復讐者
最後に何かをしようとした彼女が不自然に言葉を止めた。
それと同時にばちんと大きな音が響いて、彼女が前後に倒れた。
頭頂から足まで、綺麗に横に切断された彼女は、何もわかっていないような顔のまま、身体の前面は前に、後面は後ろに倒れた。
断たれた彼女の身体から、脳や臓物がばらりと溢れ、血があたり一面に飛び散った。
『片付けろ』
彼女の身体を絶ったのであろう女が、別の幹部に厳かに命じたところで水鏡は何も映さなくなった。
これが彼女の死、自分達が十年かけて追い続けた、彼女の死の真相。
自分の隣にいた幼馴染がふらりと部屋の奥に足を進める。
そこにはとっくに死んでいた女、彼女を殺した女の死体が転がっている。
その死体を、幼馴染は思い切り蹴り飛ばした。
こんなのはただの八つ当たり、苦痛のない死体に何をしたところで、相手をこれ以上苦しめることは不可能だ。
それでも、そうしなければ気が済まないというのであれば、それを止める理由はない。
幼馴染は女の死体をもう一度蹴ろうとしたが、その前にこちらに振り返る。
「水鏡、あいつ以外のこいつらの悪業全部、流せ」
「了解。多分『質問』すればもっともっと酷いのが出てくるでしょうから、最悪国の上層部どころかこの国そのものが滅びかねませんが、それでも?」
「やれ」
短い返答に水鏡はわざとらしく肩を竦めた。
「仰せのままに。では……『質問』を再開します」
『質問』の効果が切れかけていた老人が意識を取り戻しかけたのか、何かを叫ぼうとしたが、全てはもう無駄な抵抗だ。
「もう終わりだよ、諦めろ」
言ったところで聞こえていないであろう余計な言葉を掛けたが、返答はなかった。
そうして自分達はこの国の裏で何が行われていたのか、その全容を知ることになった。
そしてそれは幼馴染の憂さ晴らしと復讐も兼ねて、全国民に知らしめられた。
たった一人の女の死をきっかけに、この国の裏に潜み続けていた『悪』は晒されたのだ。
けれど、だからといってそれをした自分達には、思いの外達成感のようなものはなかった、少なくとも自分にはなかった。
だって、死んだ者は帰ってこない。
自分の幼馴染は好きだった女を一生忘れられずに生き続けるし、本来なら必要なかった厄災により多くを奪われた星形メガネの欠損は埋まらない。
それでも復讐は果たした、何も戻ってこなかったし、復讐の道中で失ったものもある。
今回の件で国は荒れるだろう、ひょっとしたらその隙を突かれて外国から戦争でも仕掛けられるかもしれない。
それでも、何もしないよりはまだマシだったのではないかと自分は思う。
傷付けられたのであれば、理不尽に何かを奪われたのなら、その制裁は必要なのだ。
失われたもののためにはならないが、残されたこちらとしてはそうやって何かに当たり散らさないとやっていけない。
だから、きっとこれでよかったんだ。
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