第2話 いざ古のローマへ
「だって、わざわざチケットまで取って下さったのよ。何か名乗れない深刻な理由があるのよ。でも、私がそこに行くことで、私の両親へのお礼が出来てこの方の気が晴れるのであれば、行って来ようと思うの」
美羽のどこまでも人を信じる力強い言葉を聞いて、裕星はハァと短く息を吐いた。
<そうか……分かった。やっぱり俺も一緒に行く! 早速だけど、その旅程を俺にもメールしてくれないか? 同じ便で一週間美羽に同行してイタリアに行くことにするよ>
「裕くん、ありがとう! 裕くんが一緒なら心強いわ! ああ、ホッとした。実はとっても怖かったの。一人きりで行って、もし迷子になったりしちゃったらって」
<美羽……心配はそこじゃないだろ? まあいいや、俺がいれば安心だからな? なにせ俺は美羽にとって頼れる男だから>
電話の向こうで裕星はひとさし指で鼻をこすってニヤリとした。
裕星は仕事が終わって事務所にもどるやいなや早速、浅加社長に休みの申請を出した。
「なんだ裕星、お前、今年はやけに早々と正月休みを取るつもりか。美羽さんと旅行にでも行くつもりなのか?」
社長がカマを掛けると、
「まあ、そんなところです」とあっさり認めた。
「おいおい、裕星。最近は随分と素直になったもんだな。で、ところで、どこに行くつもりなんだ? 参考までに訊かせてくれ。まさか旅先で自社タレントに何かあっても、社長の俺が、お前がどこにいるか分かりません、なんて言えないからな」
「ああ、それなら、ほら、これです」
裕星はさっき美羽からもらった旅程表のコピーを見せた。
「――ん? なんだこれ? 行きと帰りの便しか書いてないじゃないか」
「まあ、仕方ないです。途中の旅程はどうなるかまだ決まってないので」
「お前としたことが、随分と
「――は? なんで社員旅行と俺たちが一緒にされるんですか」
「いやいや、お前らの邪魔はせんよ! ただ、ほらあいつらもしばらく海外旅行に行かせてなかっただろ? ちょうどいい機会だ、ラ・メールブルー全員でお前らの旅行に付いて行くことにする!」
社長室のソファーでくつろいでいる他のメンバー達を
「そんな、やめてください! そんなつもりで俺は旅程を知らせたんじゃないです! 何のつもりですか」
「まあまあ裕星。俺たちはただのお供、つまり同じ旅行の仲間と言う感じで良いんだ。
おお~、ローマかあ。
浅加社長が勝手にデスクの前でくるくるとワルツを踊りながら、廊下に消えていくと、裕星はやれやれと頭を抱えて、大きなため息を吐いたのだった。
「ねえねえ、裕星さん、社員旅行っていったい何の話? 俺たちも海外に旅行できるの?」
陸がさっそく耳ざとくやって来た。
「ああ、後は社長に訊いてくれ! 俺はまだ納得いかないけどな」
「裕星、また社長にやられたか? 美羽さんと旅行の予定だったんだろ? どうする、俺たちは辞退してもいいんだけど?」
光太はニヤニヤしながら近づいてきたが、「いや、社長があそこまで言った後じゃもう遅いよ。多分、今頃皆の分の航空券の予約もすでに手配した頃だろうな」
裕星は肩を上下して大きなため息を
今回の冬休みもまたひと波乱ありそうな予感は、裕星でなくても予想ができそうだった。
1月某日。羽田国際空港出発ロビーに、美羽は大きなボストンバッグとスーツケースを携えて椅子に腰かけていた。
裕星に背後から声を掛けられ、満面の笑顔で立ち上がって振り向くと、そこにはラ・メールブルーのメンバー全員と、浅加社長、大沢秘書までがニコニコしながら立っていたのだ。
「いやあ、美羽さん、久しぶりですなあ! 元気そうじゃないですか! ん? また一段とお綺麗になりましたね。今回は我々と一緒に良い旅にしましょうね!」
浅加に肩をポンと叩かれて、美羽は呆然と立ったまま口をあんぐり開けている。
「悪い……。社長に休みの申請をしたら……こうなった」
裕星は言い
「旅は大勢の方が楽しいですから、むしろ嬉しいです!」
「Sorry、ごめんなさい美羽さん。僕は断ったんだけど、社長が無理やり僕の分のチケットも取ってしまって…-。ホントは裕星と二人きりで行きたかったでしょ? ホントにごめんなさい」
リョウタが紳士らしく美羽に頭を下げた。
「ううん、大丈夫ですよ。本当はこの旅行の予定も突然でしたから、本当に皆さんと行けるのはむしろ楽しみなんです」と肩をすくめて無邪気に笑った。
(全日本航空 羽田発 ロンドン経由ローマ行き)
20時間ほどの長い空の旅を終え、一行はローマ、フィウミチーノ国際空港に到着した。
機内で大はしゃぎした陸とリョウタはいささか眠そうに目を
裕星と美羽は、広いロビーで荷物を載せるカートを探してうろうろしている。
空港から市内のテルミニ駅まで直通の電車があるが、ひとまず一行がロビーに全員集合するまでの間、裕星と美羽が他の仲間が来るまで待ち合い椅子に座って待っていると、前方からまっすぐこちらに向かって近づいて来る背の高い黒づくめの男に気が付いた。
男はサングラスを掛けて、黒っぽいスーツを着ており、見るからに怪しげな雰囲気だったが、裕星たちを見つけるなり、迷うことなく一直線にこちらへやってくる。
裕星が
サングラスをしていたときの
「エッコリ《来ましたね》~、ミスターカイバラとミスアマネですね?」
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