第29話 夏の終わりと感謝を示す祭事
「はぁ!!!」
翔が血で作った剣を持ち僕に切り掛る。僕はその剣を尻尾で流れるように受け流して避けるが、翔は受け流された状態のまま、身体の向きを変えて、空中に浮かぶ妖力を蹴り、再度切り掛る。
「甘い!」
僕身体をを後ろに逸らし、避けた勢いで縦回転して翔の脳天を蹴りおろす。
翔はそれを妖力の壁で防ぐが、反動を殺し切れずその反動を受け流すために身体を影に潜ませて、距離を取りつつ、辺りに散らばる石を飛ばして牽制する。
僕はその石を全て静止させて、そのまま地面に落とす。
(影に潜むと妖力迄感じられなくなるのは少し厄介だな……)
そんな事を考えていると、どこからともなく血と影が混ざったような形状の針が無数に飛んでくる。
「…《火よ》」
僕は妖術を展開し炎を自分を包むように発生させ、飛んでくる無数の針を焼き尽くす。
だが、炎のせいで視界がさらに悪くなる。影に潜まれてどこにいるか分からない状態で、この視界の悪さは少しめんどくさい。
警戒を一切解かずに翔を探す。
突然、背後に気配感じて後ろを向いたが、誰もいない。
「取った!!」
後ろから声が翔の声が聞こえ、思わず振り返り後ろへ飛び退くが、気配の距離は変わらずに姿も見えない。
(まさか…!)
コンは咄嗟に後ろに妖力で壁を作り、翔からの斬撃防ぐ。
「気づくの早すぎだろ!!」
そう、翔は僕のから伸びる影から身体を半分だけ出して仕掛けてきた。
夜なので影は存在するが、山の中でろくに光源がない。なのでその中から僕の影だけを特定する為に、あえて当たりもしない攻撃を放って、僕に炎を出させた。それを光源に僕の影を割り出し、正確に身体を出現させる。
(やはり戦闘センスは僕よりも上だな……)
「悪くは無かったが、力量の差がまだ…」
「まだこっからだ!!」
「《陰血統 蜘蛛》」
「《赫く濁る粘糸》」
その言葉と共に赤黒い色をした、蜘蛛の糸のようなものが伸び出す。
その糸は僕を一瞬で絡め取り拘束する。
だが、僕はその糸を焼く為に、身体に火を纏わせ始めるが、その糸は焼き切れる事無く、僕にまとまり続ける。
(影を混ぜることで、血を蒸発させてもなお残るということか…)
その一瞬の隙を翔は見逃さずに、こちらに正面から突っ込んでくるが、寸前で僕の前から消える。そして僕が感知するよりも先に背後に回り込む。
「《陰血統 蛇》」
「《這い寄る刃》」
翔は僕の首元目掛けて、自分の血と影を混ぜて作ったクナイを突き刺そうとする。
「《火よ…」
「遅せぇよ!!」
僕が言い終わる前に翔のクナイが僕に突き刺さる。
という場面を僕は翔の背後から見ていた。
翔が刺したと思っていた僕のまやかしが消える。 翔はそれに驚き、体制を崩した所に僕は火の剣を作り出し翔に突っ込む。
そして翔の首元に刃を突き付けて静止した。
翔は下を見ながら少し震え始める。そしてその後に嬉しそうに、声をあげる。
「使ったな?!今使ったよな!妖術!!しかも避けるのに!!」
「ていうか、あれなんだよ!!一体いつから俺は幻と戦って……」
翔はこちらを見て不思議そうな顔をする。僕は術をといて、あたりの火を鎮火してから話し出す。
「あれは、僕の妖術 《鬼火 弐の業 陽炎》 だ。火と周りとの温度差を使って視界を揺らめかせて、まるで僕がいるように見せかける技だ」
「しかし、まさか1ヶ月足らずで本当に妖力の扱い方の基礎をマスターするとはな……」
「そして、僕が妖術を使わざる負えないとはな…」
「とりあえず及第点だなおめでとう」
「……よっっつしゃぁぁあ!!!!」
翔は最早そのままどこかに飛んできそうなぐらいに飛び跳ねながら喜ぶ。
翔の修行の合格のライン、それは僕に業名ありの妖術を回避用に使わせることと、妖力のみを使った応用を戦闘の中に組み込むことだった。
半年程は覚悟していたつもりだったが、1ヶ月でクリアしてしまうとは正直驚きだった。
「……お前が手伝ったのか?」
僕は喜ぶ翔を横目に影に潜んでいたシュビィに話しかける。
だが、シュビィは首を横に振る。
「ちゃんと言いつけ通り、同化のみでほかの手伝いは一切してないわ。正真正銘、翔ちゃんのみの実力よ」
「ね?すごいでしょ?目で追うことすらも出来なかった彼が、今や貴方が妖術を使わなければ回避出来ない攻撃を仕掛けれるようになるんて、思いもしなかったんじゃない?」
「そんなことは無い。それぐらいできて貰えないと困るが……」
