに娯楽が欲しけりゃ本を開くなりパソコンやテレビやゲーム機の電源を入れろ!! もしくは劇場にでも足を運べばいい!!
あんたらが引き起こそうとした悲劇、復讐劇なんかよりもずっと質のいい『お話』がそこにいくらでも転がっている!! それで十分でしょうが、なんでわざわざ『現実』にこだわる!!
それに失敗したからって、あの子が命令通りに動かなかったからって、代わりの人柱を立てようだなんて……あの子に命じた殺戮を、別の人に押し付けようだなんて……!!
もうやめましょう、もうこんな悪趣味極まりない惨劇はこれ以上ごめんです。
こんなふうにわたし達がわざわざ厄災なんて引き起こさなくても、いずれ本当に勇者の活躍が必要になる時は、訪れるでしょう。
そういう真の勇者の活躍、栄光、苦難を勝手に隠れて娯楽として消費するだけなら、悪趣味だけどまだいいでしょう。
けど、それを愉しむためだけにわざわざ悲劇を引き起こすのは、絶対に間違ってます。
……ああ、全然響いていませんね。
そりゃあそうでしょう、だってあんたらはあの子達の死すら娯楽として消費した。
実のところ、うちはそれが一番許せない。
馬鹿ですよね……知ってる子がああいうふうに無惨に死んで、それでやっと自分が看過してしまったものの非道さを本当の意味で理解したんですから。
もういいです、何を言っても無駄なら、実力こう――
――ばちん。
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