第50話 逃げる2人。追いかけるは化け物

「おい!ガキが逃げてるぞ!」

「絶対殺すなよ!早く捕まえろ!!」

「なんだこいつ、力強す…」


「邪魔!!!」


花凜は襲いかかる妖を投げ飛ばし続ける。


「術式変換 《影》」


その後ろでは翔太が援護する形で影を使い死角からの攻撃を防ぎ続ける。

牢獄から抜け出した後、2人は外に出るために走り回っていた。


「あぁ、もう!あやかしの数多すぎ!疲れるんだけど!」


「か、花凜ちゃん速いよ…置いてかないで!」


「うじうじうっさい!さっさとここから逃げるのよ!」


花凜が前を走り、その後ろを翔太は着いていく。その間、大量のあやかしに襲われているが、難なく撃退し出口を探して走り回っていた。とりあえず上に登って行きようやく扉を見つけて外に出る。


「よしよし、とりあえず外に…ってここどこよ!!!」


外に出れば周りは木々で覆われており、ここがどこかなのかも、方向も分からなかった。

翔太は花凜の後ろで膝に手をつきながら息を切らしていたが、ゆっくり呼吸を整えながら目を閉じる。


「…ダメだ。あちこちに大きい妖力があってどっちが安全なのか全然わかんない」

「父さんがいる方向も、コンさんがいる方向も分かるけどその近くに同じだけの大きさの相手がいる。行ったら絶対に邪魔になっちゃう」


「ふーん?あんた体力も根性もないけど、妖力に関しては一級品よね」


花凛がそう言うと、翔太は首を横に振った。


「いやいや…僕なんてまだまだだよ…」

「妖力に関しては感じ取れるし、探知はできるだけで能力的には使えてないし、さっきから使ってるのは妖力じゃなくて魔力だから」


「………?」


翔太の説明があまりピンとこないのか、キョトンとした顔した花凛に少し呆れるように翔太はため息を着く。


「分かって無さそうだからいいや。花凛ちゃんってほんとにのうき…痛い痛い!叩かないでよ!」


「翔太のくせに私を脳筋呼ばわりなんて生意気なのよ!!」


「ごめん!ごめんってば!」


そんなやり取りをしながらも、森の中を歩き進めようとする。だが、ここがどこなのか分からない上にあまりにも生い茂った木々のせいで平衡感覚を掴めない。

闇雲に歩くわけにもいかず一度立ち止まる。


「一体ここはどこなのよ…」


「うーんわかんないけど、とりあえず見つからないように──」


「隠れていよう」と、翔太がいい終わる前に途端に大きなプレッシャーを感じ取り、2人は身の毛がよだつような感覚に襲われる。


「おや、逃げてしまったのですか」

「子供相手だからと少しだけ油断してました」


後ろから声がするが、2人は後ろを向くことができない。本能からその後ろから放たれる圧倒的なプレッシャーが恐怖を覚える。

2人は後ろを振り向くことなく、その場から全速力で走る。


(やばいやばいやばい!あいつはやばい!私の本能が逃げろって言ってる!!)


