葬式
葬式に出ることは初めてではないが、自分よりも若く未来ある若者の葬式に出るのは初めてだった。
両親から『せめて高校は卒業してくれ』と言われて素直に高校に入学した彼女は、ひょっとしたら今自分の部下として活躍していたかもしれない十六歳の少女だった。
使われていた遺影も高校の入学式の時に撮った写真が使われていたようだ。
それ以外にまともな写真がなかったのか、黒色のセーラー服を身に纏った少女の顔はとても退屈そうだった。
葬式に参列している人数は少なかった、というか元々身内だけで行うという葬式にただ彼女の上司になっていたかもしれない自分が呼ばれているという状況が、少しばかり特殊なのだろう。
いるのも彼女の親族と、彼女の実家の菓子屋の従業員が数名だけのようだ。
同級生や担任の教師らしき人がいないのは、きっと彼女が死んだ、というか殺された事件があまりにも酷く、そして世間的に話題になりすぎているからだろう。
葬式が終わった後に改めて彼女の両親に挨拶をすると、酷くやつれた夫婦は静かに深々と礼をした。
「この度は……なんといえばいいか……」
彼女は一言で言うのなら天才だった。
天才特有の大問題を起こしそうな雰囲気のある少女だったが、間違いなく天才だった。
だからとても惜しかった。
若い天才の喪失、という意味合いが強いが、なんだかんだいって彼女が小学生くらいの頃から交流があったので、単純に親しくしていた知人を失ったという意味合いでも。
「……彼女は、とても優秀で、好奇心旺盛な若者でした……それが、それがあんな」
テレビで見た程度の情報しか自分は持っていないが、それでも彼女が痛々しい死を迎えてしまったことは、知っている。
詳しく知ることはできなかった、というか憶測が飛び交いすぎて正しい情報の取捨選択ができなかったのだ。
それでもただ一点、あの若い天才が殺されたということだけは、正しいのだろう。
だから、なんと言えばいいのか言葉が出てこなかった。
何も言えずにいるうちに、彼女の母親が今にも泣き出しそうな顔で「来てくださりありがとうございます」と。
「……いえ、それはこちらのいうべきことというか、自分を呼んでいただけるとは思っていなかったというか」
なんてしどろもどろに答えていると、彼女の母親は小さく首を横に振った。
その後少しやり取りをした後、意を決して自分は彼女の両親に一つ問いかけをした。
「もしよろしければ、お話を聞かせてもらってもいいですか?」
小さく目を見開いた二人に、慌てて言い訳まがいの弁明をする。
「もちろん、断っていただいても構いません、ただ……あまりにも情報が錯綜しすぎていて、何がなんやら……」
「お話ししたいのですが……記者が……」
しかしこちらの意に反して彼女の母親はそう答えてくれた。
「……では、もしよろしければうちの研究室へ。あそこは一応国立の研究所なので……無理矢理入ろうなどという愚か者はいませんし、いたとしてもすぐに捕まります。というか捕まえますし、容赦なくブタ箱にぶちこんでやりますよ」
「ですが……部外者の私達が入ってもいいのでしょうか?」
「大丈夫です。自分は室長ですし……それに部外者、ではありませんよ。彼女はうちの研究室に来てもらうはずだったので」
本当はあまりよろしくはないのだが、応接室を使うだけなら室長権限でごり押せばどうとでもなる。
そういうわけで、自分は彼女の両親から彼女の死に関する話をする約束をした。
約束をした数日後、記者達の目を掻い潜り研究室にやってきた彼女の両親、主に母親が語ったのは、以下のような内容だった。
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