第6話 虎の牙
-1563年
安中城-
武田信玄による、西上野侵攻戦が本格化してから、2年が経った。現在、西上野の有力豪族である安中氏の安中城が武田軍に包囲されたいた。
「景繁さま、武田より降伏勧告の使者が来ました。」
「通せ。」
すると、顎髭を沢山蓄えた、中年の男性が間に入ってきた。
「景繁どの、お初にお目にかかります。私は、武田家家臣真田幸隆(幸綱)にございます。」
「安中重繁が嫡男安中城城主安中景繁である。降伏の勧告であろう。」
「いかにも。」
「条件次第じゃ。」
「お館様は『降伏すれば、所領安堵といたす。』とのことである。」
「父上は無事か。」
「はい。重繁どのは諏訪城において、抵抗中とのことです。」
「ならば、儂は武田には下らん。お帰りくだされ。」
景繁がその場を離れようとし、立ち上がろうとしたときに、幸隆が口を開いた。
「お考えくだされ。重繁どの、景繁どのの両者が武田に抵抗を続けると申されるなら、安中は滅びまするぞ。」
幸隆の言葉には重みがあり、景繁は噂に聞きし、真田の棟梁の凄さを感じた。その、言葉に景繁は少しの間動けなくなってしまった。そして、先祖代々守ってきた、安中の地を安堵してくれるならと思った。
「真田どの、誠にこの地を安堵してくださるのだな。」
「はい。お館様は言われたことを破るお方ではありません。」
「分かり申した。降伏致そう。」
「では、明日には城を明け渡してくだされ。」
こうして、西上野の安中氏の居城である安中城は開城した。一方、父重繁の詰める、松井田城は降伏をせずに、抵抗を続けていた。
-諏訪城攻め軍議-
難航する松井田城攻めの打開策を決める軍議が開かれた。
「幸隆、策はあるか。」
「はい。嫡男の景繁どのを使者として送るのはいかがでしょう。」
「うむ。では、幸隆の案を採るぞ。」
「お館様、儂も共に向かってもよろしいですか。」
「よかろう。」
-諏訪城-
景繁は緊張した面持ちで、入城した。一方の幸隆は堂々としていた。
「重繁さま、武田の使者です。」
「追い返せ!」
「はっ!」
重繁に知らせに行った足軽が走って戻ってきた。
「どうであった。」
「申し訳ないがお帰りいただきたい。」
「そうか。。。」
幸隆は残念そうな顔をして、そう言った。
幸隆は交渉ができなかった事を信玄に伝えた。そして、すぐに力攻めが始まった。松井田城攻略戦は同年9月に終結した。落城寸前まで激しく抵抗した安中重繁であったが、武田軍の圧倒的な戦力の前には屈服せざるを得なかった。
「武田信玄さま、この老いぼれの過ちをどうかお許しくださいませ。」
「安中重繁よ、松井田城は没収とし、家督は景繁に譲り、出家せよ。」
「は、は〜。」
こうして、西上野の豪族安中氏は、武田家に降伏した。父は、無理やり隠居させられ、領土も一部没収されるという、酷い扱いとなった。一方、息子は早期に降伏したため、所領安堵とされた。こうして、虎の鋭い牙も少しずつ箕輪城に噛みつこうとしてきた。
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安中氏の降伏は、箕輪の一大ニュースとなった。皆、偉大な長野業正さまの跡を継いだ、業盛さまで箕輪を守り切ることが出来るだろうかと心配し始めた。
「信為、一郎、山での生活は慣れたか。」
「はい。最近は兵法書を読んでいます。」
「そうか。信為、お主はどうなんじゃ。」
「俺は稽古をしてる。」
「そうか。続けるのだぞ。」
「はい。」
-1563年12月-
武田軍が箕輪城に侵攻した。俺と信為は、いつもの穴蔵に隠れた。
-箕輪城-
箕輪城では軍議が開かれ、当主業盛、長野四家老の下田正勝、内田頼信、大熊高忠、八木原信忠などの重臣が参加した。
「業盛さま、打って出てはなりません。ここは、籠城が上策にございます。」
こう進言したのは、下田正勝だった。彼は、長野家一の忠義者で、業正の跡を継いだ業盛を補佐していた。
「うむ。爺の言う通り籠城策を採る故、兵糧や水を搬入するのだ。後は、爺が頼む。」
「はっ。」
こうして、箕輪城籠城戦が始まった。この時、武田軍により、箕輪城下、長純寺に火が付けられたが、業盛はこれに耐えて、必死に抵抗した。一方、箕輪城と連携関係にあり、孫子の兵法にある「龍の頭尾」(頭を打てば尾に当たり、尾を打てば頭に当たり、胴を打てば頭尾共に当たる)というものであった。箕輪城籠城戦は1566年まで、続く事となる。
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