第35話 妖魔戦争跡地
日が沈み、雲から少し漏れる月明かりが朧気に照らす。
ぼくら3人は跡地へと向かっていた。
「あそこそんな名前だったんだなぁ…俺らの中じゃ呪われた土地って呼ばれてた」
翔がしみじみとしたように言う。翔は既にシュビィとの同化を済ませ、シュビィの固有能力だと思われる物を発動させていた。
頭には角のようなものを生やし、目は緋色にひかり、身体に黒い物体をまとわりつかせて、どういった原理なのか一切分からないが、空を走っていた。
翔が言うには夜を蹴っているそうだがよく分からない。
「その見た目…どっちかというと敵役感がないか?」
僕がそう言うと、翔は少し気にしていたのか嫌そうな顔をする。
「ちょっと自覚あるんだから言うんじゃねぇ」
「ていうか、俺からすればフウにもびっくりだぞ。お前翼なんてあったのかよ」
「まぁ、これめっちゃデケェからな。普段から出してたら邪魔だろ??」
「だけど、トップスピードになるにはこいつ出てたほうが速いんだよ」
「ふーん」
そんな気の抜けた会話を続けていた。
決して、気を抜いてる訳では無い。ただ、この戦いが今までとは違い、圧倒的力量がある訳ではない。全員が、それなりに緊張しているんだ。
もし、僕らが負ければ奴らに勝てるものがこの世界にはいないことを意味する。
そうなれば終わりだ。全世界が奴の実験場と化してしまう。
(いや、負けることを考えるのはやめよう)
僕は頭を振り、今の考えを消し去る。
僕らは勝つのではない、勝たなければならない。凛も救い出し、この3人が誰一人欠けることなく事態を終息させる。
理想ではなく、確定事項としなければならない。
そう、負けることなどあってはならないものだ。
「そろそろ着くぞ」
生い茂っていた木々が途端に途切れる。
肌にまとわりつくような妖力を感じる。明らかに、濃度が変わった事を意味する。全く妖力を感じ取れない人間でさえも、感じとってしまうほどの濃さ。それは、人間にとって毒と言っても過言では無い。
翔の方に一瞬目をやったが、特に変わったような様子は無い事に、安堵と不安が半々だった。
(ここに入れた以上、こいつはもう人間では無いな……)
翔が望んだことなのだとしたら、僕は止める事はしない。だが、未だに分からないシュビィの狙いが気がかりだった。
(僕の読みではこの戦いの中で確実に仕掛けるはずだ。ここなら、たとえ何があったとしても周りに影響は出ない。それに…)
「あいつら相手なら何をしても僕らは文句を言うことが無い」
「あ?!なんかいったか?!」
声に出ていたらしく、翔の耳に届いてしまった。
「いや、なんでもない。ただの独り言だ」
そうこうしているうちに僕らは跡地にたどり着いた。
─────────────────────
「見晴らしはいいのに、妖力の濃度が濃すぎてぜんっぜんどこにいるかわかんねぇな」
あたりは何も無いが更地だが、誰も見当たらない。
僕らが少しキョロキョロと周りをしていると、頭に声が響き渡る。
『いやぁ、待ちくたびれたよ』
「なんっだこれ…頭に声が…」
『はは、これは《念話》と言ってね?ある一定の距離の者に自分の声を届けるという妖術さ』
『便利だろう?』と、蛇は笑った。
「御託はいい。凛を返せ」
僕はどこかにいるであろう奴を睨みつける。
『そんなに焦るんじゃない。死んでなどいないから安心したまえ』
『私はこのまま真っ直ぐいった所にある建物の中にいる。そこに来ればいい』
『まぁ、来れればの話だが……』
その言葉と共に辺りにちらばっていた人骨が動き出す。
「ちっ…!やっぱしかけてきやがったな!」
「コン!お前は凛ちゃんの方に向かえ!俺と翔でここを引き受ける!」
「どうせ、この中に…!」
フウはそう言って迫り来る人骨たちをかき分け、一体の骸骨に斬り掛かる。
その骸骨はフウの剣を片手で受けた。
「紛れ込めたと思ったのですが…なぜバレたのでしょうか?」
「あぁ?!なんかお前が1番強そうな気がしたからだよ!!」
「そんな勘で当てられるのはいささか不愉快ですね!!」
「《骨成 肋骨 拡張》」
「《射出》」
餓者髑髏は身体の骨を膨らませて肥大化させ、無数の鋭利な骨を飛ばす。
フウは捌いて回避し、僕は飛ぶ骨を焼こうとししたが、何個か焼ききれずに飛んでくる。
