第45話 そして歯車は廻り始める
「そんな嫌そうな顔をしないで欲しいでござるよ……拙者達もこの日の花火はここで見ると決めているだけでござる」
「ここからの花火は1番綺麗でござるからなぁ……」
フウマはそう言って僕に対してにこやかに笑う。
その見た目には似合わないその「武士口調」はこいつの母親、シュビィが面白半分で見せた侍の物語を気に入り、それ以来その口調を真似するようになり今ではすっかりとそれが癖になってしまっている。
フウマは翔とシュビィの一人息子であり、そして見ての通り半分人であり、半分魔族である、いわゆる「半魔」である。人間の寿命とは異なるため見た目こそは20代ほどに見えるが、実年齢は50ぐらいだ。
「そうか。まぁ、すきにしろ」
僕はそう言って、また花火をぼーっとみていた。
フウマ達は鳥居の下にある階段に腰を掛けて花火を眺める。
フウマの隣には犬の上に乗っていたフウマの息子である翔太が座っていた。
(やはり…似ている…)
僕はその翔太を見下ろすように見ていた。目の色は緋色で少し内気な性格ではあるが、ここに初めて来た時の翔と瓜二つだった。
生まれ変わりと言われても、信じてしまうほどにそっくりだ。
(輪廻転生…やはり存在するのだろうか…)
人間は短命だ。だからこそ、生まれ変わりのような人間が生まれることは有り得ないことでは無いかもしれない。
だが、あれは似ているだけで翔自身では無い。面影だけが翔と重なるだけで、あの子は「翔」ではなく、「翔太」だ。
だが、翔の妖力と、翔太の妖力は感じ取れる範囲ではそこも似ている。
(まさかな……)
翔が死んだ日、シュビィは魔界に戻っていた。その為、翔が死んだ事によりこちらの世界に来る為の繋がりを失ってしまった。
あいつは翔が死んだ事にどう思っているのかも何も知らない。
そんな事を考えてると、最後の花火が上がった。
「最初の頃より豪華になったなぁ……」
そう一人でぽつりと呟いた。
この祭りのおかげで、僕は人に完全に友好的なあやかしであると思われ続けている。
この祭りのおかげで。
僕は鳥居から飛び降り、神社の中に戻りながら階段に座るフウマ達に話しかける。
「お茶ぐらい出してやる。どうせなにか用があるんだろう?」
「やはり隠し事出来ぬか…さすがはコン殿。なんでもお見通しでござるなぁ……」
そう言いながら、フウマ達は僕の後を追って神社に向かった。
────────────────────
「簡潔に要件を申しますと、例のあの2つの派閥の動きがどうやらきな臭いでござる」
「これをコン殿に1度拝見して頂きたく……」
そう言って、フウマが懐から何かをふたつ程とりだす。
「これは…宝玉と魂魄玉じゃないか」
「やはり、知っていたでござるね」
「妖派の者から押収した物でござる。そこでは何故か人間派と妖派の密会が行われており、ここの物品がやり取りされていた」
「これは何に使う物でござるか?」
「この勾玉の形の物は他者の妖術を取り出し、それを封じ込める代物だ」
「そして、この大きな玉は他者の魂そのものを封じ込めるものである」
「まさか、まだのこっていたとはな……」
中を見るところ中身はまだ空のようだ。
これを一体何に使うつもりだったのだろうか分からないが……
「まさか神妖に……?」
「神妖とはコン殿と同じということでござるか?」
「あぁ、この宝玉に他者の魂が入っている状態で取り込めば、神妖となれる可能性がある。魂魄玉は妖術のみを取り込むことができ、取り込む者の技量にもよるが、かなりの量を取り込める」
「これはかつてハクが開発したものだ…まさか、まだ出回っているとはな…」
そう言って、僕は宝玉を手にして眺める。なぜ今になってこれが出てきたのか分からないが、ハクが作った物は僕が全て破壊したはずだ。
そうなると……
「フウが…作ったのか…?」
僕のつぶやきにフウマが反応する。
「フウ殿……。今の妖派のトップでござるね」
「一体これをなんの為に……」
「それは分からない。予想としてはフウもまた神妖になろうとしてるのかもしれないが、人を食べればいいだけの話でもある。態々、宝玉を使う意味がわからない」
「そして、これを人派の人間にも流す意味とは一体……」
「もしかすると、あそこふたつは手を組んで拙者ら共生派を潰すつもりでは……」
「まぁ、ない話では無いかもしれない。奴らからすれば僕らは共通敵だ」
「そうなれば全面戦争は避けられないだろう」
もし、そうなった場合……
「もしそうなれば拙者らは完敗でござるな!」
フウマはそう言って笑う。
そう、実の所は僕達共生派はとてつもなく弱い。それもそうだ、過激派であるあそこ二つにほとんど力のあるものは属している。
ここに残ってるのは、あまり戦闘能力の高くない穏健派の妖や人間がほとんどだ。
だからこそ数は多いものの、戦えるものはほとんどいない。
それでも、この派閥が強く出れる理由は僕とフウマの存在だ。
