第3話 時代の動いた年

 信じがたい出来事だが、俺が過去に飛んでから、1年が過ぎた。時が経つのはあっと いう間だった。よく、城下町に来る行商人から、各国の情勢が耳に入るようになった。現在は1560年9月である。4か月前には、俺でも知っている織田信長が駿河(現在の静岡県東部)の大名、今川義元を奇襲により、討ち取ったらしい。そして、今月信綱さんが、北陸の長尾(後の上杉)が関東に勢力を築く北条家討伐の命を受け、出陣したということを教えてくれた。長野家には関係のあったことで、何にせよ、同盟関係のため、業正さまも、出陣して北条軍と合戦したという事を知らせが来た。


「大変だ!武田軍が碓氷峠を越え、領内に侵入したぞ!」

「何!信綱さま、どういたしましょう。」

「このことは私が決めることではない。まずは住民の避難が先である。」


すると、足早に走る馬の蹄の音が近づいてきた。見ると、兵の甲冑は傷ついていた。


「ま、負けたのか。。。」

「今すぐに、城に入るのだ。武田軍が来るのも時間の問題じゃ。」

「はっ。」


そして、俺らは住民が城に入る手伝いをした。そして、俺らも2時間後には入城した。その後、兵士から合戦の話を聞いた。


「小幡さま(小幡図書介景定)の命で、南牧に進軍したんだ。すると、武田軍と桧平にて、合戦が起こった。そしたら、ひどい物さ、あえなく撤退だ。だから、儂は城まで撤退してきた。松井田、安中方面に撤退する者がほとんどだったがな。」


すると、慌ただしく部屋に入ってきた男が言った。


「武田が城の近くまで、来てるぞ!」


部屋が騒がしくなった。祈り始める人もいれば、何も喋らなくなる人もいた。


「迎え撃つべきぞ!」


誰かが、そう叫ぶと皆も同調した。結局、戦える者が駆り出された。信綱さんは勿論俺や他の門下生もだ。って、嘘だろ。。。何で、戦に巻き込まれないといけないの〜!もし、俺が今回死んだら、どうなるんだろう。って、そんなことを考えるな。とにかく、生き残ることだけを考えろ。


「一郎、良いか。とにかく、儂の後ろにおれ。」

「はい。」


そして、出陣した。門が開けられると、目と鼻の先に武田軍の騎馬隊がいた。武田の騎馬隊は戦国最強と言われた、武田家を支えている。彼らは門が開いたことを見ると全速力で突撃してきた。こんなの、現代のゲームでも体験できないぞ。指揮官は小幡景定さんだ。


前方で、人が悲鳴を上げている。味方の人達の足取りが止まった。そしたら、たまに人が飛んできた。


「一郎、儂の後ろにいろ。」

「はい。」


とうとう、俺たちの列にも敵が来た。すごい迫力だった。やはり、現実なんだと改めて、思い知った。しかし、あんなにも味方を蹴散らしていた騎馬隊を秀綱さんは馬上に敵がいながらも簡単に斬ってしまった。しかし、秀綱さん一人が強くても、周りの味方が倒されてしまうので、撤退するしかなかった。とうとう、景定さんが撤退の指示を出した。すると、味方は我先にとどんどん入っていった。逃げる時にふと、振り返ると、後方の人は槍で突き刺され、血が噴き出ていた。地面には、知り合いも倒れていた。その時、胸を締め付けられる思いがした。結局、武田軍は城を攻めなかったが、城の近くでやりたい放題していた。しかし、彼らも散々暴れたが、どうやら、補給が難しくなったためか撤退していった。


戦が終わると、住民は各々の家へと帰って行った。そして、俺たちも城を出たが、辺りの様子は酷かった。住居は破壊されていた。


‐1561年6月21日‐

 あれから、1年武田軍は侵攻してこなかった。また、上杉の北条攻めも味方の勝手な動きにより、失敗に終わり、業正さまも箕輪に帰ってきた。しかし、業正さまが病に倒れた。上杉による、北条攻めの後から、体調を崩されていたが、とうとう、治る事はなかった。秀綱さんも最後の見送りに参加したので、話を聞くことができた。


「業正さまはなんといっていたのですか。」

「儂も聞いてはおらんのだが、嫡男の業盛さまを枕元に呼ばれ『我が葬儀は不要である。菩提寺の長年寺に埋め捨てよ。弔いには墓前に敵兵の首をひとつでも多く並べよ。決して降伏するべからず。力尽きなば、城を枕に討ち死にせよ。これこそ孝徳と心得るべし。』と言われたそうだ。

「そうですか。。。跡はだれが継がれるのですか。」

「ご嫡男の業盛さまだ。立派なお方であるため、必ずや御父上の無念を成し遂げて下さるだろう。」


業盛さまは、この時17歳であったが、父業正さまにも劣らない武勇がお有りの方だと言われていて、長野家の命運はこの青年の采配によって決まる事となった。果たして、彼は父を超えることができるのか、俺には全く想像ができない。

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