第36話 屍と剣豪

〜フウ、翔side〜


「はぁ…はぁ…」


「ちっ…クソが…」


2人は少し疲労が見え、所々に致命傷とはいかないものの傷を負っていた。

フウに関しては腹部から血を流している。


「おやおや、お二人とも息が上がっているようですね?」


対するクラマは表情などは確認できないが、特に疲れもなく身体に傷はない。


「クソが、あんなん反則だろうが……」


翔が吐き捨てるように言った。


────────────────────


「《天狗流剣術 隼舞い》」


「《夜統 水面月》」


フウは風で使った剣を、翔は夜を集めて作った剣でクラマに切り掛る。


「《骨成 硬化 変形》」


クラマは両腕の骨を鋭利な刃物のように形を変形させて硬度を強化、2人の斬撃を受け止める。


「甘いんだよ!」

「《陰血統 鞭》」


両腕を封じた翔は自身の影を鞭のようにしならせて、クラマの腹部を目掛けて叩きつけて、吹き飛ばす。

そのすきにフウは吹き飛ばされているクラマを先回りしていた。



「《天狗流剣術 風車》」


身体を捻りながら遠心力と追い風を斬撃にのせて硬化させたクラマの身体ごと真っ二つに斬った。


「ぐはっ……!」


クラマは真っ二つに切られたまま動かなくった。妖力も感じ取れない。


「…?もしかしてもう勝ったのか?」


翔が不思議そうにフウへと近づく。


「妖力の反応がない…だけど、こんなんで倒せるはずが──」


フウは何かを感じ取り、翔を突き飛ばす。

突然のことに驚いた翔はフウを見て驚愕した。

先程まで動く事ないただの屍だったはずの骨が、フウの腹に骨で作った剣を突き刺している。


「がはっ……」


「フウ!!!!!!」


翔は咄嗟に身体に纏っている夜を飛ばして、距離を取らせ、フウを担いで後ろへと下がる。


「おやおや勘?というやつですか…」

「人間の少年を殺してしまおうと思ってたのですが……」

「まぁ主戦力の方を削れたのでよしとしましょうか……」


クラマは顔の方に手を持っていき、笑っているような素振りをする。


「フウ、大丈夫かよ!しっかりしろ!」


「ちっ…やられた…!だけど、大丈夫だ…そんなに深くねぇ。こんなもんじゃ死なねぇよ…」


翔はクラマを睨みつけた。


「どうやってお前そこに移動したんだよ!さっきお前はフウに斬られたはずだ!!!」


それを聞いたクラマは笑ったような素振りを見せる。


「言ったでしょう?あなたがたでは私は倒せないと」

「天狗が斬ったのは私の肉体だけ、私の本体は魂のみです。体なんてなんでもいい」

「私は自分の魂を既に死した屍であれば自由に移し替える事が出来る」

「九尾のような圧倒的な妖力を使った攻撃などであれば私の魂にまで攻撃は到達しますが、あなた方程度の攻撃に込められた妖力程度では私には届かない…」

「天狗の斬撃は肉体と戦闘センスが秀でているからこその強さであり、妖力や妖術の強さな訳ではない」

「そして、人間。ある程度戦えるようですが妖力、肉体のセンス、どれにおいてもこの戦いには役不足なのでは?」


そう言いながらクラマはゆっくりと手を広げていく。

すると、周りに転がる人骨たちがカタカタと動き出す。


「ここには、これだけの代わりの肉体がある」

「残念ですが、あなた方に勝ち目などありませんよ?」


─────────────────────


そこから何度も攻撃を繰り返したが、こちらが消耗するばかりで何も決定打にならない。

フウは動けば動くほどに血が横腹から垂れてしまい、少しずつ動きが鈍くなる。

翔は改めて認識した。今対峙しているのは、圧倒的強者であり、コンとフウと並ぶ最上位のあやかし。そしてそのフウでは相性が悪く、攻撃が意味を成さない。


「こんな奴どうやって勝つんだよ……」


思わずこぼした声に、フウが思い切り拳骨を落とす。


「痛ってぇ…!」


「馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ。勝てるかじゃなくて勝つんだよ」


「でも、お前そのケガじゃ……」


「あ?こんなもん虫に刺されたぐらいだわよゆーよゆー」


そこまで言ってフウは深呼吸をした。


「今からお前に言うのは、超絶むずかしい事だ。でもこれしか多分勝つ手段がねぇ」

「俺もな、コンみたいにもう一個上の段階があるんだよ。けどな、俺の場合は一撃必殺みたいなもので、外せば終わりだし、何しろ準備にも時間がかかる」

「俺がそれを使えるまでの時間稼ぎ、そして確実に当たるための隙を作ってくれ」


翔はその言葉に不安そうに顔をした。


「俺が、あいつに隙を…?」

「そんなのできるかわか……」


「お前なら絶対できる」

「凛ちゃん助けんだろ?ダセェこと言わずに気張れ」


フウは翔の肩を持ち、真っ直ぐ目を見る。


「……ごめん。そうだよな」

「やってやるよ。たとえ死んでも隙を作ってやる」


そう言って翔は前に立ち、フウは集中するかのように目を閉じる。


「作戦会議は終わりですか?」


クラマが余裕に満ちた声色でゆっくりとこちらへ向かってくる。


「お前は俺がぶっ倒してやるよ。その保険がフウだ」


翔は地面を蹴って、クラマへと突っ込む。


「シュビィ!!!力貸せ!!!!」


『勿論よ』


『《踊れ》』

夜の狂宴ナイトパレード


「《夜統 月下の羽衣》」


身体に最大限の身体強化を加えて、クラマに打撃を叩き込む。

クラマはそれを片手受け止め、翔をそのまま投げ飛ばした。


「勘違いしてはいけない。あなたが私に攻撃を当てれたのは、天狗との連携があったからだ……」

「あなた一人では私と互角に戦うことは不可能だ」


「うるせぇよ」


だが、投げ飛ばしたはずの翔は既に目の前まで来ており、クラマは驚愕する。

止まることのない打撃、どこからか飛んでくる黒い塊、影の斬撃、先程までよりも重く、そして早くなっていく。


(時間経過で強くなる…?なんて出鱈目なのだろう…ハク様が欲しがりそうな能力ですね…)