「ちっ…!」
僕は術を発動させようとしたが、目の前で黒い何かに飲み込まれて骨が消える。
「お前はさっさといけ!」
見ると翔はその場に留まり飛んでくる骨を全て消滅させていた。
「おや…人間の貴方の妖術は血と影を操ると聞いていたのですが…?」
「ふむ、どうやらもう人では無いようだ…」
「うるせぇよ。お前よりかはまだ人の形保ってるわ」
小手先で処理が出来ないと悟ったのか、膠着が続く。
僕はそのすきに、前方の骸骨たちを蹴散らしてヘビの言う方向へと向かう。
「僕は行く!絶対死ぬなよ!」
「簡単に行かせるとお思いで?」
「《骨成 腕骨 倍化 融合》」
餓者髑髏のその言葉にあたりの骨が奴の腕に集まっていき、次第にとてもじゃないが避けきれないでかさの腕となる。
「《亡者の鉄槌》」
餓者髑髏はそのまま腕を僕目掛けて振り下ろす。
僕はその攻撃をまるで気にすることも無く、前へと進む。
何故かって?決まっている。
「逆に聞こう」
「その程度で僕らが止められるとでも?」
僕の背後には翔とフウが立ち、フウは抜刀の構え、翔は禍々しい夜を集めて次第に斧のような物を作り出す。
「《天狗流抜刀術 山嵐》」
「《夜統 戦鎚 星砕き》」
互いの攻撃が巨大な骨の腕を粉々に砕く。
僕はそれを背に凛の方へと向かった。
─────────────────────
「ほう、あれを砕きますか…」
「流石といったところですが…まさか、あの人間までもあれを砕く威力の技を使うとは…」
クラマは少し驚いたような顔をする。
「生憎うちの大将はお前ごときの相手をしてる場合じゃないんでね」
フウが少しにやりと笑いながら答える。
クラマは翔とフウを交互に見てうっすら笑ったように見えた。
「いやぁ…残念です。彼なら私を殺せたでしょうがあなた方では私は殺せない」
「まぁ、いい…。私の仕事はあなた方をここで殺し、九尾に絶望を与えることですのでね」
クラマはゆっくりと妖力を高めていく。翔はその様子に少し恐怖を覚えそうになる。
(やべぇ…まるでコンと向き合ってるみたいだ…)
(けど、なんて冷たい妖力なんだ……)
その姿に体の中からシュビィが励ます。
『大丈夫、まだ夜はこれからよ。あなたはまだまだ強くなる。それに……』
『隣には
翔はその言葉にフウの方に目をやる。
「そうだな……」
「絶対勝とうぜ。師匠!」
そう言って翔はフウの方に拳を突き出す。
フウは驚いたが、嬉しそうに笑った。
「当たり前だ!行くぞ、馬鹿弟子」
──────────────────
「何だこの建物は……」
僕は目の前に立っている白い塔のような建物に驚きを隠せなかった。
こんなものは以前はなかった。ということは建てたのは蛇自身ということになる。
「罠としか思えないが……」
ここに凛がいるのであれば入る以外に選択肢はなかった。
中に入ってまた驚いた。
明らかに外から見た建物の大きさと中身の広さが合わない。
階段のようなものが奥にあるが、一つ一つがかなり広く、天井も高い。
僕が中を物色していると、上から何かが落ちてきた。
「あれは…鬼か?」
恐らく蛇に操られた者だろう。 見れば全身が風で覆われており、腕などは岩で武装されている。
「3種類の妖術を同時発動…そして、僕の妖術対策の自然系を付与されてるのか」
僕が観察していると、その鬼はこちらに距離を詰めて襲いかかる。
後ろに飛び避けたものの、先程まで僕がいた場所は鬼の攻撃で地面が割れている。
「《怪力》の妖術も健在か…少し面倒だな。だが……」
僕は地面を蹴って一気に鬼に距離を詰める。
そのまま鬼と自分の拳の間に妖力で壁を作り、そのまま殴りつける。
殴りつける瞬間に妖力を弾けさせて、衝撃波を作り出し鬼を吹き飛ばす。
「《火よ》」
そのまま火の玉を大量に作り出し、鬼へとぶつけ続けてながら、僕は詠唱する。
「時間が惜しい。最初から全力で行く」
「《我、火炎の術を極める者なり》」
「《我、妖の深淵を覗く者なり》」
「《昇華せよ 極めし者の門を開け》」
「《仙法 赫灼の九尾》」
詠唱を終えたと同時に、鬼は火の玉を掻き分けて、突っ込んでくる。
だが、僕の近くまで来た時に突然発火した。
「仙人の僕に不用意に近づくな」
「貴様ごときではこの場で息をすることすら許されない」
