第2話 箕輪
俺、竹田一郎は気がついたらやけに巧妙なドッキリにかけられていた。と、思いたいが、あまりにも扱いがひどすぎる。結局、この暗い独房のような部屋に入れらている。
顔に当たる光で目が覚めた。最初はあまりにも床が冷たすぎて寝れないと思っていたが、気づいたら寝てしまっていた。気がつくと、おじさんが立っていた。
「おい。付いてこい。」
外に無理やり出された。明るくて、目がくらむ。明るくなったため、初めて周りの様子を見たが、セットがドッキリにしては精巧すぎた。そして、俺は昨日と同じ広間に連れてこられた。
「よぉ、小僧。」
今、俺に話しかけてきたおじさんが長野業正っていう人。
「どうも。。。」
「覇気が足りんのう。お主、まことに武田の間者か。名を申してみよ。」
「竹田一郎です。」
「そうか。。。た、たけだだと!」
「斬首じゃ。」
「業正様、お待ちを。もしや、武田との交渉に使えるので。」
「否。晴信が応じるとは思えん。」
さっきから、何を話しているんだ。外を急いで走る足音が聞こえた。すると、襖が開けられた。
「安中城より、伝令!武田信玄が自ら軍を率い出陣しました。先鋒隊は飯富虎昌のようです。すぐに援軍を。とのことです。」
「うむ、出陣だ。この小僧は捕らえておけ。」
「はっ。」
そう言うと、長野業正は鎧兜を身に着け、出陣した。
この戦は「若田原の戦い」と呼ばれ、侵略してきた武田軍は周辺諸氏を懐柔し、鼻高砦に陣取った。対する長野軍は若田原に陣取り、奇襲を持って武田軍を混乱させた。結局攻めあぐねた、武田軍の撤退で、戦は終わった。
しばらくすると、周りがうるさくなってきた。どうやら、皆帰ってきたらしい。部屋には何もないため、まだ読み終わっていない、「孫氏」を読んでいた。読んでみると、意外と現代でも通じそうなことが書いてあった。しばらくすると、またいつもの場所に連れて行かれた。広場では、長野業正と家臣らしき人達が宴会をしていた。そして、俺はその中に呼ばれた。どうやら、酔っ払っていたらしい。
「おい、皆の衆。こいつが例の小僧だ。」
「こいつがか?笑わせんな。一度、武田の間者を見たことがあるが、こんな奴は居なかったぞ。」
「おい、秀綱。どう思う。」
「某は、彼の方が間者とは思えませぬ。」
「そうか。では、秀綱に此奴を預けようかのう。」
「業正様。。。」
「なんじゃ。断る気か?」
「いえ、そういうわけでは。。。わかり申した。この上泉秀綱にこの役お任せくだされ。」
話の展開が早すぎて、ついていけないんだけど。
「あの〜」
「おっ、喋ったぞ。」
「なんじゃ。」
「えっと、僕はこれからどうなるのですか?」
「どうなるも何も、秀綱がお主を預かるのだ。わしは、そなたを斬らぬが、秀綱は斬るやも知れんぞ。なんと言っても、信綱は「天下一の剣豪」であるからな。」
「いえ、私はまだ若輩者にございます。」
明らかにこの人は周りの人とは雰囲気が違うことは俺にもわかった。
その後、宴会は終わり。家路に着く者もいれば、酔いつぶれてしまう者もいた。幸い、秀綱さんは起きていたため、俺はついていった。秀綱さんの家は決して、お屋敷というわけではなかったが、前の所よりは良かった。秀綱さんは終始無言であった。
「もう、寝るがよい。」
と、ボソッと言われた。
「はい。。。」
あまりにも空気が重すぎたので、俺は寝させていただくことにした。
寝れねぇ〜〜〜!よくよく考えれば、何で訳のわからねぇところにどんどん連れて行かれるんだ。確認したが、あの人が起きている雰囲気はない。今しか、チャンスはない。ゆっくり、音を立てずに、忍び足。。。
「おい。」
背筋が凍りついた。絶対に殺されると思った。
「はは。。。」
「やはり、武田の間者か。」
「違います!違います!ほんとに違うんです!」
「どこが違うのか!」
「僕は今がいつなのか、ここは何処なのか、わからないんです!」
「どういうことだ。」
俺は真剣を俺に向けている信綱さんに向かって、必死に説明をした。俺は、2020年代から来たこと。本当にこれは、ドッキリじゃないのか。様々なことを聞いた。すると、剣をさやに閉まってくれた。そして、俺が質問したことに答えてくれた。わかったことは3つ。
・俺が居た西暦2020年というのは伝わらなかったが、現在が永禄2年だという事はわかった。
・ここは、本当に箕輪城であること。
・この人は剣豪で、主君の長野業正は、武田信玄の侵攻を何度も防いだことがあるとても、強い人であること。
この3つから俺は、場所は移動しなかったが、460年前にタイムスリップしてしまったことがわかった。そして、武田の間者だという誤解も取り払われた。
−翌日−
俺は、城に連れて行かれた。秀綱さんが些細をすべて業正さんに伝えてくれた。そして、俺は秀綱さんに弟子入りすることになった。秀綱さんは厳しいけど、いろんな事を教えてくれた。俺は、運動をしてこなかったから、最初は基礎体力を身に着けてから、本格的に剣術を習い始めた。俺の他にも弟子は居たらしく、時間を縫って、俺に稽古をしてくれた。同時に、兵法も教えてくれた。これは、俺がちょうど武経七書を持ってたからだと思うけど。
俺は、この半年で剣術が上達した。秀綱さんの門下生と一緒に道場で、稽古をしてもらっているからだ。おかげで、絶対に手に入るはずがないと思ってた、体も手に入れた。兵法も自分で、何回も書物を読み返し、秀綱さんの講義により、基本的なことは頭に入った。
だけど、どんなに訓練しても、秀綱さんにはまだ勝てない。俺も成長している気がするが、彼も日に日に強くなっている気がするから、いつになっても勝てる気がしない。今日も、負けだ。
「遅い!前よりは良くなったが。」
「はい!」
「秀為と稽古をしておけ。」
「はい。」
この人は上泉秀為。俺とは同い年の秀綱さんの息子だ。
「やぁ!」
地面に木刀を振り上げる男の影が写った。俺は、とっさに避けた。木刀が激しい音を立てて、地面に当たった。
「おい、後ろからは卑怯だぞ。」
「へへ、避けれたから良いだろ。」
俺は、半年前までは帰りたいと思っていた。だけど、今の生活は現代じゃ体験できないことばっかだから、もう少し残っていたいと思うようになった。
カーン
俺の木刀と秀為の木刀がぶつかって出た、高らかな音が道場に響き渡った。
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