「妖術を使えば使うほど、妖力の質が変わっていくな…もう、妖力だけでは人と判別するのは難しいぞ」
僕は未だに嬉しそうに小躍りする翔を見ながら言った。
この1ヶ月見てきたが、強くなればなるほど、妖術を使えば使うほどに日に日に見た目こそ変わりは無いが、中身はもう人と呼ぶにはあまりにもあやかしに似通ってしまった。
だが、僕やフウではなくシュビィと同じものへと変わっているような気がする。
いや、正確には同じでは無いが、近しいものへと変化している。
「そうねぇ…まぁ、彼の能力は未知数なのでしょ?彼自身の身体に異常が無いのなら、身体が能力に順応してるって感じじゃないのかしら」
「なんせあの子自身の能力でなく、私を呼び出して私の能力を使っているのだから、そして私は異世界の住人、こちらの常識では測れないイレギュラーがあってもおかしくないんじゃないかしら」
「…まぁ、分からない事が多すぎるが、翔自身が決めたのであれば僕は何も口出ししないさ」
「だが、お前がもし翔を使って何か企んでいて、それが僕らの世界に危険をもたらすものであれば……」
「わかってるわよ。ほんと信用ないわねぇ…」
「私は翔ちゃんの味方なの。翔ちゃんが貴方たちの友達である限り、この世界を好きである限り、私はこの世界と貴方を敵に回す気はないわ?」
そう言って、僕の方を少し恨めしそうな目をして見る。
そして翔を愛おしそうに、そして少し狂気じみた目を向けながらボソリと呟いた。
「ふふ、いい傾向ね…これならそう遠くないうちに彼は…」
その呟きは誰に聞こえることも無かった。
日が完全に落ち、あたりはすっかり夜になっていた。
─────────────────────
「なんだこれは……」
太鼓の音に、鼻をくすぐる少し刺激的な匂い、至る所に赤く光る提灯、約1ヶ月程村へおりていなかったがその1ヶ月で一体何が……
隣の翔とシュビィはしっていたのか、僕の反応をみてニヤニヤとしている。
「コン様〜!!!!!!」
前から凛が手を振って走ってくる。
「久しいな、これは一体な…」
凛はその勢いを一切殺す事無く、僕に対してぶつかってきた。僕は思わずその反動によろけそうになる。そのまま凛は少し怒った目をして僕を見る。
「なぜ1ヶ月間1度も降りてこなかったんですか?」
「い、いや修行に集中してて…」
「はい!嘘です!!コン様いっぱいの人に囲まれてたのが疲れたんでしょ!!」
「な?!そ、そんなことは…ない…ぞ…?」
「嘘つくの下手すぎです!耳と目がそっぽ向いてますよ!!」
「まぁ…少し寂しかったですが、降りてこないおかげで気付かれずに準備出来たんですが…」
そんな僕が1番気になっていたことをサラリと言う。
「そうだ、みんなこれは何をしているんだ?」
「お祭りです!今日開催ですよ!」
「いや、それは分かる。けど、祭りというならば一体何に対しての感謝の祭事で……」
「何って…それは勿論コン様ですけど?」
凛は何を当たり前なことをとも言いたげな顔でとんでもない事を言い出した。
「は、はぁ?!ど、どーゆー事だ!!」
「僕の祭り?!」
驚きを隠せない僕に凛はとても嬉しそうに、そして自慢げな顔する。
「そうです!これは、今まで守って貰っていたコン様への感謝と、あとはついでに今年の秋の豊作を願うお祭り。その名も『残夏祭』です!」
「何だついでって!!普通はそっちがメインだろう?!」
「大体これほどまでの資材をたった1ヶ月で作れるはずもなければ、運べる筈があるわけが…」
「それは俺が頑張ったからかな〜」
そんな聞き覚えのある声が頭上から聞こえてくる。
見上げるとフウは見た事もない食べ物を沢山持ちながらこちらを見ていた。
そしておりてくるや否や、僕に棒に綿が刺さったみたいなものを渡す。
「これマジでうめぇぞ。とりあえず食っとけ」
「フ、フウ!これは一体……」
未だに理解が追いつかない僕にフウは持っていた、リンゴといちごが刺さった棒にかぶりつきながら答える。
「いやぁ、凛ちゃんがどうしてもやりたいって言うから、面白そうだし、今まで食べたことないものも作ってくれるって言うしで頑張ったんだよな〜」
「後は土と風の妖術の本質を持つやつがそこそこいたから、そいつらにも頑張ってもらってさ?」
そんな事を言いながら、次はとても香ばしい匂いのする麺と、丸い焼き物みたいなのを食べだした。
「お前もあんま深く考えずに楽しめよ。まぁじで美味いぞ祭り飯」
「この雰囲気の中で食べるからか倍美味い倍」
