第13話 巣立ちの日
信綱さんの印可試験を受けるのは、柳生宗厳さんと宝蔵院胤栄さん、そして俺の3人だった。この試験に勝つと、印可を授けられ、新陰流の伝道が許される。俺が、この試験を受ける理由は、信綱さんの下を離れ、独立するためである。
−柳生宗厳と上泉信綱の手合−
「信綱さま、では。」
そう言うと、宗厳さんは信綱さんの懐に飛び込んだ。これを防いだ信綱さんが、攻撃の一手に出るが、それを宗厳さんは受け流すという、とても高度な試合が続いた。しかし、信綱さんも60歳近くということもあり、体力の消耗が早かった。決して、宗厳さんも余裕なわけではなくて、絶対に勝つという気持ちがあったため、戦い続けることができた。しかし、決定的な一撃が無いまま、手合が続いた。
「宗厳、もう良い。お主は合格じゃ。」
「はっ。」
結局、最後は信綱さんが疲れて、投了した。俺は、信綱さんが出会った頃から、年が長いこと経ったという現実を突きつけられた気がした。
−宝蔵院胤栄と上泉信綱の手合−
「信綱さま、誠に休まなくても良いのですか。」
「うむ。胤栄、始めよ。」
「はっ。」
こうして、胤栄さんと信綱さんの手合が始まった。胤栄さんはもともと、槍使いの僧兵だが、信綱さんから、剣術を教わり、太刀そして、槍どちらも使えるようになった。胤栄さんは体躯が人よりも一段大きいため、信綱さんは間合いにも気を付けねばならなかった。このようなことから、信綱さんは更にハンデを与えることになっていた。
「お主も、見違えったのう。」
「いえ、信綱さまの教えのおかげにございます。」
「いや、先月会った時より、よう成長したのう。よし、参った。」
「信綱さま、まだ勝っておりませぬぞ。」
「儂は、もう動けぬ故、お主の勝ちじゃ。」
「はっ。」
こうして、先に挑戦した2人は合格した。信綱さんはとても疲れているというので、俺も勝てるかもしれない。
−竹田一郎と上泉信綱の手合−
「一郎、儂はお主だからといい、手は抜かぬぞ。稽古で儂が教えてきた事を実行すれば、勝てる故、思い出すのだ。」
「。。。はい。」
俺は、信綱さんが疲れていたので、速攻で決着をつけようと思った。俺は、宗厳さんと同じく信綱さんの懐に飛び込んだ。そして、思いっきり木刀を振った。初撃を避けられたが、信綱さんは左に避けるという癖を使って、右の方にまた思いっきり振った。すると、案の定、感触があった。しかし、人の体ではなく更に硬いものだった。俺は、信綱さんの反撃に注意するため、一度引いた。すると、信綱さんは刀を振ってきていた。俺は、後ろに飛びながらチャンスは今しかないと思い、飛んでいる体勢から、思いっきり木刀を振り下げた。信綱さんは、防ごうとしたが焦って倒れてしまった。
「大丈夫ですか!」
「あぁ、ちと痛いだけじゃ。」
「よかった。」
「一郎、お主も合格じゃ。」
「はい。」
「お主等、待っておれ。」
そう言うと、信綱さんは屋敷から印可を持ってきて、俺たちに渡してくれた。
「お主等には新陰流の伝道を認めるこの印可を授ける。これからも励むのだぞ。」
そして、印可試験は終わり、その夜は柳生の館で宴が開かれた。皆が俺との別れをにしんでいた。
皆が寝静まった頃に俺は信綱さんの元を訪れた。
「信綱さん、7年間ありがとうございました。おかげで、今まで自分に自信がなかったけど、自信が持てるようになりました。」
「そうか。お主は明日には旅立つのであろう。時というのは、早いものだ。して、一郎お主はこれより、何処に向かうのじゃ。」
「尾張に向かい、織田信長どのに仕えようと思います。」
「そうか。。。一郎、何があっても己の命を粗末にしてはならぬぞ。」
「はい。では、失礼します。」
「うむ。」
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次の日、俺は胤栄さんと共に、伊勢へと向かった。胤栄さんとは伊勢で別れ、俺は1人尾張へと向かう道を辿った。
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