だが、まだクラマに決定打を入れることが出来ない。

クラマは攻撃を全て受け流しながら、身体と周囲に広がる骨を動かしていく。


「私が複数の妖術を使えることをお忘れですか?」


「《骨成 操作》」

「《火よ》《風よ》」


「《燃エル屍 息吹ク屍》」


「なっ……!」


四方八方から飛び交う風と火を纏った骨が翔を襲う。

翔は1部を夜で飲み込み、1部は回避し、1部は影で弾きながら全てを避け切るが、気づけばクラマの姿を見失う。


「どこに消え……」


「後ろですよ」


クラマは《気配》と《影》の妖術を同時に発動させ、後ろ回りこみ横から思い切り蹴りを入れた。


「あがっ……!」


完全ノーガードで食らった翔はその衝撃で左腕と肋骨が折れたのか、痛みにうずくまりそうになる。

左腕は激痛がするのに、全く動かせず、肋骨は折れた部分が痛み上手く呼吸もできない。


「おや、脆いですねぇ……あなたの妖術はまだ不明な点が多い。ハク様は喜びそうですが、ここで殺しておきましょう」


クラマはそう言いながら、腕の骨を肥大化させていきそこに火を纏わせていく。


「クソが……俺はなんでこんなにも……」


だが、突然後ろから莫大な妖力を感じ取る。

フウの足元には大きな錬成陣が生成され、その中の莫大な量の妖力がフウの身体と抜刀の形で構えた手の中に集まっていく。

フウはゆっくりと詠唱を開始した。


「《我、疾風の武を極める者なり》」

「《我、妖の深淵を覗く者なり》」

「《昇華せよ 極めし者の門を開け》」


「《大剣豪 神速の鴉天狗》」


身体に黒い翼を6つ生やし、フウを中心に吹き上げるような暴風が吹き荒れる。


「こ、これはまずいですね…」

「早急に手を打たせて頂きます」


「させねぇよ…!!」


翔は動かぬ左腕を夜を使って無理やり動かし、動かぬ身体を妖力と影を使って弾きクラマへと突っ込む。

だが、それはクラマに避けられクラマは少し距離を取り、魂魄玉を取りだした。


「圧倒的数の暴力をお見せしますよ」

「《骨成 増殖 模倣》」


その言葉に一体にある人骨が動き出し、全ての人骨からありとあらゆる妖術が発動される。


「私を元とし、ここにある全ての人骨に妖術を付与しました。これにて、幕引きです」

「《百鬼夜行 亡者の戯れ》」


その言葉によって、全ての人骨はフウに向かって、走り出す。あるものは火を纏い、あるものは風をまとい、あるものは毒をまとい、あるものは氷をまとっている。

翔は向かう人骨に斬りかかった。

だが、すぐに再生してフウの方へ向かう。


「シュビィ!!!!!」


『了解よ』


シュビィ1度翔から出てきて血を吸う。

そしてそのまま詠唱を始める。


『降り注げ』

月の雫ムーンドリップ


その言葉と共に空から光る玉が無数に降り注ぎ、フウへ向かう亡者たちを破壊し続ける。

だが、それでも彼らは止まらない。


「無駄ですよ。彼らはいくら壊そうともその場に媒体となる骨がある限りいくらでも復元が可能なのですから」


「それでも止めるんだよ!!!!」

「死んでも止める!それが俺が今できることだ!!!」

「《夜よ》!!!!!」

「《彗星 三日月》!!」


その言葉と共に光の玉と共に、三日月の形をした物体も降り注ぐ。

痛む身体の血を使い、それを影に付着させる。


「《陰血統 影血の花》!!!」


影をのばし、向かいくる亡者たちを串刺しにしていく。


「翔!下がれ!!!」


後ろにいるフウが叫ぶ。その言葉に翔は後ろへ飛んだ。


「遅せぇよ…!キメろよ!!!」


「おうよ!みとけ!」


フウは迫り来る亡者達を見ながらゆっくりと息を吐く。


「《天狗流抜刀術奥義……》」


クラマは亡者たちの後ろで余裕そうに見ていた。


「無駄ですよ。たとえ技を放てたとしても私まで届くはずもなく、そもそも私に斬撃など効かな──」


「効かない」その言葉を言おうと瞬間、クラマの後ろにフウはいた。

全ての亡者を切り捨て、その再生すらも許さないほどに粉々にし、そしてなおクラマは自分が斬られたことすらも認識が遅れた。