僕はチラリと翔とシュビィを見る。見ると、何かを堪えるのに必死な顔をしていた。
僕と目が合った事で耐えきれなくなったのか笑い出す。
「何がおかしい!!」
「い、いやなんかこんなテンパってるの見るのも中々ないもんだからつい……」
「この修行期間を経てからのこの慌てっぷりを見るとギャップがすごくて……」
そういって大声で笑う。だんだん僕は恥ずかしくなってきた。
そんな僕を、凛は嬉しそうに微笑みながらも少し不安そうな顔をする。
「これは私たちからの今までの謝罪の気持ちと、あなたに対しての最大の敬意を示す為のお祭りなんです」
「結構…頑張ったんですよ?」
「喜んで…くれますか…?」
そんな風に見つめてくる凛に胸の奥が苦しくなって、何故か目を見れなくなる。
こいつはずるい。こんな言い方されたら嫌だなんて言えないじゃないか。
「嫌ではないよ。ただ、驚いただけだ。ありがとう」
「僕的には謝罪も敬意もいらないが、せっかくこんなにも盛大にやってくれたんだ。精一杯楽しんで、もてなしてもらおう」
僕がそう言うと、凛は顔をパッと明るくさせて僕の手を引いて走り出す。
「じゃあ、行きましょう!色んな出店も用意したし、最後には大きな花火も上がるんですよ!!」
「お、おい!わかったから、引っ張るな!」
そう言って、提灯できらびやかに彩られた道をかけていく。
夏の終わりを告げる少し冷たい風が僕の顔を撫でた。
─────────────────────
「おいおい、俺らは置いてきぼりか?まぁ、今回はしゃあねぇか」
フウは頭をかきながら、少し困ったような声で言った。
その後ろには翔とシュビィもいて、やれやれと言った感じでコンたちの後ろ姿を見ていた。
「まぁ、俺らは俺らで楽しもうぜ?てか、ひとつの集落がこんなデケェ祭り開くとか周りの集落になんにも言われねぇのかな……」
「それもそうね。しかもあやかしを奉るお祭りなんて結構反感買いそうだけど……」
フウはその疑問に首を振る。
「いや?それは結構大丈夫ぽかったぞ?あいつ他の集落に生贄送ってただろ?あいつ適当に送ってるとか言いながら、ずっと同じ村に送り続けてたらしくてな。しかもここから近い村に」
「その時にそいつらに『僕は人を食べない。だが、君たちは送り返されてもきっと困るのだろう。だから、ここで暮らせ。心配するな、君たちがこの村を出ない限り君たちが寿命以外で死ぬことは無い』って毎回言って、実際1人も死んでないんだってよ」
「あいつがここに近い山に住んでるのって、ここをナワバリにする人狼たちがいちばん人を襲ってたからだし、他の村の近くに住むあやかしは穏健派が多くて、人間を襲うことはほとんど無かった。しかも、あそこにコンが住み出した時点であやかしでの被害はゼロ、むしろあそこに住んでる事を感謝してる人もいるぐらいだった」
「あいつは不器用だけど誰にでも優しい。だからこそ、人狼達の意見も汲み取ってやった結果あんな代替案を作っちまったから、余計にここの村との関係がややこしくなったんだろうなぁ……」
「今年は時間的な問題でここだけの開催になったが、たぶん来年はもっと他の集落も巻き込んで、どんどんデカくなるんじゃねぇか?」
そんな風にフウはとても嬉しそうに笑いながら話す。
そんなフウをシュビィと翔は、微笑ましそうに見ていた。
「まるで自分の事のように嬉しそうね?」
「当たり前だろ?やっと、あいつなりにやってきたことが、身を結ばれてこんな風に出てきてんだ。俺たちが…いや、俺たちの師匠が夢見た世界が今この目の前にある」
「それをやってのけたのはコンだ。やっぱあいつはすげぇやつだ」
「師匠…見てるかなぁ…」
そう言って、フウは空を見上げた。
そんなフウを2人はニコニコとしながら横に並び立った。
「コンからも聞いたけど、フウも総一郎さんのこと大好きだよな!!」
「コン話したのかよ!俺から話したかったのに!」
「私はフウちゃん視点からの話も聞きたいわ?」
「話す話す!どうせあいつ自分の恥ずかしいとこは話してないんだろうから、そこも話してやるよ!」
「気にはなるけど、それ絶対後でコンに怒られるやつじゃね…?」
「大丈夫大丈夫、きいたってこと言わなきゃいいんだよ。あいつさぁ…」
そんな話をしながら、人混みの中を3人も歩いていく。
残夏祭が始まる。
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