第2章 伊勢神宮を求めて760里

第8話 指名手配

 1566年9月27日に箕輪城が武田軍に滅ぼされた。長野業正の遺言を守った長野業盛は徹底的に抵抗し、最後は武士として、名誉の死を遂げた。


-上野国と信濃国の国境-

 秀綱さん一行(俺も含めて)は上野国と信濃国の国境へとやってきた。ここには碓氷関所が設けられているため、簡単には通ることができない。


「お師匠様見てください!お師匠の人相書です。どういたしますか。」


この人は、疋田景兼さんで、秀綱さんの直弟子の一人で、今いる弟子の中では一番強い人だ。


「儂を悪様に言いおって。儂は、女人に扮する故、お主等は従者の様に振る舞え。」

「はっ。」



そう言うと、秀綱さんは近くの市で、女人用の衣服を買い、着替えた。顔はわからないように布で覆っていた。


「よし、参ろうぞ。」

「はい。」


 俺たち6人は秀綱さんを囲うような形で関所に入った。中には、人が居て順番待ちをしなくてはいけなかった。15分ほど待つと、順番が来た。入ると、定番人が屋敷の中に座っており、質問をしてきた。


「何処から参られた。」

「我らは、白河より、姫のご婚儀のために今日へと向かっておるのじゃ。」

「では何故、警護が6人しかおらんのだ。」

「多すぎては反って目立つためである。」

「では、手形を見せていただこう。」


疋田さんが自分の懐を漁り、手形を出した。勿論、これは本物ではなく、さっき秀綱さんが服を買っていたときに作ったものである。


「。。。」


定番人がじっくりと手形の内容を確認した。


「よかろう。姫をしっかりと送るのだぞ。」

「はっ。」


こうして、碓氷関所を通り抜けることができた。定番人も反応から薄々気づいていたとは思った。しかし、問い詰めるようなことはしてこなかったので、感謝するべきであった。碓氷峠を越え、信濃国に入ることができた。


-信濃国上松-

 ここ、上松は中山道に位置する宿場町である。この地域は現在木曽氏に統治されている。


「皆の者、まもなく信濃を抜けるぞ。この旅も残り僅かである。」

「はっ。」


とうとう、長野県の西まで来たのか。思えば、俺ももう25歳か。。。もし、今現代に戻ったら、俺は25歳のままなのかな。。。


「2刻後には、出立する故、支度をせい。」

「はっ。」


-木曽福島城-

 

「義康さま、甲斐よりの書状にございます。」


木曽家18代当主木曽義康である。そして、横にいる20代の青年が木曽義昌である。


「父上、何と。」

「警備を怠るな、曲者は捕らえ次第、甲斐に送れと。。。何!」

「どういたしましたか。」

「上泉信綱(秀綱のこと。長野家滅亡時に、他家に仕えることを惜しんだ信玄が自分の名の『信』を与え、改名させた)が木曽におるらしい!捕らえると。。。十両!」

「父上!すぐにも参りましょう!」

「うむ。」


------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


「中々、居りませんな。」

「うむ。」

「上様、子供が剣士を見たと!」

「何!すぐに連れて参れ!」

「はっ。」


すると、7歳ほどの子供が連れてこられた。


「お主、その者は何処に向かった。」


子供は西の方角を指した。


「義昌。」

「ここに。」

「彼の方角には何がある。」

「上松でしょうか。宿場町であったと思いますが。」

「うむ。義昌、先に向かっておれ。」

「はっ。」

「お主、家はどこじゃ。」


子供はすぐ横の家を指した。


「この家の者に褒美を与えよ。」

「はっ。」


 一方、秀綱一行は、上松の宿場を発った。そこから、西に向かい、今日中に信濃を抜け、尾張に入ろうとしていた。美濃を通らない道を選択したのは、美濃は現在、織田、斎藤間での戦争が激化している為、危険であると、秀綱が判断したため。


-上松-

 義昌が着くと、すべての宿場に剣士が居ないか確認した。すると、7人の剣士を見たという宿があった。


「主よ、その者らは、何処に向かった。」

「西です。」

「そうか。すぐに追うぞ。誰ぞおるか。」

「はっ。」

「このことを父上に知らせて参れ。我らは追うぞ。」

「はっ。」


 秀綱一行はゆっくりと山を進んでいた。山に川が流れていたため、そこで水を飲んでいた。すると、10騎ほどの兵を率いた若武者が現れた。


「そこの御仁。名に聞きし上泉信綱どのにござるな。」

「。。。いかにも。」

「お手合わせ願いたい。」

「よかろう。」


すると、若武者は馬から降り、太刀を抜いた。


「覚悟!」


勝負はあっという間であった。切りかかってきた若武者の背後に回り、太刀を素手で取って、手で押し倒した。皆が呆気に取られていると、秀綱は太刀を若武者に返した。若武者は倒れたまま、秀綱を見上げていた。


「修行を積め。」


追ってきていた、義康50騎が走ってきているのがわかった。


「義昌!捕らえよ!」

「皆の者、逃げるぞ!」

「はい!」


さすがの上泉信綱も、合わせて60騎に勝てないと思い、逃げた。


信綱さんが本気を出すとこんなにすごいんだ。稽古のときには全くこんな技を使ってこないぞ。と俺は秀綱さんの剣術に心を奪われた。


「義昌、馬に乗れ!」

「父上、儂はもう良いです。」

「何を言う。美濃に逃げられては捕らえられぬのだぞ。」

「彼の御方には10両以上の価値がお有りです。」

「。。。」


義康は信綱たちが逃げていった方向を見ると、直線の道のはずがすでに姿が見えなくなぅていたため、義康も諦めた。


 俺たちは、須原、野尻を越え、三留野にまで来た。夢中で走っていた事と、皆の速さに合わせて走ったので、気づいたら着いていたという感じである。とうとう、あと 一つ宿場町を越えると、尾張との国境に来る。そうしたら、かの有名な織田信長の本拠地の清州城を見れる。現代では、見れることができないため、楽しみである。


「お師匠様、先程の技をご教授いただきたいです。」

「まだまだじゃ。先の若武者はどうやら、木曽の嫡男であったな。儂に勝てるようになれば、自然と出来るようになるであろう。」


------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


-甲斐国躑躅ヶ崎館-


「お館様、木曽義康どのが、上泉信綱と遭遇したようです。」

「捕らえたのか。」

「いえ。嫡男の義昌どのが手合に負け、逃げられたとのこと。」

「使えぬ奴め。信綱を我が家臣としてみたかったものよ。」

「恐らく、信綱は美濃か尾張に入ったでしょう。」

「うむ。知らせ大義であった。下がって良いぞ。」

「はっ。」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る