(馬鹿な…何が起きた…なぜ私の視界は逆さまに…奴はいつ私の後ろに…)


「《風神の花道》」


身体から生えていた翼は消え、構えを解いた瞬間、大量の斬撃音と崩れ去って落ちる骨の音が鳴り響く。

音も、他者の認識すらも置き去りにしたその早業を、見切れた者は誰もいなかった。


─────────────────────


「すげぇ……すげぇよフウ!!!!!」


翔はフウに駆け寄ろうとしたが、全身が痛くて動けなくなってしまった。


「あちこちいてぇ……」


フウは呆れ顔で駆け寄ろうとしたが、自分もかなり限界なのかその場に座り込む。


「あんま無理すんじゃねぇよ……」

「あ〜疲れた…。ちょっと休憩してから──」


「コンの所に向かう」と、言おうとした瞬間に目の前の光景に驚愕する。


「えっ……」


地面に落ちていたら骨のかけら達が固まり、鋭利な物となったまま翔の心臓あたり突き刺した。

翔はそのまま口から血を吹き出し前のめりに倒れる。


「翔!!!!!!!」


動かぬ身体を振り絞って駆け寄ろうとした瞬間、後ろからをくらい左腕と翼を焼く。

咄嗟に風を起こして消そうとするが、消えるどころか身体に徐々に拡がっていく。


「ぐっ…!この炎…消えねぇ…!」


フウは意を決して自分の腕と片翼を切り落とし、炎の侵食を防ぐ。


「はぁ…はぁ…いやぁ、危なかった」

「もう少し判断が遅れていたらやられていた…」


まだ完全に体を復元させてはいないが、クラマはまだ生きていた。


「くっそ…さっきは俺の全力だ……完全に決まったはずだぞ…なんで生きてんだよ…」


「確かにあなたの攻撃は私の魂にまで到達するものでした…だが、焦りましたね?」

「完全に殺せるまでの妖力を込められていなかったのが、不幸中の幸いということでしょうか……」


「人間は死んだ。あなたも片腕を失って満身創痍。私の勝ちです」


そう言ってクラマは身体の復元を終わらせて、腕を肥大化させていく。


「何かの拍子に逃げられても困るのでね、圧死させてしまいましょう」


「くっそ……」

(翔の妖力が感じられねぇ…ちくしょう…ちくしょう…)


フウは諦めるように下を向いた。だが、翔の方角から感じたこともないを感じ取る。

見ると、そこには女性が立っていた。

浮世離れした美貌、長くのびたブロンドの髪、そして頭の横には逆巻いた羊のような角を生やしている。

クラマも異質な気配を感じ取ったのか、そちらを見ていた。


「なんだ…一体どこからきて──」


反発せよリペル


女性がこちらに手をかざし、何かを唱えた瞬間クラマはなにかから、弾かれるように吹き飛ぶ。


「なっ…!」


クラマは驚愕の声を出すが、その女性は構うことなく、詠唱する。


「術式展開」

月の波動ムーンブラスト


大きな魔法陣を展開し、波動砲のようなものをクラマにぶつける。


「ぐはっ…!」


クラマは自分がダメージを受けていることに驚愕する。


(私の魂まで到達しているだと…?だが、これは違う!妖力などでは無いこれは一体…!)


クラマはそのままかなりまで遠く飛ばされいった。


「シュビィ…なのか…?」


フウは動かなくなった翔を抱き抱えたシュビィへと話しかけるが、シュビィは一切フウを見ずに翔を見つめる。


「あぁ…翔ちゃん、死んでしまったわね」

「でも、大丈夫。準備は整った」

「これが最後のひと押し……さぁ、あなたのすべてを私にちょうだい?」


シュビィは翔に唇を重ねた。

その瞬間、翔の身体が跳ねる。そして身体なら黒い何かが吹き出し翔を包み込んでいく。


「アハッ♡きた…来たわ!!!!」

「あぁ、これで私の願いが叶う……」

「大丈夫よ?あなたがまで、私が守ってあげる」


シュビィはそう言うと、体から夜を吹き出しそしながら、大量の魔法陣を展開する。


「私の名前はシュビィ·ワルプルギス」

「夜を統べ、魔界の頂点へ君臨する魔女の力…見せてあげる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る