第2話 世話係(兼)生贄

あの人間が来て、1ヶ月が経った。この1ヶ月であった事を軽く説明しよう。


まず、神社がとてつもなく綺麗になった。もはや光っているのでは?と思うレベルでピカピカだ。妖術を使ったのかさえ疑ったレベルだ。それが終わった後に、他の村に送るとあの人間に言うとあいつは……


「汚れというのは、蓄積していくものです。今は綺麗でもきっと私が出ていけばきっと汚れてしまいます。」


「せっかく綺麗にしたので、この清潔さを保てるというのであれば、出ていきます。ですが、保てないのであれば、私はここまで綺麗にした所が汚れてしまうのは悲しいので嫌です。」

と、反論された。


そしてあいつは自分で言った通り、家事が完璧と言っていいほどの出来だった。炊事に掃除、そして洗濯と何から何までゆうことが無い。

適当なイチャモンを付けて出ていかせようと思ったが、そのイチャモンを付ける隙が、まるでない。


そこまで嫌なら無理やりにでも出ていかせればいい。適当な村に飛ばせばいいと言われるかもしれないが、他者に干渉する妖術は双方の同意が必要だ。よって転移の妖術は使えない。あいつが出ていきたがらないからだ。

村に送り返せばいいとも考えたが、あいつを今送り返してもきっと別の奴が来るだけで、解決にはならない気がする。


そして困ったことに、この生活に自分が快適さを感じているという事が1番の悩みであった。

村に送り返して、ほかの奴が来るぐらいなら別にあいつのままでも……なんて、考えてる自分がいる事に身震いを起こしそうだ。


「本当に何なんだあの人間は……。」


僕は頭を抱えて布団にうずくまっていると、あいつが来た。


「おきつね様!そろそろ起きてください!」


そう言って、あいつは寝床の戸を開き大声で呼ぶ。僕は布団から顔を出すことも無く答えた。


「うるさいぞ人間。僕は眠いんだ。まだ寝る。飯はまだ要らん。」


そう答えると、あいつはこっちに近づき、布団をひっぺがそうとしてきた。


「もうお昼前です!起きなきゃ身体に悪いですよ??せっかくお天気なんですから、私お布団干したいんです!!」


僕は布団を剥がされないように、必死に抵抗しながら叫ぶ。


「おい!やめろ!僕はここの神様だぞ!人間のくせになんでそんな事ができるんだ?!お前は自分の立場がわかってるのか!!」


「はい!おきつね様の世話係兼生贄です!!」


「バカか!誰が世話係だ勝手に付け足すな!」


そんな言い合いをしていると、あいつは諦めたのか布団を剥がそうとする手を離して、その場で座った。ふん。勝ったな。


「そうだ。布団を剥がすのを諦めてお前は掃除でもしていろ。」


そう言って勝ち誇っていると、あいつはぽつりと言う。


「今日のご飯はだし巻きですよ。」


「そしてこの天気です。きっと、今お布団を干せたなら、今日の夜、寝る頃にはお日様の匂いと、ほのかに暖かいお布団で眠れるんだろうなぁ…」


僕は無言で布団から出る。

するとあいつはニコニコと笑っていた。

勝ち誇ったように笑っているこいつに言い放った。


「気が変わっただけだ!!腹が減ったぞ!さっさとそれを干して飯を作れ!」


そう言って、寝床からそそくさと出ていく。後ろからあいつの「すぐに支度します!」と少し嬉しそうな声が聞こえてきた。


御手洗から帰ってくると、既に布団を干し終えて、ご飯の準備に取り掛かっていた。

相変わらずの手際でこなしていき、ものの数分で作り上げた。


「おまたせしました!だし巻きとお豆腐のお味噌汁とご飯です!」

そう言ってあいつは運んできた。


「いただきます。」


僕はそう言って手を合わせて食べ出す。

悔しいが、こいつの作るご飯は全て美味い。特にだし巻き。これは絶品だ。


「今日のお味はどうですか?」

あいつは食べている僕にいつも味を聞く。


「まぁまぁだな。」


悔しいので、絶対に美味しいとは言ってやらないけどな。だけど、いつもこいつは嬉しそうに「良かったです!」と、言う。まるで美味しいと思ってるのがバレてる気がしてくる。


「ここで暮らして思った事を聞いていいですか?」


と、あいつは僕に問いかけてきた。


「なんだ。」


「どうしてこんなにも食材や、それを調理する器具が揃ってるんですか?」


なんだ。そんなことか。


「お前は、なんで僕が人間を食わないか分かるか?」


あいつは首を横に振った。


「人間なんて食っても、僕にはおいしさが微塵も分からないからだ。」


「そして人間が作る食材や、飯は美味い。」


「だから、ここを建てる時に作れるような場所も作って貰った。」


「食材は人間が持ってくるお供え物や、あやかしたちの献上物。後は定期的に食材を渡しに来る奴がいる。」


「なるほど…。その割には使われた形跡が1度も…」


「う、うるさいぞ!!今はお前が使ってるからいいだろう!!」


こいつはなんでこんなにもズケズケと、僕に向かって言ってくるんだ。

僕は箸の先をあいつに向けて、まくし立てるように言った。


「いいか!お前がここにいることを許してるのは、家事ができるからだ!作るご飯も、まぁ、不味くはないからな!!前みたいに、生で食べるよりかはマシだと思ったからだ!!」


「ここにいたければ、このまま僕の為に家事を完璧にこなし続けるんだな!!わかったか!!」


そう言うと、あいつは顔を下に向け少し震え出した。い、言い過ぎたか…?


「お、おい。人間…?」


恐る恐る声をかけると、いきなり顔を上げて満面の笑みで言った。


「やっと!ここにいていいと言ってくれましたね!!任せてください!家事は得意ですから!」


そう言うとあいつは、食べ終わった食器を片付けて居間を後にする。その前に僕に頭を下げて言った。


「これからもよろしくお願いします!私、おきつね様の世話係として、頑張ります!」


「お前を世話係と認めたわけじゃない!!!」

叫んだ僕の声をあいつには聞こえてなかったらしい。

本当になんなんだあの人間は……。

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