第24話 幸せの花嫁
イタリアで雇ったガードマンのフランチェスコには、浅加社長や他の皆さんが抜け出した後の別行動の世話をするように頼んで、その間、イタリアに住む日本人で、私の親友の娘、インターポールで仕事をしているミケーラにあなた方二人と光太さんのガイドをお願いしたの。それに、必ず付いて来るだろうハエの撃退もしてくれると期待して、ね。
ねえ、私が書いておいたでしょ? ミケーラはインターポールで腕も立つけど、その美しさはもっと強力だから、彼女の魅力に惑わされないでって。
でも、裕星、それに関してあなたは合格だったわね。美羽ちゃんに対してどれだけ一途で誠実かがよくわかったわ。
まあ、でも、彼女にこの旅の目的をちゃんと話しておかなかったことで、ちょっと想定外のことがあったみたいね。まさか、そうなるとは思わなかった。そこだけは私のミスだったわ――」
「あのぉ……ミスって、私が青の洞窟に行っちゃったことですか?」
美羽が恐る恐る訊いた。
「青の洞窟? 何のことかしら?」
洋子は初耳とばかりに驚いている。美羽が危機的な状況にあったことは何も知らないようだった。
「あ、いえ、違ってたならいいです……」
美羽は余計な心配を掛けないように言葉を引っ込めると、裕星が改めて洋子に訊いた。
「お母さん、じゃあ想定外のミスって言うのは何だったんだ? それに、美羽に見つけて欲しかったものもまだ聞いてないけど?」
「想定外というのは……ま、そうね、ミケーラには、始めあなた方二人のための旅だということを知らせずにガイドをお願いしちゃったせいで……ミイラ取りがミイラになっちゃったとでも言うのかしら……。
ま、彼女のことは心配しなくてもいいわ、後は私に任せておいて。
美羽ちゃん、あなたはもうちゃんと探して欲しかったものを見つけてくれたのよ。私があなたのご両親への恩返しとして見つけて欲しかったものを」
洋子は美羽に近づくなり美羽の両肩に優しく手を置いて言った。
美羽は洋子のミケーラについての話は理解出来ずにいたが、探して欲しいものはもう見つけていると聞いて、「見つけた? 私が見つけたものって何だったんですか?」美羽が首を傾げると、
「それは、本物の恋人同士が時と共に試練を乗り越えて得た『真実の愛、どんなときも互いを信じる気持ち』のことよ」と洋子が微笑んだ。
「そ、それじゃあ、場所や物じゃなかったんですね?」
「ええ、だから言ったでしょ? 物や場所だったら、誰にでも見つけられるわ! 相手を信じる気持ちはなかなか簡単に見つけられるものじゃないの。時間と共にたくさんの試練を重ねても尚、得られるかどうか分からない不確かなものよ。
相手の事を心から想い合う本物の恋人同士にしか見つけられないものでしょ。ちょっと大がかりだったかしらね?
でも、あなたたちはそれを見つけられた。美羽ちゃんにはたくさん辛い思いもさせちゃったけれど、それを乗り越えて得た真実の愛は貴重よ。お互いを信じられる気持ちはもう揺るがないわね?」
「はい、ありがとうございます! そして、こんな素敵な旅をプレゼントしてくださって感謝いたします」と美羽が頭を下げた。その目からは涙が絶えず零れ落ちていた。
「さあさあ、これで終わりじゃないのよ! 本番はこれからよ。私から、あなたのご両親で親友の
美羽が驚いて裕星の顔を見ると、裕星は知っていたとばかりに得意顔で微笑んだ。
その時、二人の前に浅加が近づいて来た。
「美羽さん、裕星、おめでとう。心配掛けてすまなかったな。ただ、本当に貴重で良い旅だったな。裕星、これからも美羽さんを大切にするんだぞ」
陸もニコニコしながら、持ってきた手作りの花の王冠を美羽の頭の上に載せた。
「美羽さん、裕星さん、おめでとう!」
「陸さん……ありがとうございます」
「美羽さん、俺もまんまとあいつらに騙されていましたよ。心からおめでとう。これからも裕星の事をよろしく頼みます」
光太はまるで兄のような優しい笑顔を見せた。
さあ、始めましょうか! 洋子が美羽の手を取って連れて来た岸壁の前には、色とりどりの花が飾られた綺麗なアーチと真っ白な椅子が並び、まさに結婚式の会場が出来ていた。
アーチの手前で待っていたのは、カプリ島のサンミケーレ教会の神父だ。
洋子が美羽の手を裕星にそっと託した。
「裕星、美羽ちゃんをちゃんと守るのよ。これから一生、幸せにしてあげてね」とニコリと微笑んだ。
「ああ、もちろんだよ」
裕星はそっと右肘を差し出すと、美羽はその腕に右手を絡ませ裕星を見つめて微笑んだ。
仮ではあるが、二人の結婚式が
その道をゆっくりゆっくり、美羽は裕星から貰ったブーケを胸に、周りの人達一人一人と目を合わせ微笑みながら進んでいく。
神父の前で、美羽はそっと裕星から腕を離して二人は前を向いた。
神父が聖書を手に二人に微笑みながら問いかけた。
「 Yusei Kaibara、
裕星は真っ直ぐに神父を見て静かに、そしてしっかりと答えた。
「誓います」
「Miu Amane、汝はこの者を夫として、病める時も健やかなる時も、常にこの者を愛し、守り、慈しみ、支え合うことを誓いますか」
「はい、誓います」
「では、誓いのキスを」
すると、二人の誓いがカプリの海の女神に届いたのか、海風が二人を祝福したようにふわりと吹き上げてきて、美羽のドレスを巻き上げた。
「キャッ!」
美羽がスカートの裾を抑えている。
裕星はフッと笑って美羽をひょいと抱き上げると、驚いて目を見張っている美羽の唇にそっとキスをしたのだった。
「おう! こんな誓いのキスは初めてです」神父がハハハと笑ってた。
皆、二人を囲んで拍手を送り、口々におめでとうの言葉を掛けていた。
裕星の腕の中で美羽は瞳を潤ませ幸せいっぱいで夢の中にいる気持ちだった。
「美羽、今回はここに来るまで予測できなくてバタバタしちゃったけど、本当にいい結婚式ができたな」
「うん、裕くん、皆さん、本当にありがとうございました! こんなサプライズ、私全く予想もしていませんでした。それに、こんな素敵な場所で裕くんと結婚式を挙げさせていただけるなんて……私は本当に幸せ者です」
美羽の目からはもうすでに涙がポロポロと止めどなく流れている。
裕星と美羽は、イタリア旅行最終日、洋子の
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