「コン殿が戦えれば確実に勝てるが、さすがに拙者だけでは厳しいでござろう?」
「完敗は言い過ぎだ。お前がいれば最低でもどちらかひとつは確実に潰せる」
「『二代目魔王』の名前は伊達じゃないだろう?」
「はっはっはっ、まぁ魔王の妖術は引き継げなかったでござるがなぁ……」
「コン殿は、やはりまだ使えぬのでござるか?」
「……すまない」
僕がそう言って、俯くとフウマはニコリと微笑む。
「なぁに、気にする事はござらん。今はまだそれでも大丈夫でござる。しかし……」
フウマはそこまで言って真剣な眼差しを僕に向ける。
「母上は言っていた。漢にはやらねばいけない時が必ずあると」
「もし、フウ殿がこちらに仕掛けて来た時は、コン殿自らケジメをつけるべきでござる」
「貴殿ら二人は無二の友人でござろう?」
「友が道を外れた時、それを正すのもまた友の役目」
「その為なら、他の露払いは全て拙者が引き受けよう」
そう言って、妖力をゆらめかせる。その妖力はありとあらゆる獣のような形をかたどっていく。
「……あぁ、わかった」
「それより翔太はどうなんだ?」
僕はそう言って外で犬と遊ぶ翔太を見た。
「いやぁ、妖術は恐らく面白いものを持ってはいると思うでござるが……」
「如何せん妻に似て、あまり戦闘に向いている性格とは言えぬ」
「なるほど。それは大丈夫なのか?いつかはあいつがお前の後を継ぐことになるんだろう?」
「なぁに、それまでにこんな殺伐とした派閥争いを終わらせればいいだけのこと」
「我が子の未来を守るのも親の務めでござる」
そう言って微笑む。その笑顔は親の顔をしていた。
「では、そろそろ帰るでござるよ。2つの派閥の動き…警戒だけは頼むでござるよ」
「あぁ…わかった」
フウマは翔太を呼び、神社から集落へと戻って行った。
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雲に覆われ、月明かりが漏れるようにしか届かない深夜。
突然、気配を感じて布団から起き上がる。
食料庫の方に何かがいる。
妖力を感じ取れ方から人間のようだ。
「人間派の者か…?」
ココ最近は少なくなっていたが、僕を暗殺しようと何人も送り込まれてきていた。
だが、どうやら食料庫を漁っているようで暗殺しに来たわけでは無さそうだ。
目的がよく分からないが、その盗人を捕らえようと気配を殺して食料庫に向かう。
食料庫に着くと、やはり人間が食料庫を漁っていた。
「おい、ここがどこだがわかっていての所業か?」
僕が背後から声をかけると、驚いたようにその場から撤退しようとする。
「逃げれると思ってるのか?」
僕は妖力でその人間を拘束し、その場で動きを止める。
人間はどうにか動かそうと身をよじろうとするが、指先1つも動かない。
「くっそ…動かない…!」
「さて、なんの目的でここに……」
不意に雲に隠れていた月が顔を出す。
この場が月明かりに照らされて、見えずらかった盗人の素顔が見える。
少しボサボサとしているが黒い長髪に、少し茶目っ気のある目。
僕はその顔立ちに息を止める。
忘れるわけが無い。いや、忘れることが出来ないほどに脳に焼き付いたその顔は僕の思考を止めた。
「凛…?」
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山奥に隠すように立てられた城のような中で、片腕を失った天狗が酒を煽りながら、大きな椅子に腰をかける。
その後ろから骸骨のあやかしが声をかける。
「また酒ですか。あまり飲みすぎは良くないですよ?」
「……ちっ」
「本当に私のことが嫌いですねぇ…。何度も言いいますが、あなたの腕を失ったのは前世の私。今の私にその記憶は無いんですから、そろそろ普通に接してくれてもいいんじゃないですか?」
「お前のその話し方と見た目が一緒なんだよ。それが腹立つ」
「はっはっはっ、相変わらず手厳しい」
骸骨のあやかしはそう言いながら、天狗の前に跪く。
「例の少女と少年。見つかりました」
「ですが、今はどちらも九尾の元にいるようです。どうしますか?」
天狗はその骸骨の報告を聞いて、椅子から立ち上がり、窓から差し込む月を眺めた。
そして、一気に酒を飲み干し、グラスを地面に投げ捨てる。
「やっぱりそうか……」
天狗は振り返り、骸骨の方に向き直る。
「計画に支障はねぇ。このまま、人間派のアホ共も使ってあいつらに仕掛ける」
「その間に俺が直々にその二人をさらってくる」
「全面戦争だ」
「承知しました。では、準備を始めます」
そう言って、骸骨のあやかしは姿を消す。
天狗のあやかしは月明かりを見ながら、懐から黒い色をした宝玉をとりだす。
「俺は、俺が思う世界を作る」
「その為なら、俺は……」
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