第1部

第0話 消えぬ懺悔

太鼓の音と、赤い提灯の灯り。風が少し涼しさを運んでくる夏の終わり。また今年も「残夏祭」が開催されていた。


この祭りは暑い夏を乗り越え、豊作の秋を迎えたことへの喜びと、夏を乗り越えることが出来た感謝を、そこから少し離れた神社に祀られている「おきつね様」に伝える為の祭りだ。

たくさんの出店や、それを楽しみに来る人達で祭りは賑わっていた。それを1匹の狐が祭りをその神社の鳥居からぼーっと眺めていた。


「今年も、この時期がやってきちゃったか。」


狐は何故かため息まじりにそう言った。

そして、遂に祭りはメインイベントである花火の打ち上げが始まってた。狐は何をするでも無く、まだ祭りを眺め続けていた。


「なんだか、どんどん豪華になっていくなぁ…。僕が最後に行ったのっていつだったっけ。」


狐は1人で花火を見ながら誰に伝える訳でもない疑問をこぼしてた。

不意に風が吹き、神社までじんわりと火薬の匂いが届く。

火薬の匂いと、花火の音。ただそれだけのこと。だが、狐はそれが届いた方とは、別の方向から声が聞こえた気がした。


何十年、何百年経とうとも忘れることの無い声が、忘れたくても忘れることが出来ない声が。


「やっぱりこの祭りは嫌いだ。」


狐は少し俯いて、泣きそうな声で1人呟く。そして鳥居から飛び降り、神社の方へと消えていった。


これは伝えることのできなかった後悔のお話。

たった1人の大切な人の為に踏み出せなかった、誰に乞う為でもない懺悔のお話。

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