第10話 近江堅田の剣士とお師匠様
旅も中盤に終盤に差し掛かってきた。現在は近江国草津の宿場町で休息を取っている。その日の夜、宿場の長が信綱一行の部屋に来た。
「何用でしょうか。」
「こちらに剣豪の上泉信綱さまがおらっしゃると耳にしまして。」
「お師匠様!客人ですぞ。」
「これは。どちら様で。」
「儂はこの宿の長にございます。」
「して、何用にございましょう。」
「近頃、堅田の伊藤景久(一刀斎)と申す者が、辻斬りをしているそうで。我が息子も斬られたと、申しておりまして。。。信綱さまならば、その者を止めれるやもしれないと思いまして。」
「分かり申した。お引き受けいたしましょう。」
「ありがとうございます。」
「その前に、斬られた方の傷を見せていただきたい。」
「分かり申した。案内いたします。」
宿の奥の部屋に被害者が寝ていた。
「傷を見せてくれぬか。」
「はい。。。」
信綱は傷を見ると、一目で相手がただの曲者でない事がわかった。これは、油断できんと思った。
-翌日-
「お師匠様、堅田というのは何処にございますか。」
「北に36里ほどと申しておった。」
「もしや、ここを渡るので。」
「そうじゃ。」
そうして、琵琶湖を西に渡り、渡り終えると、北に向かいまた歩いた。そして、昼時には堅田に着いた。まずは、近隣の住民から情報を集めた。
「伊藤一刀斎という者を知っておるか。」
「あぁ、あいつなら、あの山奥の小屋にいる。気をつけろ。奴は斬りかかってくるぞ。」
「大事ない。」
山を登ると、本当に小屋があったが、どうやら出掛けているらしく、人の気配がしなかった。そのため、近くで帰りを待っていた。
30分ほどすると、鼻歌を歌う15ほどの少年が歩いてきた。信綱さんの直弟子の疋田さんが少年に帰るように言った。
「おい。そこの者。ここは危険故、帰るのだ。」
「あんたら、何者だ。ここは儂の家だ。」
「何!お主が伊藤。。。」
「そう。儂が伊藤景久じゃ。」
皆、その者が15歳ほどとは思っていなかったため、驚きを隠せなかった。
「お主、いくつよ。」
「儂は16じゃ。」
「よい。手合をすれば分かるものよ。」
「誰が儂と手合をするんだ。」
「お師匠様、ここは儂に。」
「うむ。」
こうして、疋田さんと景久の手合が始まった。
「参る!」
そう、疋田さんが叫ぶと、斬りつけた。それを受けた景久は跳ね返すと、何度も斬りつけた。師から教わった型を守り戦う疋田さんと、自流の戦い方をする景久の戦いは正直言って、すごかった。2人の互角な戦いが10分ほど続いた。両者、疲れ始めており、動きが鈍くなり、刀の当たったときの音が弱くなってきていた。それから、5分後には鍔迫り合いが多くなってきた。
「景兼(疋田)!刀を上げろ!稽古を思い出すのだ!」
この秀綱さんの一声により、疋田さんの動きが速くなり、疋田さんが優勢になった。徐々に追い詰められた、景久はジリジリと下がっていたが、とうとう岩に追い詰められてしまう。景久の背中が岩に当たり、周囲を確認するために、目を左右に動かした隙を突いて、景久の太刀を払った。太刀は南中している太陽の光に照らされ輝いて、空を舞った。太刀は何回を回転しながら、地面に刃が深く刺さった。景久は諦めた。
「儂の負けだ。斬れ。」
「お主のことは斬らぬ。」
「ならば、どうするのじゃ。」
「人斬りをやめろ。」
「。。。」
こうして、辻斬りで人を多く殺めていた、伊藤景久を疋田景兼は手合において、破った。この後、彼は高上金剛刀を極意とし英名を走せていた中条流の達人鐘捲自斎通宗を訪ね、江戸に向かい、修行を重ね、伊藤一刀斎と名前を変えて「一刀流」の開祖となった。
「お師匠様、中々の奴でしたよ。」
「お主も、負けそうであったではないか。」
「は、はっ。」
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「信綱さん、なぜ、近江に戻ってきたのですか。」
「儂のお師匠様を琵琶湖にて、見た者が居た故、参った。」
「あっ。」
秀綱さんが呟き、見ていた先には老人が居た。すると、信綱さんは走っていった。
「お師匠様!私にございます。秀綱にございます。」
「な、秀綱なのか。。。お主、箕輪落城の知らせを聞き、死んでおると思っておったわ。」
「往ぬわけがありましょうか。」
「して、何をしておるのじゃ。」
「はっ。今、伊勢へと参っておるのです。」
「そうか。儂もそうしたいが、戻らぬといかん故、すまぬな。」
「お師匠様、お体にお気を付けなされ。」
「わかっておるわ。」
秀綱さんは戻ってくると、恥ずかしそうな顔をしていた。
「あの方が、かの有名な塚原卜伝さまにございましょうか。」
「うむ。儂はあの御方にご教授頂いたのだ。」
「しかし、お師匠様がかのような顔を見せるとは。」
「良いのじゃ。」
こうして、俺たちは秀綱さんの私用が完了したため、最終目的地「伊勢神宮」に向かうため、近江を南下し、東海道を経由し、伊勢街道の宿場町である津に向かう道を進んだ。
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