第23話 ラスボス老人の正体

Congratulationおめでとう,Miu,Yusei! 私の負けね」


「負けだなんて……ミケーラさんには本当にお世話になりました。それだけでありがたかったです」

 ミケーラはハァーとため息を吐いて美羽に近づいてきた。


「ううん、私の役目はこれで終わりなのよ。ごめんなさいね、嫌な目にわせて。でも、私も辛かったわ。だって、あなたたちをだまさないといけなかったんだもの」


 ──え? 美羽と裕星が同時に声を上げた。


「本当は私、あなたたち二人の愛情を試すために試練を与えただけなの。Miuさんには意地悪ばっかりしてきたけど……あ、YuseiにキスをしてわざとMiuさんに見せるようにしたのもそのためよ。

 あなたたちが本当に信じ合っているのか、確かめるようにオチェアーノさんに言われたからなの。

 ――ごめんなさい。


 それに、青の洞窟では危険な目に遭わせてしまったこと、本当にごめんなさい。あれだけは想定外のことだったわ。

 まさか、Miuさんが一人でそんな危険なことをするなんて思わなくて……宛てがなければすぐに諦めると思ってた。

 それも、オチェアーノさんの書いた注意書きのメモを私が隠してしまったからね……ゴメンナサイ。


 わざと怪しい行動をして、Miuさんたちがどんな行動をするのか見守るつもりだったの。まさか、あんな目に遭わせてしまうなんて……。


 観光客のダイバーたちが、あなたが青の洞窟の方に船で行く姿を見たという話を聞いて、不安でしょうがなかったわ。もし、あなたに何かあったりしたらって……実は私も洞窟の近くでずっと見守っていたの。本当に怪我がなくて良かったわ。


 でも、私のお芝居もなかなかなものだったでしょ? これなら女優も出来るわね。

 ――それと、ヴェネチアで、日本からずっとくっ付いて来ていたを2匹捕まえておいたわ。あなたたちの跡を付け回してゴシップ記事にしようと盗撮していたのよ。

 写真は全て破棄させたけど、プライバシーの侵害で今頃ヴェネチア警察で弁護士を待ってる頃ね。と笑った。



「ミケーラさん、そうだったの? こちらこそごめんなさい。裕くんをあなたに取られてしまう気がして、私が過剰な反応をしたからこんなことになって……。

 ミケーラさんがお芝居をしてくれていたり、陰で私たちをまもっていてくれていたのに全然気付かないで、私こそごめんなさい。

 でも、本当にミケーラさんは良い女優さんになれますよ!

 まるで本当に裕くんのことを好きな人みたいで、私も本気でヤキモチ焼いちゃいましたから」と美羽も笑った。


「Miuさん、こちらこそごめんなさい。二人がどんな時も信じ合っていることが分かって、私こそうらやましくなったわ。二人ともお幸せにね!」



 それじゃまた、とミケーラは裕星と美羽に交互にニコリと微笑むと、背中を向けて颯爽さっそうと去って行った。

 しかし、ミケーラはホテルのエントランスで突然足を止めて振り返った。「Yusei、Ti amavo裕星、あなたを本当に好きだったわ

 その小さな呟きも、その睫毛まつげが涙で濡れていたことも、美羽と裕星には気付くことはなかった。




 裕星はミケーラを見送ってから時計に目を落とし、もうすぐ一時になろうとしていることに気付いた。


「おっと、ゆっくりしすぎたな。さあ行こうか」


「あ、そうだ。忘れてたわ。この手紙がこのワンピースと一緒に置いてあったんの! オチェアーノさんからよ。まだ読んでいないけど……」

 そう言って、美羽は立ち上がった裕星に、バッグの中から小さな封筒を差し出した。


 裕星が封筒を開けて手紙を取り出すと、そこには、オチェアーノからのメッセージが書かれていた。


「裕くん、なんて書いてあったの?」


 裕星はじっとその文字に目を落としていたが、「ああ、これは後で美羽が自分で読んだ方が良い。さあ、急ぐぞ、皆待ってるからな」

 手紙をまた封筒にしまいこんで美羽に渡した。



 美羽は裕星に手を引かれてかされるので、手紙を読まずに急いでまたバッグにしまいこんだのだった。


「裕くん、皆さんは私たちをどこで待ってるの?」

「それは、もちろんオチェアーノのところだよ。あ……というよりも、これから始めるための場所で、かもな」

 裕星が何もかも知ってるかのように言うので、美羽は少し不満になった。


「裕くん達だけズルいわ! 知らないのは私だけみたいね」と頬を膨らませている。



 さあ、こっちにおいで、と裕星は美羽の手を取って、ホテルの裏庭に回って行った。


 少しすると、岸壁から海が一望できる庭園に出た。そこにいたのは、正装した社長や大沢、光太、陸、リョウタ、そして――――裕星の母親、真島洋子まじまようこだった。



「え、洋子さん? どうしたんですか、洋子さんまでここにいらっしゃったんですか?」

 美羽が駆け寄って訊ねると、


「まあ、美羽ちゃん、まだ気が付かないの? 私が貴女をここに招待したのよ。私がオチェアーノなのよ!」


「──?」

 そうは言われても、なぜ洋子がオチェアーノなのか、まだ合点がてんがいかなかった。


「美羽ちゃんたら、まだピンと来てないようね。イタリア語でOceanoオチェアーノ、つまり『大洋』と言う意味で、洋子。私の名前を意訳したのよ」


「え……? そう言うことなんですか? 私はてっきりイタリア人のおじいちゃんかと……。

 でも、どうしてこんなにも素敵な旅行を私なんかに? それも私の両親が洋子さんの恩人だなんて知りませんでした」



「まあ、おじいちゃんは失礼ね! でも、あなたのご両親には心から感謝しているからよ。私と仕事の戦友親友として頑張ってきた二人なの。美羽ちゃんがご両親を亡くし不幸な思いをしないようにずっと気にかけていたけれど、私には何もしてあげられなくて……。お父様の弟、天音神父あまねしんぷが、あなたを大切に素敵な娘さんに育ててくださったのね。


 ここはね、あなたのご両親が結婚前に旅行したところだと聞いているのよ。プレハネムーンとしてね。

 だから、二人と同じコースであなたたちを連れて来たかったのよ。


 あなたにあの手紙を出せば、必ず裕星は付いてくるでしょ。そのために事務所に休みを申請するはずから、それを見越して、浅加社長に先に伝えおいたのよ。他の皆さんのことも必ずお誘いして裕星たちと一緒にイタリア旅行をしてくれないかって。


 裕星に詳しく知らせなかったのは、私からの招待だと分かったら、反発して美羽ちゃんを行かせないと思ったからよ。それに馬鹿正直で嘘が下手だもの。きっと途中でバレちゃっていたわ。

 それに、敵をあざむくにはまず味方からっていうでしょ? だから、ラ・メールブルーの皆さんにも始め知らせなかったの。


 裕星、美羽ちゃん、浅加さんには私が主催者だって分からないようにして、旅行中皆さんには一人ずつ消えてほしいって言っておいたの。二人には、最後には本当に大切なものを見つけて欲しかったからよ」

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