第24話 過去の回帰 巫女の企み
「さて、じゃあ早速始めようか」
僕はそう言って、翔の方に向き直り九本の尾を全て解放する。
「まず、妖術を使うのではなく妖力のみを操作し、相手へと影響をもたらすというのはかなり難しい」
「透明で形の分からないものを、自分の思い通りの形に作り替えるということだからな」
「じゃあコンはどうやって動かしてるんだ?」
翔も既にシュビィと同化して準備を終えている。
「大事なのはイメージ。自分がどう動かしたいのか、自分はどうしたいのか、自分はどうありたいのか」
「そうすればこんなことも出来る」
僕はそう言って風を起こし、舞った木の葉を竜巻のように旋風させその場に留まらせる。
「え?は?おま…それ風の…!」
翔は驚愕の表情浮かべる。
「まぁ、これは大道芸の域を出ないがイメージさえ掴めれば、ある程度自然系は再現できる」
僕はその次に木の葉を徐々に凍らせていったり、光らせて稲妻を発生させたり、溶かして腐食させていったりと色んなことをする。
「そこまで殺傷能力がある訳ではない割に、そこそこ集中力がいるから全く戦闘には使えないがな」
僕はそう言って妖力を解き、もはや唖然と言った表情の翔に苦笑しながら向き直る。
「まぁ、ここまでは求めていない。これはイメージの修行の延長線上にあるものだからな」
「お前に教えるのは、主に3つ」
「1つは相手を制止させる方法、1つは妖力で相手を圧迫し動けなくする方法、あと一つは周囲の無機物を自在に操作する方法だ」
翔は少し緊張しているのか、ゴクッと喉を鳴らした。
「さぁ、早速始めよう」
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「…だぁっ!むっず!なんだこれ!」
翔は息を切らしてその場に座り込む。修行を初めて約2時間ほど、成果どころかその兆しすらも見えない状態だった。
今行っているのは、無機物を自在に操るという修行。周囲の石を動かして木に当てるというものだが、石は先程からピクリとも動かない。
「見えないものを使うってのはこんなにもムズいのかよ…」
翔は項垂れて少し考え込みだした。
「少し助言してやろうか?」
僕がそう言うと、翔はこっちを向いて待ったをかける。
「いや!まだ大丈夫!コンいわくこれが一番簡単なんだろ?もうちょいひとりで頑張りたい!」
「そうか…」
僕は少し声のトーンを落とした。そう、暇なのだ。翔がしているのをぼーっとみているだけで何もすることがない。
「おい、り──」
僕はそこまで言いかけて口を閉ざす。僕は今当たり前のように凛に茶菓子を持って来させようとしたが、そうだ今はいないのだ。
「…自分で取りに行くか」
僕は台所に向かい茶菓子とお茶を取りに行った。
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日が少し傾き時刻は正午過ぎ、翔は3個の石を浮かして、木へと飛ばす。
「で、できた!!やった!!」
翔が嬉しそうにこちらへと駆け寄ってくる。
「お、できたか。何をイメージしたんだ?」
僕は嬉しそうな翔を見ながら問いかける。
「えっとな、最初は妖力で石を下から押し上げるようなイメージをしてたんだけど、全く上手くいかなくて、逆に持ち上げるイメージにしたら少し浮いたんだよ!」
「けど、上手く動かすことはできなかったから、更に考えて自分の指から糸を出してそれを石に繋げるイメージで使ってみたら上手くいった!!」
興奮しすぎて、説明がちょっと断片的すぎるが大体は正解だろう。
「糸のイメージはいい、僕も同じようなイメージだからな。じゃあ次はもっと数を増やせ。そうだな……100は最低でも自在に操れるようにならねば、次には進めん」
「ひゃっ…!まじで…?」
「まじだ」
翔はガクッとうなだれてしまった。
「まぁ、1度休憩して次は夜になってから再開しよう」
「1度おりて村でご飯でも食べてこい」
「夜だな!任せろ絶対夜の方が──」
翔はそこまで言いかけてやめた。僕は何を言おうとしたのかは何となくわかるが、あえて聞き返した。
「?どうした」
「いや、なんでもない!飯食ってくる!」
翔はそう言うと、そのまま村の方へと走っていく。全く、あれで隠しているつもりなのだろうか。
「使えば使うほどに人からは離れていっているな。翔はこれでいいと思ってるのか?」
僕は自分の影の中へと話しかける。どうせいるであろう奴に。
「はぁ…なんで分かるのかしらほんとに。びっくりさせようと思ってこっちに入ったのに」
「翔ちゃんもわかってて使っているわ。私も止めるつもりもないし、そもそも翔ちゃんが人から離れてしまうからという理由で、この力を手放すことはできるはずがないわ?」
シュビィが僕の影から少し不貞腐れたかのような顔して出てくる。
「……お前の本当の目的はなんだ?」
僕は真っ直ぐにシュビィを見つめる。もはやこいつを疑うつもりは無い。だが、僕はこいつの事は最初から何かあると思っているだけだ。
「まぁ…ないと言えば嘘になるわね。だけど、安心して?決してあなた達を裏切るわけでもないし、翔ちゃんが悲しむことも無いわ?」
「だって愛しているもの」そう言って、フワッと浮き上がり影から抜け出し、どこからともなく日傘を出してきてそれを開く。
「私の本当の目的と翔ちゃんの望みは合致する。これを運命と言わずとしてなんと言うの?」
「私は彼に全て与えたい。ただそれだけよ」
