第26話 天狗と九尾の過去の回帰②
剣と剣が交わる音が森に鳴り響く。 天狗と人間が剣を交えていた。天狗は風で作った刀のような剣を、人間は雷で作った巨大な両手剣のようなものを片手で振り回す。
「ははっ!やっぱお前は近接戦闘向きだな〜ガキ天狗!!」
「けど、剣に重みがねぇ。足りない筋力は妖力で補え。それでも足りなきゃ技術を磨け」
「あと身長伸ばせ。んなチビだとそもそも体格差がありすぎるわ〜」
人間はそんなこと言いながら、天狗の剣をいなし続ける。その場から1ミリたりとも動くことなく。
「うるせぇ!!あんまなめてっと……」
天狗は後ろに距離を取り背中に翼を生やす。
翼や足などに風を集約させていくと同時に居合の姿勢をとる。
「くらいやがれ!!」
その言葉と同時に天狗が集約させた風を爆発させ、僕の目には見えないスピードで一気に距離を詰めていた。
だが、いつの間にか抜いていた剣は人間の手で白刃取りのように掴まれていた。
剣を掴まれ身動きが取れない天狗に対して蹴りを入れて吹っ飛ばす。
「……っ!!」
天狗はその場に痛みでうずくまってしまった。
人間はその天狗に耳を掻きながらゆっくりと近づいていく。
「足や、翼に風を集めて一気に放出させることによって爆発的なスピードともに抜刀するって感じか?考えはめっちゃいいが、まだ速さも破壊力も足んねぇな〜」
「大体言ったろ?業名つけろって。名前ってのは大事だ、より明確なイメージを掴むことができるし、その言葉に妖力が乗り言霊となって、より強い妖術へと変化する」
天狗は痛みに耐えながらも座り込み、人間の方を見ながら少し拗ねたような顔をしていた。
「だってよ〜なんか恥ずかしくね?技使う前に叫ぶの」
「大体お前だって1回も技名言ったことねぇじゃん」
「ばーか、お前らごときに業名言ってまで妖術使うわけねぇだろうが」
「じゃ、お前一旦休憩な?おいガキキツネ、次はお前だ」
そう言って僕の方を見てニヤッと笑った。
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「はぁ…はぁ…」
「おいおい、どうした?息上がってるぞ?」
「う、うる…さい!!!」
辺りに爆発音が鳴り響く。雷の玉と火の玉がぶつかり合い爆発する音だ。
「数も威力も落ちてるぞ〜。お前は俺より妖力量は多いんだから、俺より先に妖力が切れるはずねぇぞ??」
最初は拮抗していた数だったが、時間が経つにつれて相殺されていたものがいくつか僕の近くを掠めていくようになる。
(こんなの当たったら絶対死ぬ……!)
僕は死ぬ気で必死に火の玉を生成し続ける。
威力は負けているが、数だけは火の玉が徐々に侵食し始める。
「うんうん、いいねぇ…。じゃあ少し応用といくか〜」
人間はそう言うと僕の周りに転がっていた小石たちが突然僕の方へと飛んでくる。
僕はそれを九本の尻尾で弾こうとするが、自在に動く小石はその尻尾さえもすり抜けて僕へと飛んでくる。
あちこちに小石が当たってとても痛いが、今妖術を止めると間違いなく死ぬので、必死の形相で妖術だけは維持し続ける。
(あのクソ人間……!この状態で妖力の操作できるとか化け物すぎる……!)
だが、一方で人間の方は少し眠そうに欠伸をしている始末。僕は石が飛んできて痛いとか、妖術が止まれば死ぬ恐怖よりも、こっちは必死だというのに、あの腑抜けた顔をしたあいつが心底腹が立つという感情が圧倒的に勝っていた。
「いつまでも僕が、やられっぱなしだと思うなよ!!!!」
「《火よ》!!」
「《鬼火 壱の業 槍》!!!」
僕のその言葉と共にただの火の玉だった物が、形を変えて槍へと変わっていく。
「貫け!!!!!!!」
その火の槍は人間の雷の玉の威力を遥かに凌駕して徐々に圧倒していく。
「へぇ…いいねぇ。じゃあ俺も」
「《雷よ》」
人間のその一言だけで雷の玉は色を黒く変色させ、そして数も先程とは比べ物にならない数になり、一瞬で僕の火の槍を食い尽くしてしまった。
僕に直撃する直前で、全ての玉がピタッと止まり蒸発していく。
「まだまだ妖術使うのは下手だが、やっと形を作れるようになったか〜いいねぇ」
「だが、やっぱ威力はお粗末なんてもんじゃねぇからもっとがんばれよ??」
「だけど、業名はかっこよかった。うん、あれはいい」
僕はその場に座り込んで、息を整えよう必死に呼吸する。
「ば、化け物め……」
僕がそういうとこちらを見て笑う。
「おいおい、こんな男前の人間見て化物とかいうなよ〜どう考えてもお前らの方が見た目おかしいからな?面白いこと言うな〜」
その見た目のおかしい僕らを赤子の手をひねるようにボコボコにするこいつが人間だなんて絶対嘘だ。
