第12話 柳生庄
北畠具政の誘いで、大和国にいる柳生宗厳、宝蔵院胤栄の元を訪れる事となった、信綱一行は具政の案内のもと、大和国に無事、入ることができた。大和国は、鎌倉時代から守護を興福寺が務めるほど、寺社の力が強力であった。しかし、戦国時代になり、興福寺の力が衰退すると、「大和四家」である、筒井家・越智氏・十市氏・箸尾氏の勢力が台頭してくる。筒井順昭の代に、筒井家が大和国を統一し、河内国にも勢力を伸ばし、筒井家の全盛期を築いた。しかし、1550年に28歳の若さで亡くなると、嫡男の順慶が2歳の若さで家督を継いだ。その後は、三好長慶や松永久秀との争いで力を失っていく。
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−大和国柳生氏館−
「ごめん!柳生宗厳どのはおられるか!」
すると、館の中から気の強そうな小娘が出てきた。
「お主等、何者だ!」
「我らは柳生宗厳どのに会いに来た。」
「父上にか。」
どうやら、柳生宗厳の娘らしいが、とても気の強そうな子だった。すると、その子は館に戻った。
「父上!客人ですぞ!」
すると、中から35歳ぐらいの男と、槍を持ったお坊さんが出てきた。
「どなたかな。」
男が聞いた。
「儂は、北畠具政さまよりそなた等を紹介され、参った上泉信綱である。」
「上泉さまにございますか!おい、小桃、なぜ言わぬのだ。言ってくだされば、こんな姿では。。。のう、胤栄。」
「あぁ。」
「して、信綱さま、失礼だが儂らと手合をしていただきたい。」
「お受けしよう。では、支度をせい。」
「ありがたき幸せにございます。」
そう言うと、2人は館に戻った。父に続いて、娘も館に走って行った。時々、館の中から、叫び声が聞こえた。
「胤栄!お主、槍を何処にやった!」
「なに!宗厳、お主の娘ではないのか!」
「小桃!胤栄に槍を返さぬか!」
俺は、戦国時代には珍しく賑やかな場所だと思った。大和国の山奥という事も関係しているのかもしれないと思った。
10分後、宗厳と胤栄が先程とは、打って変わって、新品のような綺麗な服を着て、出てきた。宗厳は太刀を腰に提げ、胤栄は槍を持っていた。
「では、儂から。」
と宗厳が前に出た。すると、信綱も前に出て両者、刀を抜いて、構えの姿勢を取った。両者少しの間にらみ合った。しかし、先に動いたのは、宗厳であった。
「そんな構えでは、刀を取られるぞ。」
信綱がそう言うと、突っ込んでくる宗厳の左に飛び込むと、刀を奪い、投げ捨てた。
これは信綱さん(信綱から、改名したことを教えられた)が前、木曽の御曹司を倒したときに使った技だとわかった。
勝負は、あっけなく終わった。宗厳は、自分が負けたことが受け入れられなかったのか、呆然としていた。しかし、胤栄は1人笑っていた。
「信綱さま、ぜひ儂とも。」
胤栄は笑いながら、そう言った。
「お主も、この者と同じよ。」
そう、信綱が呟いた様子を宗厳は、地面に這いつくばりながら、見上げていた。胤栄は、槍を頭上で振り回し、ゆっくりと近づいてきた。すると、いきなり槍を信綱めがけて振り下ろした。しかし、あっさりと避けられたが、次は信綱の避けた方向に槍を振った。胤栄が瞬きをし、目を開いた瞬間、信綱が消えていた。見当たらず、後ろを振り向くと、信綱が居た。胤栄は槍を振ったが、感触がない。手を見ると、槍がなかった。驚きを隠せなかった胤栄も呆然とした。偶然にも、信綱に戦いを望んだ2人は、どちらも呆然として、動けずにいた。
「信綱さま、どうか、我々を入門させていただきたい。ご無礼はお許しください。」
「よかろう。そなた等は、儂の下で稽古を積めば、必ずや、良い剣士となれるであろう。」
「はっ。」
こうして、宗厳と胤栄の2人が新しく信綱の門下生となった。稽古のため、信綱一行は、柳生庄に留まることになった。
俺が、この時代に来てから、7年近く経ったが、そろそろ、自分の殻を破らなければいけないと思い、信綱さんに相談した。
「信綱さん。今まで世話になって、申し訳がないのですが、自分は、信綱さんの下をしばらく離れて、旅をしてもいいでしょうか。」
「。。。寂しいものだが、お主がそれを望むのならば、止めはせぬ。じゃが、儂に勝てなければならん。旅の途中で、山賊に襲われれば、己の力で勝たねばならん。お主には、教えることは教えたつもりじゃ。兵法も、剣術も。明日、辰の刻に儂の下に来い。」
「はい。。。」
正直、勝てる気がしない。俺も、この7年で成長はしたと思う。精神面でも。だけど、稽古で信綱さんに勝ったことは一度もない。俺は、外を見た。まだ、日が沈んでいないことを確認すると、柳生庄の宗厳さんの所に行った。
−柳生庄−
「一郎、なにか用。」
小桃が話しかけてきた。
「宗厳さんはいるか。」
「父上なら、山に胤栄と行ったよ。明日、印可を貰える試験があるんだって。」
そうか。明日は、信綱さんから、印可がもらえる日だ。だから、もし俺が勝ったら、俺にも印可をくれるってことか。
山では、宗厳さんと胤栄さんが2人で訓練をしていた。
「おっ。一郎じゃねぇか。」
「宗厳さん、俺も混ぜてください。」
「なんだ。お前も受けるのか。」
「はい。明日、勝たなければいけないんです。」
「まぁ良い。儂らに合わせるのだぞ。」
−翌日−
「今日、そなた等に印可を渡せるか試験をするが、強制するわけではない故、受けたい者のみ、前に来い。」
宗厳さん、胤栄さん、そして俺の3人が前に出た。
「この者等で良いな。」
「おい。一郎、何故試験を受けるんだ!」
秀為が、叫んだ。
「すまんな。俺は自分の殻を破って、新しい景色を見たいんだ。」
「静まれ。この者等以外は、帰って良いぞ。」
とうとう、試験が始まりそうになって来た。
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