その異界の少女は不敵に笑った。だが、その少女もまた、以前よりも大きくそして少し変化した妖力を漂わせていた。
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「……っしゃあ!来た!!!!」
時刻は夕暮れ時、翔は遂に100個の小石を操作することに成功した。
「まぁ、簡単な操作だが及第点といったところだな」
僕はそれを寝そべりながら、ぼーっと見ていた。そんな僕に翔は少し不服そうな顔を向ける。
「お前もっとやる気出せよ〜。なんかこっちまで気が逸れちまう」
「お前のを見てるだけなんだから僕は暇なんだ。仕方ないだろう?」
僕は茶菓子をポリポリと食べながら受け答えする。
「まぁ、今の修行は初歩中の初歩のものだ。本来はあの大きさの小石程度なら数千個ぐらいは軽く動かせるようになって欲しいものだな」
「うげぇ…なんでそんなことできるんだよ…」
翔は頭がおかしいやつを見るかのような目を向けてくる。やめろそんな顔を僕に向けるんじゃない。
「まぁ、僕の場合は手で操作と言うよりかは尻尾で操作することが多いからな。単純にお前よりも簡単ではあるかもしれないな」
「だが、糸と言うイメージはとてもいい。次の修行も糸のイメージだと案外すぐかもしれないからな」
「次は相手を空中で止める方法だ。今の小石の操作よりももっと細く、そして大量の糸を張り巡らせる感覚でやるといい」
「い、今よりもか……」
翔は遠い目をしてしまった。まぁ、正直ここからはかなり難しいものになるし、なんせこれを戦闘時に一瞬で使えるようにならなければ意味が無い。だが、無理難題では無いと僕は思っている。
そんなことを考えていると、翔は頬をパンっと叩き自分を鼓舞した。
「やってやるよ!絶対できるようになってやる……」
僕はそんな翔を見ながら、ふと疑問を浮かべた。
「なぁ、翔。お前はどうして強くなりたいんだ?凛を守る為か?」
僕が聞くと、翔は少し考えた素振りを見せながらも答える。
「前はそうだったけど、今は違うんだ。俺にはな夢ができたんだよ」
「夢?」
「そう!俺はもっと強くなって、コンやフウよりも強くなって、そして俺が人とあやかしの繋がるきっかけになりてぇんだ」
「人間があやかしを怖がるのは、人間を襲うあやかしがいるからだろ?だから、そんな奴らは退治して、人間と仲良くしたいって思ってる奴らとは一緒に暮らしていく。そんな世界を作りたい」
「その為にも人間があやかしと対等な力を持って対等に仲良くしてるって言う第一号になってさ?ゆくゆくはあやかしと戦う為の修行ができる場所みたいなのを作ってみたいな事がしたい!」
「これが出来たら楽しいと思うんだよなぁ…」
僕はその言葉に驚いた。そして笑ってしまった。そうそれは遠い昔に同じ言葉を聞いたからだ。
「な、なんで笑うんだよ!俺は本気だぞ!」
翔は笑う僕を少し不服そうに見る。
「いやぁ…すまない。似ているとは思っていたが、同じ事を言うとは思わなくてな…」
「似てる?」
翔は不思議そうな目をしていた。
「昔、1人だけお前のように妖術を使う人間を見たことがあるんだよ。そしてお前みたいに『人間とあやかしが友達になれる世界を作りたい!』っていったバカがいてな」
「あの時は無理だったが、もしかするとお前ならできるかもしれないな」
「昔にもいたのか?!え、どんなやつだよそいつは!」
「私もその話とても興味あるわ?」
シュビィと翔が予想よりもとても興味津々な様子な事に驚いたが、僕は話すことにした。
「彼の名は総一郎。僕とフウの師匠のような奴だ」
僕はもう数百年は前だが、今でも忘れることがない彼の事を話し出した。
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コン達が修行をしている中、村人たちは総出で集会を開いていた。
「たしかに楽しそうではあるが、今から間に合うのか?」
「大体こんなにも食材や材料をどこから持ってこれば……」
「前例がないなんてものじゃない。確かにあの人達には感謝しているが、こんな大々的にしてしまったら他の村からなんと思われるか…」
「私的にはありよ?だって楽しそうじゃない!」
村人達は口々に意見を出し合う。
その中で真ん中にいる少女がバンッと机を叩き、自分に注目を集める。
「やるかやらないかではなくて、やるんです」
「私達は、今まで彼にはとても助けて貰っています」
「そして、先日の襲撃ではそれを目の当たりにした」
「今までそれがなかったのも、この村が平和に暮らせていたのも、今回の襲撃で死者が1人も出なかったのも彼のおかげと言っても過言ではありません」
「我々村人だけではなく、あやかしであるフウ様にだって手伝って貰えれば、材料なんてどうとでもなります」
そこまで言って少女は一息をつき、高揚させた満面の顔を浮かべながらまるでイタズラを思いついたかのような口調で語る。
「だからやりましょうよ!夏の終わりに生贄を捧げていた事が誤解なのであれば、その代わりに盛大にお祭りを!」
「コン様に感謝を伝えるお祭りを!!」
「残夏祭を!!」
凛は声を高らかにあげた。これが、前代未門、そして歴史史上初の行事として、名を連ねることになるなど、この時の少女は微塵も思っていなかった。
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