第7話 次々と消える仲間たち
その晩、美羽は寝つけなかった。さっき突然現れた美しい女性、ミケーラのことが頭から離れなかったのだ。裕星の方はどうやら疲れ切ってしまったのか、早々とベッドに
美羽はそっとベッドから抜け出てベランダに出ると、夜中になってもまだ
美羽がしばらく涼しい川風に吹かれて向こう岸を眺めていると、ふと昔のことが思い出された。
――裕くんといると、今までもたくさんのハプニングが起きたわね……。でも、その度に裕くんはいつも私を支えてくれたし、頼もしかったな……。
すると、部屋の中から裕星の声がした。
「美羽? 眠れないの?」
驚いて振り向くと、窓越しに裕星が頭を少し起こして眠そうに目を擦りながらこちらを見ている。
「裕くん、起こしちゃった? ごめんね」
「いや、目を覚ましたら美羽がそんなとこにいるから。何かあった?」
「ううん、何も。ちょっと興奮して眠れないだけよ」
「そ……か。ほら、おいで」
裕星が自分の布団の端を少し開けて体を起こした。
美羽は恥ずかしそうに裕星を見つめていたが、ゆっくりベッドに近づいて行った。
美羽が胸の鼓動が外に聞こえるほどドキドキしながら裕星の隣に潜り込むと、裕星はそっと美羽に布団を掛けてくれたのだった。
美羽は裕星の肌の温かさに触れて、その居心地の良さと
「裕くん、おやすみなさい」
「お休み……」
裕星はそっと美羽の身体を抱き寄せると美羽の額にキスをした。
美羽は裕星の胸の鼓動が規則正しく耳の奥に響いてくるのを聞いているうちに、いつの間にか安心感に包まれ眠りに落ちていったのだった。
二人の初めてのフィレンツェの夜はけたたましくドアを叩く大きな音で破られた。
ドンドンドンドン……。
う〜ん、誰だ? 裕星がむっくり起き上がって行きドアスコープを覗くと、光太が血相を変えて必死にドアを叩いているのが小さく見えた。
裕星は急いでドアをガチャリと開けた。
「どうしたんだ、こんな朝っぱらから。用があるなら、何も直接来なくても電話すれば良かったじゃないか?」半分寝ぼけたように言った。
「いや、もう何回もメールも電話も入れたぜ! お前がぐっすり寝てて気付かなかったんだろ?」
え? 手に持っているケータイを見てみると、すでに光太からのメールが何通も入っていた。
「どうした、中に入れ」
光太を部屋に入れてソファーに座らせると、裕星は冷蔵庫のミネラルウォーターをコップに注いでそれを光太に渡し、自分はボトルのまま一口飲んだ。
光太は、コップの水を一気に飲み干すと、大きくため息を吐いて話し出した。
「昨日の晩、あれから俺はリョウタと陸と三人でトラットリア(※)で飲んでいたんだが……」光太が順を追って話し出した。
「あいつら、結構酔っぱらってて帰る気がないから、俺はもう先に帰るぞと言ってタクシーで戻ったんだよ。
でも、心配になって、今朝あいつらの部屋をノックしてみたんだが、どうやらホテルに戻った形跡がなくて、メールを入れたり電話を掛けてみたんだが、やっぱりまだ帰っていないようなんだ」
そう言いながらも、心配そうにそわそわしている。
「俺が付いていながら、何の役にも立たなかったなんて。何か事件に巻き込まれたのかもしれないから、地元警察にでも連絡してみるか?」
光太は自分の責任を感じて
光太が話し終えたちょうどその時、ポロンとメールの着信音が鳴った。
美羽が目を
「何かあったんですか?」
裕星と光太が自分達のケータイを開くと、そのグループメールにリョウタと陸が連絡してきたのだ。
『昨日は呑み過ぎてダウンしたよ。あれからホテルに戻って寝たから大丈夫だ』リョウタからだった。
『光太さんが先に帰っちゃったんで、僕たちまた場所を変えて呑み直してたんだけど、もう遅いからって、あれからすぐホテルに戻ったよ。ぐっすり寝ちゃったから、今初めて光太さんのメールに気付いた。ゴメンね!
でも、今日からは、ワケあってリョウタと一緒に行動することになったから心配しないで四人は目的地に行ってね。俺らもちゃんと最終目的地に行けるからさ』陸が長文をよこしていた。
「なんだこれ? 一体何考えてんだ、アイツらは? 人にこれだけ心配掛けといて!」
光太は呆れたようにケータイを切ると、テーブルの上にポイと放り投げた。
裕星も彼らの可笑しな行動に首を捻った。
「そう言えば、社長も、同じようなことを言って別行動を始めたよな? 陸たちも、イタリアに来て変な羽の伸ばし方してないと良いんだが……」
裕星は、やれやれと言った風に首を振ると、着替えるためにさっさとベッドルームへと戻って行った。
「あのぉ、光太さん。何かあったんですか?」
美羽はまだパジャマのままで光太に恐る恐る訊いた。
「いや、朝からすみません。陸とリョウタが昨日から帰って来なくて心配していたんです。
だけど、ほらこれ。結局あいつらに振り回されてただけでした。心配して損しましたよ」と苦笑いした。
美羽は自分のケータイでグループメールをチェックした。
「でも……光太さん、なんだか可笑しくないですか? 社長さんもリョウタさんも陸さんも、どうして突然別行動なんてすることにしたんでしょうか? 同行する人たちが段々いなくなっちゃうなんて、もしかして、もしかして、誰かに
美羽が不安そうな表情で訴えた。
「美羽さんもまだ招待主のことが分からないんですか? もしかして、そいつ、イタリアのマフィアだったりして? 徐々に一人ずつ消して行って、ま、今回の場合一人ずつという訳じゃないけど、そして誰もいなくなった、なんてことにならないといいんですけど。
この招待主の老人が、なんだかゴッドファーザーに思えて来たよ」
光太が勝手な推測をしている。
ハハハハ、と向こうの部屋から笑い声がして、着替えを済ませた裕星がやって来た。
「お前らの想像力はスゴイな。たとえイタリアのマフィアだとしてもだ、なんで俺たちなんかを誘拐するんだよ。それも、はるばる日本まで美羽に手紙を出して呼びよせて? ないない!
それほど金も名声もない若い俺らを何目的で消していくんだ? どう考えても変だろ?」
まだククク……と笑っている。
美羽は、考え過ぎならその方が良いんですけど、と言いながら、着替えのためにベッドルームへ戻っていった。
裕星は今度は大沢秘書にメールを入れた。
『おはようございます。今日は一日フィレンツェ観光に行くつもりですけど、今度はリョウタと陸が別行動になりました。何か二人から聞いていませんか?』
すると、ほどなくして大沢から返信のメールが入った。
『おはよう。実は私もここから行ってみたいところがあるの。まだ行き先は決めてないけど、一人で行動することにするわ。陸もリョウタも心配いらないわよ、大人なんだし。最終目的地では全員会えると思うから。
私も今ホテルをチェックアウトして移動中なの。あなたたちも十分気を付けるようにしてね』
(注釈※)トラットリアとは、イタリアの気取らない大衆向けのレストランです。主に魚介料理から肉料理まで幅広く、お手頃な値段で食べられますよ。
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