花凛は足に全開に妖力を回して、先程の数倍以上のスピードで逃げる。翔は足りないスピードを魔力で風を纏わせ補填し花凛の後をついていく。


「花凛ちゃん!僕を置いてもいいから全速力で逃げて!!!あれは単純な妖力だけじゃない!!」

「なんか…わかんないけど、もっと違うイヤなモノが…!」


「これで全力よ!!いいからあいつがあたいたちを見失うまで全力で──」


「私から逃げようなど、なんて甘い考えなのでしょうか」


その声に花凛達は立ち止まる。

既に数百メートルは走ったと言うのに、その声の主は自分たちの前から姿を現した。


「な、なんで…」


「なぜと言われましても、今の私にスピードというのは関係がないからとしか言えません」


少し笑うような素振りをするそれは全身が骨で構成されており、表情がまるで見えない。

そして、その骨は何故か変色している。

花凛は怯えながらも片時も目を離すまいと、その骸骨を睨み続けるが、翔太はその場に座り込み身体を震わせる。


「しょ、翔太?!ビビってないで立ちなさい!」


「む、無理だよ!逆になんで立ってられるんだよ!」

「お前なんなんだよ!お前の奥底にあるその力はなんだよ!!」


翔太がそう言うと、骸骨は驚いたような素振り見せる。


「さすがはあの魔王の孫だ。初見で私のことをそこまで見破るとは…」

「私の名前は…そうですね」

「今は『マガツ』と名乗りましょうか」

「お遊びは終わりです。我々のボスはあなたがたを五体満足で捕らえたいそうですが、このように逃げれるのは面倒です」

「足のひとつでも切り落としておきましょう」


そう言って腕の変形させて翔太達と変わらない大きさの剣へと変形させた。

その瞬間に動いたのは翔太だった。


「術式変換 《火》《風》!!!!」


魔法陣から風と火の魔法を放ち、爆風を放って煙幕として利用する。

それと同時に影を使って花凛を自分の方に引き寄せて自分と一緒に影の中に逃げ込む。

その一連の動きに花凛は驚きの表情を浮かべる。


「あんたこんなことできたの…」


「奥の手みたいなものだよ。ここならちょっとの間は大丈夫だと思う」

「このまま、あいつから離れよう」


そのまま、影の中を移動しようとした瞬間、何故か真っ黒の空間だった景色がが突然先程の木々に囲まれた森へと戻される。


「なんで…」


翔太は愕然とした顔をする。なんとなく能力の予測はついてはいるものの、まさか影の中にも反映されていると思わなかったからだ。


「確かにあなたの妖力量は多い。そしてあの魔王の孫である以上、異界の能力もあるのでしょう。」

「あなたが格上程の妖力量があればそのまま逃げれたでしょうが、あなたはまだ未熟も未熟…」

「この私から逃げることなど不可能ですよ」


そう言って、こちらに手を向ける。

その瞬間目の前に土煙が巻き起こり、一瞬にして全員の視界が奪われる。

そして、翔太と花凜は誰かに担がれるように持ち上げられとてつもないスピードでその場から動き出す。


「え、ちょっと何が起きて…」


「我はオロチ。主の命によりお前たちを奪還しに来た」

「やっと見つけた。お前らが主が言ってた人間の子供二人だな」

「このまま奴から離脱する。おとなしくしておけ」


見るとその担いでる2人はの見た目をしていたのだ。


────────────────────


そのまま花凜達が走り去る土煙の向こう側では、マガツに対しての4人のオロチが襲いかかる。


「この妖力は…八岐大蛇の転生体ですね?此度のあなたのお名前は?」


「貴様に名乗る名などないバケモノめ」

「仕留めはできずとも、我らが貴様の前から消え失せるまでの時間稼ぎはできる」


「ほう?この私から逃れられるとお思いで?この私に距離もスピードも関係ない」


そう言って、その場から離脱するように妖力を揺らめかせ、花凜達がいる方に手を向け…

その手は、突如として現れた5人目のオロチに切り落とされる。

それにマガツが驚いていると、背後から現れた6人目のオロチに蹴り飛ばされ、そのまま吹き飛ぶ。

その隙に既に飛んだ先に待ち構えていた4人のオロチは各々が別の錬成陣を自身の前に作り出した。

「「「「《火よ》」」」」

「「「「「《忍法 火遁 大蛇の術》」」」」」


火の形をした4匹の蛇がマガツに噛み付くように襲いかかりそのまま爆散した。

そして、6人のオロチが横並びとなり、そのまま1人に集合するように集まっていく。


「貴様のその能力、一見なんの制約もないように思えるが恐らく大きく2つある」

「1つは貴様が視認、もしくは妖力を感知できているということ」

「もう1つはその瞬間移動や、空間の切り取りを行うには手を向けてその力の指向性をある程度限定しなければならないということ」

「このままあの二人を貴様の妖力の感知の外まで連れ出せば我らの勝利という訳だ」

「我のスピードと、あの魔王の孫の力があればあと数秒もすれば貴様の感知の外ま──」


オロチがその言葉を言い終わる前に、まるでえぐれたかのように身体の左肩からゴッソリと腕が消え失せた。


「な…に…?」


オロチは肩口から血を吹き出しながらその場にうずくまる。

そして、今の攻撃を食らってもなお、傷のひとつもついていないマガツは余裕というようにも見て取れる姿でオロチの方へと目を向ける。


「確かに、貴方の読みは正しい。だが、少しだけ間違いです」

「私がこの能力に指向性が必要なのは自身の移動のみ、ただの空間の切り取りであればその指向性を決めるのはです」


「なる…ほど…?いいことを…聞いた…な」


オロチはそのまま倒れ込み、その場から跡形もなく消える。


「フフフ…なるほど本体の切り替えすらもできるということですか…」

「さて、視認では確認もできず、流石にこの距離感で影に隠れられると、妖力も感知できなくなってしまう…」

「さて、どうしましょうか」


そう言って、自身の妖力を高め始めた。

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