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こいつの修行が始まって約3ヶ月程、かなり強くなったが未だにこいつの足元にすら辿り着けた気がしない。
「ぜんっぜん勝てねぇ〜」
「大体剣術も、体術も、妖術もなんでも出来すぎだろ。あいつほんとに人間なのか?」
天狗はその場に寝転んで愚痴をこぼす。人間かどうかの疑問には僕も同意するが、僕はその隣で座禅を組んで集中していた。
「隣で騒ぐなよ。僕は今集中しているんだ」
僕はもう一度目を閉じて集中する。
(あいつがやってたみたいに石を……)
妖力をより深く感じ、そしてその形を変えていく。糸を扱うようなイメージで……
すると、周りの小石が少しずつ動き出す。数センチほどだが十数個の石を浮かせる。
「できた!!!」
僕が思わず耳をピンッとたて喜んでいると、天狗が僕の後ろから抱きつき興奮した様子で話しかける。
「おー!すげぇ!これってあいつがやってたやつじゃん!どーやってんだよ!!」
「ふふん、これは妖力そのものを手足のように動かす技術で…って馴れ馴れしいぞお前!僕に近づくな!」
「お前まだそんなこと言ってんのかよ〜もうちょい仲良くしようぜ??」
「えぇい、うるさい!は、な、れ、ろ!!」
僕たちが揉み合いをしていると、あいつが魚や木の実やらを持って戻ってくる。
「おいおいアホ共、喧嘩すんじゃねぇよ。ほれ飯食うぞ」
「よっしゃ飯だ!!!」
天狗はその言葉に僕からはなれて、まっさきに魚に食らいつく。
「あ、僕も魚が食べたかったのに!!」
「ふっふっふ、こーゆーのは早い者勝ちってやつだぜ狐ちゃん?」
「黙れ!僕も食べたい!寄越せ!!」
「飯ぐらい落ち着いて食えよ·…ほら、まだあるからこれ食え」
そう言って人間は僕に魚を投げてくる。最近気づいたことだが、人間が作るものは美味い。僕らあやかしは基本食事を必要としないから、最初は食べていなかったが、こいついわく「よく食って、よく寝たらその分強くなるから食え」って言われて食べてみたのだが、本当に美味い。
僕らが食事にむちゅうになっていると、人間が僕らの方を向いて何か考えるような素振りを見せる。
「しっかしお前ら今まで種族名で呼んでたけど、名前無いってのは不憫だな」
「お前らに名前はないのか??」
その問いに僕らは何を当たり前のことを聞くのかと言うような顔をして答えた。
「あやかしに名前があるのは最上位と認められた証みたいなものだ。僕らのような下位のあやかしに名前など無い」
「そうそう、ていうか名前なんて俺らにはまだ許されてないよな〜」
僕らそう答えると、人間は何を言っているんだという顔をしていた。
「お前ら何言ってんだ?なら、最上位のあやかしってのになればいいじゃねぇか」
その言葉に食べていた魚を思わず吹き出してしまった。
「ば、バカを言うな!そんな簡単になれるもんじゃ……」
「なれるだろ。その気があればよ」
「いいか?なりたいならなれ、やりたいならやれ」
「この世に生まれてきたなら、一切の妥協もせずに全てを欲して生きていけよ。それが生きてる者の特権だろ?」
「いいじゃねぇか、名前つけてやるよ。んで、最上位のあやかしになった時に名乗ればいい」
「そうだな…」あいつは言いながら、考え込み出す。僕が最上位のあやかしに?そんな事考えもしなかった、僕が強くなりたかったのは復讐の為で……
長らく忘れていたが、そういえばそんな目的だった。だが、正直今はただ自分が強くなれることが楽しくて、嬉しくて堪らない。なら僕は、なぜ強くなりたいのだろうか……
僕がそんな自問自答をしていると、思いついたのか僕らの方を指を指して、ニヤッと笑う。
「思いついた!狐は狐だからコン!天狗は…テン?いやなんか違うな…風を使うからフウってのはどうだ?!我ながらいいセンスだぜ……」
「な、なんだその腑抜けた名前!どうせならもっとかっこいい名前を……」
「いくらなんでもそれは安直すぎだろうが!最上位になってそんなに可愛らしい名前とか絶対名乗んねぇからな!!!」
僕らが反発すると、あいつは腹を抱えて笑っていた。
「ガチのお前らにピッタリの可愛い名前じゃねぇか〜!もし嫌なら俺の事倒せるほど強くなってから違う名前を名乗ればいいんじゃねぇか?な?コン、フウ?」
少しバカにするように笑いながら僕らを呼ぶあいつに僕達はいらだちを隠せず立ち上がる。
「おい休憩は終わりだ!!バカにしやがって、絶対お前より強くなってやるからな!!」
「天狗の言う通りだ!最上位になってもぜっっったいにそんな腑抜けた名前名乗らないからな!!!」
そんな僕らを見てあいつはまた笑う。
「なんだ、お前ら仲良いじゃねぇか」
「「仲良くない!!!」」
僕と天狗の2人の声が森中を木霊した。
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