「まぁ、聞こえてないか」
僕が言い終わる前に鬼は既に体を消滅していた。
「上にいるとなると…この塔を壊して探すよりかは堅実に階段を登る方が安全か」
僕は前にある階段を登った。
────────────────────
「一体なんの意味があるんだこれは」
既に20は階段を登り、その度に多種多様なあやかしに襲われていたが、どれも僕と戦うには役不足でしかない雑魚ばかりだ。
「時間稼ぎにもならなければ、消耗にもならない。何が目的でこんな事を……」
そう思いながら、もう1つ上に登ると今までの簡素な部屋とは違い、辺りには明かりがともされており、一際に広い所にたどり着いた。
「階段もない。ここが最上階か…?」
僕が辺りを見渡していると、またもや頭の中に声が響く。
『いやぁさすがと言っておこう。この短時間でここまで来るとは……』
『そして先程から見せているその力はこの前戦った時には無かった代物だ。また強くなったようだねぇ…私はとても感動した』
「面倒な能書きをいい。早く凛を返せ」
『つれないなぁ。まぁいいか』
そこまで言って、蛇は暗闇の中から姿を現した。
体から伸びる長い尻尾の先には凛を巻き付けていた。
「凛!!!!」
「おっと、近づくないでくれよ?うっかり締め潰してしまいそうになる」
「大丈夫だ、今はまだ意識を失っているだけ死んでいないよ」
僕は飛び込みそうになった足をぐっとこらえる。
「さて、私の目的も最終段階だ。その前に君には私の最高傑作と戦ってもらうよ」
「最高傑作でもあり、対君用のものさ」
そう言うと、蛇は指をパチンと鳴らした。
その音と同時に、突然横から打撃が飛んでくる。
すんでのところで避けたものの、四方八方から繰り出される打撃を全てはよけきれずに、何発か食らい、後ろへと吹き飛ぶ。
(この状態の僕がスピードで負けた…?)
(近接戦闘が苦手とはいえ、やはりこいつは強い……)
(だが……)
やはり居たのは黒ずくめの男であり、その男は僕が体制を立て直すよりも早く追撃をかける。
「《仙法 赫灼千手組手》」
僕のその言葉と同時に、無数の火の手を作り出し、追撃を躱しながら何発か打撃を叩き込む。
「早いだけでは僕には勝てない」
「《仙法 観音烈火拳》」
赤く燃え盛る手が、目にもとまらぬ速さで黒ずくめの男を叩く。
まともに食らった男はそのまま吹き飛ばされてしまった。
「何が最高傑作だ。この前は油断していたが、油断せずに戦えばこの程度の奴は障害にならない」
そう言って蛇の方を見ると笑っていた。
「何がおかし───」
僕の言葉を遮るように、雷の刃が僕の頬をかすめる。
飛んできた方角に向き直ると、既にその男は距離を詰めており、僕の腹へと蹴りをいれる。
まともに食らった僕はそのまま後ろに吹き飛び、体勢を立て直す前に雷をまとった男は僕の後ろへと回り込み、妖術を唱える。
「《雷よ》」
「《閃光 雷鳴八卦》」
雷と纏ったその衝撃波が僕の頭上を襲う。
僕はまともに食らってしまい、身体を地面に叩きつけられる。
「ぐはっ……!」
この技には見覚えがあった。
初めから違和感はあった。初めてあったはずのこいつにどこか懐かしい感覚に襲われていた。
だが、ありえないと、そんなはずがないと無意識の中で否定していた。
身体から生やしていた火の手で追撃を避けて、向き直る。額からは血が滴り落ちる。
黒ずくめの男の顔はあらわになっていた。
「なぜ…死んだはずだ…!」
僕の疑問に蛇は嬉しそうな顔した。
「その顔!!その顔が見たかった!!それを見れたのなら、こいつを作った甲斐があるというものだ!!」
「いやぁ…苦労したよ。なんせ、死んだはずの人間をそっくりそのまま再現するというのは…」
そこには死んだはずの総一郎が立っていた。
総一郎はゆっくりとこちらを見て笑った。
「久しぶりだな〜コン」
「なんつーか感動の再開って感じでもねぇけど、命令だし仕方ねぇよな」
その言葉と共に総一郎は一瞬にして、僕に距離を詰めていた。
「なっ…!」
咄嗟に防御の姿勢を取ろうとしたが、間に合わずまともに攻撃を食らう。
「ハク様の為に、お前死んどくか」
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