第3話 風の運び屋
夏が過ぎ去り、秋の涼しい風と紅葉が、色鮮やかに神社を彩っている。
「今日はやけに風が強いですね…。」
長い黒髪を靡かせながら、風で落とされた落ち葉を、箒で集めていたあいつはぽつりと呟いた。
「あぁ…。そういえばそろそろ来る頃か。」
僕はそう答えてやった。
すると、あいつは僕の方を振り返り、首を傾げて聞いてきた。
「おきつね様?誰か来るんですか?」
「この前言ってた食材を持ってくるうるさいやつが来るんだ。」
そういったやり取りをしていると、いっそう風が強まってきた。
あ、しまった。
「おい!人間!今すぐ神社の中に…」
そう言おうとしたが、遅かった。
銀髪に靴底の長い下駄。長い鼻が特徴的な、顔の上半分をお面で隠した天狗が、大量の荷物を風に乗せて、いつもの軽い調子で言った。
「ようコン!今回も美味いもん持ってきてやったぞ〜!あれ?お前その後ろの子って……」
そう言ってあいつを指さし言った。
「おいおい、親友の俺になんも言わねぇなんて薄情なやつだぜ。人間の嫁を娶ったのか!」
「違う!!誰が嫁なんかとるか!!」
僕は食い気味に声を張り上げた。
「そ、そんなお嫁さんだなんて……。私はただの世話係です!」
何故かあいつも頬を赤らめて、モジモジしだす。
「それも違う!あぁもう煩わしい!おいフウ!説明するから、中に来い!そして人間!お茶を用意してこい!!」
僕はそう言って叫んだ。だから隠しておきたかったのに!!
─────────────────────
「こいつはフウ。見ての通り天狗だ。」
僕は、あいつが入れたお茶を飲みながら紹介した。
「そしてフウ。これはいつもの生贄だ。ここに住み着いてるけどな。名前は確か…。」
「凛です!はじめまして!」
そう言ってあいつはフウにむかって挨拶をした。すると、フウはいつもの軽い口調でにこやかに返した。
「凛ちゃんか!いい名前だねぇ。俺は天狗のフウだ!こいつの親友さ!よろしく〜。」
そう言って、僕の肩を組んでくる。
「腐れ縁なだけだ。」
僕はその肩に置かれた手を下ろさせた。
「相変わらずコンは冷たいねぇ…。そんなんだから俺以外にまともに会話するあやかしがいねぇんだぜ??」
うるさい余計なお世話だ。
そんな会話をしていると、あいつが不思議そうに聞いてくる。
「あ、あの。さっきから『コン』とか『フウ』とか言われてるんですけど、おきつね様や、天狗様にはお名前があったんですか??」
そういえば言ってなかったか。
そう思っていると、フウが答えた。
「俺らみたいな、最上位にあたるあやかしには名前があるんだよ。この名前で呼ぶ事を許してるのは親愛の証みたいなもんさ。」
「何が親愛だ。僕は呼ぶことを許可したつもりはないぞ。」
「そう言いつつ、呼んでも普通に返事するじゃねぇか〜。素直じゃないなぁほんとに。」
そう言ってダル絡みしてくる。こいつは本当に……
「本当に仲がいいんですねぇ……」
あいつが少し寂しそうに呟いた。
なんだ?なんで寂しそうなんだ?
そんな事を考えていると、フウが突然僕に向かって言い出した。
「なぁ、コン。今日持ってきたもの、ちゃんと確認してくれよ?いつものに、プラスで持ってきてる物もあるんだからな。」
「そうだ!どうせなら、凛ちゃんがやればいいんじゃん!ここに住んでて、使うのも凛ちゃんなら、凛ちゃんに確認してもらおうぜ!」
突然何を言い出すかと思えば……
だけど、フウはそれが終わらねば帰れない。僕はあいつに聞いた。
「人間。この紙を持って届いてるかどうか確認してきて欲しい。できるか?」
そう言うと、あいつは元気よくそして嬉しそうに答える。
「はい。任せてください!すぐにいってきますね!」
そう言って居間を後にする。
そしてフウは僕の方を向き直して言った。
「コン。あの子をここに置いてる理由はなんだ?」
「…言っただろ?あいつが勝手に住み着いてるだけだ。」
「お前は俺にも隠し事すんのか?コン。」
フウが鋭い目線を送ってくる。どうやら気づいてるらしい。
「はぁ…。わかった。聞きたいことを聞け。あいつが戻って来る前に。」
僕は根負けした。すると、フウは神妙な面持ちで聞いた。
「なんだあの子の妖力は。人間が持っていいレベルのもんじゃねぇぞ。」
「お前みたいな規格外がここにいるのと、結界で隠してるからそこまで気にならないが、漏れだしてる妖力だけで最上位のあやかしなら気づく。」
僕があいつを追い出せないもう一つの理由はこれだった。
あやかしが人間を食べるのは、その人間の魂を喰らい、妖力増すためだ。食べなくても日々の鍛錬や、人間が作るものを食べれば上がっていくが、人間を食べる方法が1番手っ取り早く妖力が増す。
あいつは、その妖力が異常に高い。僕の管轄内であるあの村で暮らしてる分には、僕が目を光らせてるため、迂闊に人を食べることはできないが、他のところに送ってしまえば、すぐに食べられてしまうだろう。
それが僕らとおなじ最上位のあやかしならば、誰も手がつけられなくなってしまうほどの妖力を得てしまう。
「コン。あの子をどうするつもりだ。」
「返答によっては……」
そう言って、髪をなびかせ出したフウに、僕はお茶を飲みながら返した。
「あいつが作るご飯は絶品だぞ。フウ。」
「あんなに美味しいご飯を作れる人間を、なんで僕は食べなきゃならない?」
そう言うと、フウは風を止めて笑いだした。
「ハハ。それならお前が食う事は無いな。」
「もし、ほかのあやかし達が気づいて襲って来たらどーするんだ?」
そうだな。その時は……
「全員焼き尽くすだけだ。」
そう言うと、またフウは笑った。
「ハハ。そりゃあいい。それならここにいるのが1番安全だな。」
そして、フウはまた僕の肩を組み笑いながら言う。
「コン。相当あの子が気に入ってるらしいな!俺は応援するぜぇ?」
僕は飲んでいたお茶を吹き出した。
「違う!変な勘違いするな!鬱陶しい!」
そんな会話をしていると、あいつが確認を終わったのか帰って来た。
「確認終わりました!…って、おきつね様?どうされたんですか?」
最悪なタイミングで帰ってきたなこいつは…
「なんでもない!おい人間!腹が減ったぞ!作れ!僕はだし巻きが食べたいぞ!」
そう言うと、あいつは嬉しそうに返事をした。
「はい!わかりました!天狗様も食べていかれますか?」
そう言うと、フウは笑いながら
「フウでいいよ〜凛ちゃん。そうだなぁコンが美味いっていう凛ちゃんの料理食べてみたいから俺も食べようかな?俺は魚が食べたい!」
こいつまた余計なことを……
「わかりました!フウ様!って、今おきつね様がは私の料理美味しいって言ったって……」
「あぁ!もうそれはいいから早く作ってこい!!」
その日を境に何故かあいつの料理の腕がいっそう上がったような気がした。
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