第9話 東国繁栄の拠点

 年は変わり1667年1月になった。当初、美濃に入る予定であったが、織田、斎藤間の戦争が激化しており、いつ、戦闘に巻き込まれるかわからない為、安全な尾張を通る道を進むことになった。


俺は、尾張で清州城を見てみたいと思っている。残念ながら、信長は斎藤家との戦いで小牧山城に移っているため、姿を見ることはできない。でも、その信長によって、繁栄した町並みを見てみたいと思う。


-清州城城下-


「。。。」


皆、言葉が出なかった。特に俺と秀為は開いた口が閉じなかった。いつも写真でしか見たことのなかった城を実際に見ると壮大で実感が湧かなかった。市の通りの正面に大きくそびえ立つその建造物を人間が造ったと考えると、信じることができなかった。また、他の皆も箕輪城しか見てこなかった連中であるため、俺以上に興奮していた。一方、秀綱さんは


「真か。。。」


と言っただけだった。城下町の様子も活気づいていて、人の量が今までとは全く違った。店に備えてある商品も高級品から生活必需品まで何から何まで売ってあった。俺たちは、3時間ほど、城下を探索すると、次の目的地である近江へと向かった。


-尾張津島-

 この町は信長の父信秀の代よりの領有地であり、港町として発展した。しかし、このような町は現在でも、昔も危険であった。夜、皆が寝静まった時間帯に長屋から叫び声が聞こえた。秀綱さんは真っ先に走っていった。俺も遅れて付いて行った。すると、盗人が民家を荒らしていた。盗人は6人ほど居て、住人を人質に取り、金の要求をしていた。


「曲者ども!直ちにその者を解放せよ!」

「何奴!お主、織田の者か!」

「否。儂は上泉信綱にござる。」

「知らぬな!」


信綱さんを知らないだと、どんだけ田舎者なんだよ。


「命が惜しければ、その者を解放せよ!」

「掛かれ!」


人質を捕らえている首領以外が攻撃をしてきた。秀綱さんは出来るだけ相手を傷つけないように、刀を抜かずに戦っていた。しかし、気づくと5人に周りを囲まれていた。すると、とうとう刀を抜き、構えの姿勢を取った。盗人の一人が背後から斬りかかろうとするが、簡単に避けられ、仲間を斬ってしまった。その者は地面に倒れ込んでしまう。長身の男が秀綱さんを捕らえようと、突進するが、右に避けられ、転んでしまう。残った3人は一斉に斬りかかるが、受けられてしまい、弾き返された。それを見た、首領は恐れをなして、逃げるが、住民等に捕まった。結局、盗人は全員捕らえられた。この話はまたたく間に広がった。


-小牧山城-


 あれ、何で、こっちにいるの?京都に行くっていう話じゃなかったっけ。まぁ、でも良いや、今から織田信長に会えるからね。


 2日前、秀綱さんが盗人を捕らえたという情報が、信長の耳に入り、彼は兼ねて耳にしていた「上泉信綱」を一目見てみたいと言ったので、小牧山城に呼ばれたのである。そして、俺はこんなチャンス二度とないと思い、秀綱さんに同伴の許可を貰おうと思い、質問すると、意外にも許可された。


「上様、信綱どのが参られました。」

「おう、入れ。」

「失礼します。私が、上泉信綱にございます。そして、この者は私の、弟子であります。」


中に入ると、信長が居た。いつも、絵でしか見たことがなかったけど、本物を見ることができた。信長は、絵で見るよりも、優しそうな人だった。しかし、見ることができたのは、一瞬だった。


「うむ。弟子の者は下がって良いぞ。」

「はっ。」


俺は、すぐに部屋を出されると、秀綱さんと信長の話合いが終わるまで、外で待たされた。10分ほどだろうか、秀綱さんは部屋から出てきた。どんな話だったのかを聞くと、仕官の誘いを受けたらしい。


「どう、返事したんですか。」

「断った故、安心せい。」


秀綱さんが信長による仕官の相談を断ったため、旅を続けることとなった。この旅は、結局近江方面に戻る事となった。理由としては、秀綱さんの私用があるらしい。でも、俺は今回の旅で今まで言ったことのなかった場所に行くことができて嬉しい限りだ。





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