第9話 翔の本質
「コン!助けてくれ!!!」
あいつの顔を見れるようになった翌日、翔がいきなり来て僕に向かって助けを求めた。
「何の話だ。助けるにしても僕が助けるものには範囲があるぞ。」
「毎日毎日誰かに呼ばれてるんだよ!!遂には意味のわかんないことも言われ出したし、明らかに妖術の本質を知る修行しだしてから起きたことなんだから、妖術絡みなんだろ?!」
「マジで助けてくれ本当に。」
どうやら本当に困っているようだ。
正直、見当はついてはいるが敢えてフウが教えていない可能性もあるから、何も言わなかったのだが、肝心のフウはまだ帰ってきていない。
だが、このまま修行の妨げになり続けているのであれば、教えた方がいいのかもしれない。
そこまで考えていると、あいつが横から僕に話しかける。
「色々考えがあるのかもしれませんが、ここまで困っている翔くんは珍しいです。少しの助言ぐらいはしてあげてくれませんか?」
そう言って僕を見る。
「ま、まぁ少しの助言はいいか。」
そう言って僕はあいつから目を離し、翔に向き合って、僕の推測と、妖術の事を話し出した。
「まず、妖術の本質は大きくわけて2種類ある。」
「僕やフウの本質は《自然系》、これはこの世に漠然と存在するものが本質に当たるもののことを言う。僕たちのように火や風の事だ。これが一般的であり、ごく普通の妖術だ。」
「だが、稀に特異な本質を持つ者もいる。それは《言霊系》と呼ばれ、言葉として存在するものが本質となる場合だ。」
「僕が知っているものは空間や恐怖、時間というような言葉の意味から連想される妖術を使うもののことを指す。」
「《言霊系》は制約が多かったり、扱いにくいものであるが、かなりの力を秘めたものが多いんだ。」
「恐らくお前の本質は《言霊系》に分類されるものだ。よかったな。」
翔はぽかんとした顔をして僕を見ている。今の説明の意味を理解している最中なのだろう。少し考える素振りをした後に、自分の中で整理が着いたのか、目を輝かせた。
「てことは俺はめっちゃすごいってことか?!」
「まぁ扱えればの話だがな。」
僕がそう言うと、翔は僕の方に向き直り、目を輝かせながらまたひとつ疑問をつぶやく。
「な、なら俺の本質はなんなのかコンにはわかるのか??」
僕は首を振った。本質は自分にしか分からない。それに《言霊系》となると、一体何がそうなり得るのかの予想すらつかないからだ。
だが、あの時感じた微かな妖力のゆらめきの答えをしれた僕は静かに微笑んだ。
「僕から言えることはひとつ。」
「呼びかける声がするのであれば、それと対話をするしかない。それと向き合い理解し合えば、自分の本質はなんなのか、そしてどんな力を扱えるのか分かるはずだ。」
翔は僕がそう言うと拳を掲げて、ここに来た時とは打って変わってやる気に満ち溢れた顔をしていた。
「対話だな!じゃあ次あの夢を見たら話しかけてみる!コン!ありがとな!」
そう言って、翔は帰っていった。
僕は少し溜息をつきながら、呟いた。
「あいつは騒がしいな本当に。」
「でも、おきつね様楽しそうでしたよ?」
「…そう見えたか?」
「はい。まるで弟ができたかのような顔をしてました。」
自分では気づかなかったが、こいつは本当に僕をよく見ている。そんなつもりは全くないが、こいつが言うのであればきっとそうなのだろう。
「まぁ、あいつはきっと強くなるからな。そしてきっと面白いものを見せてくれる。」
《言霊系》の本質自体も稀なのに、それを人間の子供が発現した事などきいた事がない。そもそも人間が妖術を扱うこと自体が数百年前に1人だけ見たことがあるレベルだ。
もし翔があの男と同じぐらいの強さになれば、《言霊系》なのであればもしかするとそれ以上の強者になる可能性すらも……
「あいつの妖術…楽しみだ。」
「…おきつね様、今すっごい悪い笑顔ですよ?」
あいつは、僕の顔をジトーっとした目で見ていた。どうやら少し顔に出てしまっていたらしい。
「気の所為だ。」
「絶対嘘です!あんな悪い笑顔初めて見ましたよ?!翔くんに変なことしたら私怒りますからね!」
そう言いながら、怒りを表すかのように声を張り上げていた。
「翔には何もしないし、する気は無い。ただ──」
「昔を見ている気がしただけだ。」
─────────────────────
『翔ちゃん…翔ちゃん…』
「またこの夢だ…よし!」
翔はまた同じ暗い夢の中にいた。だが、いつもと違って翔はその場に座り込み声の方に話しかける。
「おい、お前!お前は俺の本質なんだろ??」
「俺は強くなりたいんだ!!その為にはお前のことを知らなきゃならない。」
「だからお前のことを俺に教えてくれ!!」
「俺の名前は翔!好きな事は運動!嫌いな事はうじうじすること!よろしくな!」
『…………………』
暗闇からの返答は無い。まるでこちらを伺っているかのような、そんな空気感だけが漂っていた。
長い沈黙。翔が痺れを切らして、声を出そうかとしたその時、暗闇からまた声が聞こえてきた。
『あなたは…知らなくていい…』
『何も…知らないままでいい……』
『力が…欲しいの…?ならあげる。』
『だから……』
暗闇の声はそこで止まり、翔の方へ暗いこの世界の中で暗闇が押し寄せてくるかのような感覚がした。
「なんだよこ──」
翔の声をかき消すかのように、遠くから聞こえてくるだけの声が、今初めて翔の耳元から聞こえてきた。
『あなたを私にちょうだい?』
翔の意識はここで途切れた。
だが、夢から覚めたわけではなかった。
─────────────────────
ガバッと音が聞こえるような程の勢いで、僕は目を覚まして身体を起こした。
明らかに感じたことない異質な妖力がこちらに向かってきていた。
「これは翔なのか……?」
微かだが、翔の妖力のようなものも感じる。だが、それを覆い隠すかのように巨大な妖力を纏っていた。
「声がどうのと言っていたから、まさかとは思ったが……」
僕は外に出て、向かってくるものを待っていた。すると、鳥居の入口から翔の皮を被った何かが歩いてくる。
『あら?お出迎えかしら。』
翔の身体から聞いた事ない艶やかなそして余裕に満ちた声が聞こえてきた。
「どうやら確定のようだな……。」
僕は九つの尾を解放し、臨戦態勢をとった。
そいつはそれを見て、少し笑いながら僕に語りかける。
『ウフフ。キツネちゃんが何を考えてるのか知らないけれど、大体合っていると思うわ?』
そう言ってその女は翔の身体から、赤い翼のようなものを生やし目を赤く染めた。
『初めまして、私の名前はシュビィ。《吸血鬼》よ。』
どうやら翔の本質は思っていた以上に異質なものだった。
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