第8話 黒づくめの男の正体
――なにこれ? とうとう大沢さんまで?
美羽は慌てて裕星と光太にケータイを見せた。
「どう思う? これでもう4人もいなくなっちゃったんだよ! やっぱりマフィアに
「美羽、考え過ぎだよ」
裕星が冷静に
「いくらなんでも、昔のマフィア映画みたいな展開なんてある訳がない。たぶん皆行きたいところがあるだけだよ。
もういい大人だし、イタリアでの行きたい場所もそれぞれ違うだろ? 美羽に
裕星の言うのももっともだった。皆、同じ目的地の旅行とは言え、それぞれ個性も豊かな
「光太、お前はどうする? 今日は俺たちと一緒に行動するか?」
裕星にそう言われてしまうと、光太も答えづらいのか、首を横に振った。
「いや、今日は近場を見て回って、後はホテルの部屋で仕事をしてるよ。二人は俺に構わず自由に行ってくれていいよ」
「わかった。だけど、お前まで消えるなよ。いや、好きにしたいなら止めないけど、突然、
裕星の言葉に、光太は笑いながら部屋に戻っていった。
裕星と美羽の二人は、早速フィレンツェ観光に出た。有名な観光地を巡るのもいいが、それよりももっと人知れぬ場所に行ってみたかったので、裕星はローマに来るまでの機内で下調べをしていたのだ。
二人が向かったのは、オルティクルトゥーラ庭園。日本人観光客も少ない穴場的な観光地だ。
ガラス張りの美しい温室と広々とした緑豊かな庭園。蛇の形の噴水を尻尾の方へ辿っていくと、庭園の頂上に出る。そこから目の前に広がる街の景色はまた
遠く向こうには、ドゥオモの
頂上に立ってフィレンツェの街並みを眺めていると、足元がふらりとして今にも空に飛んで行きそうになるほど広大な下界に吸い込まれてしまう感覚に陥る。
「どうだ、綺麗だろ?」
裕星に言われて、美羽がキラキラした瞳で答えた。
「本当に綺麗ね。こんな景色今まで見たことないわ。裕くん、連れてきてくれて、ありがとう!」
美羽が美しい景色に見惚れていると、ふいに裕星の顔が近づいて来て、そっと美羽の唇に触れた。
美羽は驚いて目を見開いたが、裕星が美羽の身体をギュッと抱きしめたので、美羽もついに力が入れられず裕星に任せて目を閉じた。
異国の地で、まるで二人はハネムーンのリハーサルのように、誰にも邪魔されない空間が居心地良くて、裕星はついつい美羽を愛しく思う気持ちが素直に表に飛び出してしまうようだ。
日本にいた時のクールな裕星からは想像もつかないほど、イタリアでは熱い愛情表現が表に出てしまうが、純粋無垢な美羽も徐々に自分自身を解放しつつあった。そして、裕星からの愛情を受け止められている自分に気付いて驚いていた。
周りに日本人は誰もいなかった。愛し合う二人はこの雄大な景色も見えないほど何度も唇を重ねていた。
するとその時、突然、ポロン、と裕星のケータイに入ったメールの通知で、美羽はビクッとして裕星から離れた。
「あ、光太だ。何かあったのかな?」裕星がケータイのメールを開いた。
『観光中に邪魔して悪いな。さっきホテルのフロントで聞いたんだが、大沢さんはサングラスの黒スーツの男と一緒に出て行ったと言うんだ。
まさかと思って、リョウタと陸についても訊いてみたら、夜中に二人も黒スーツの男と一緒にホテルに帰って来たって言ってた。
俺の予感が当たらないと良いが、もしかして、これって本当にあいつらに拉致されたんじゃないか?
三人からメールは来たけど、無理に大丈夫だというメールを出させられたんじゃないかと思って……。俺の方からメールを出しても全く返信はないし、未だに電話もつながらない。
裕星たちも何か分かったら教えてくれ。あいつらに何があったか気になるからな』
光太がフロントに訊いた黒スーツの男とは、あの黒ずくめのフランチェスコのことだろう。
裕星は光太のメールが気になって、ケータイを見ながら険しい顔をしている。
「裕くん、どうしたの?」
美羽の声で、裕星がハッと我に返った。
「美羽、せっかくのフィレンツェ観光だけど、もうそろそろホテルに戻ろうか。光太から連絡が入った。
陸もリョウタも大沢さんまで、あの黒ずくめの男と一緒に行動していたらしい。
もしかすると、どうしも付いて行かなければならない
「裕くんも拉致かもって思うの? やっぱりあのフランチェスコさんって良い人に見えてマフィアの手下か何かだったのかしら?」
美羽が胸に両手をあてて今にも泣きだしそうに言う。
タクシーでホテルに引き返すと、ロビーでは待ちかねたように光太が駆け寄ってきた。
光太は裕星たちに気付くと、慌てたように裕星に近づいてきた。
「あ、裕星、美羽さん。せっかくの観光中に悪いな。三人が黒ずくめと関係があったと聞いたら黙っていられなくて。もしかすると、社長もそうだったのかもしれないからな」
「ああ、知らせてくれてありがとう。俺もちょっと気にはなっていたが、あいつらを拉致したところで、なにも得られるものもないからな。一体何目的なのかだけでも知りたいもんだ」
裕星はケータイを取り出して、一昨日泊まったローマのホテルに電話を掛けた。
なにやら英語でやり取りをしていたが、”Thank you”と電話を切ると、二人の方へ向き直った。
「やっぱりだ。日本人客が少なかったから覚えていたみたいだが、社長もあの晩、俺たちと一緒に夕食に行かなかっただろ? どうやらイタリア人の男と一緒に出て行ったようなんだ。
それも俺たちが夕食に出たすぐ後らしい」
「ああ、やっぱり。あの黒ずくめって、美羽に手紙を
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