第18話 刺客
何が起きたのか分からず、僕は目を開け、ゆっくりと顔をあげる。
「着いたぞ」
隣の輪堂さんが言うと、そこはセントラルタワーのホールだった。
車体の前方は綺麗にへこみ、運転席に近いところまでグシャグシャになっていた。
「降りるぞ。 ボッとしているとおいていくぞ」
すでに車両から降りていた輪堂さんが呆気にとられる僕に向かい言った。
「は、はい」
僕はすぐに反応し、シートベルトをはずし、車内から降りる。
いつの間にか後続の車両に乗っていた反対派の魔術師が集まり、同行した傭兵の人達はすでに建物内にいた警備員を制圧したのか、制服姿の男性二人が両手を頭の後ろに回し、床に膝をついていた。
輪堂さんは同行した反対派の魔術師と他の傭兵の人達に指示を出す。
「四人はついてこい。 後はここに残って入り口を守れ。北神君、ついてこい、離れるなよ」
短く伝えるとすぐに輪堂さんは踵を返し、エレベーターの方へと向かった。
僕は慌てて、輪堂さん達の後について行く。
輪堂さんの前に二人、傭兵と魔術師が並び、辺りを警戒しながら進んでいく。
最上階まで昇るエレベーターは普通のエレベーターと違い、一度に多人数を運べるような大きさになっていた。
エレベーターが到着すると僕らは隊形を維持したまま中へ乗り込む。
ドアが閉まるとエレベーターは動きだし、一気に最上階まで加速し、電子パネルに映し出された階数は一階からものすごい速さで数字が変わり最上階には三分もかからずに到着する。
ドアが開き、先頭の魔術師と軍人が先に降り、敵がいないかを確認する。
軍人がハンドサインで敵がいないことを告げると、僕らはエレベーターから降りる。
最上階は普段、観光場所として使われていて人で賑わうが今日は人がおらず、静寂に包まれ、フロアは電気が消え最上階の窓から見える五星市の街の明かりがきらびやかで目を惹かれそうになる。
このフロアから屋上へ向かうにはエレベーターとは反対側にあるドアを目指すとのことだった。
全員、静かなフロアを警戒しながら進んでいく。
いつどこで六菱の手下が出てくるか、分からない状況で緊張感が全体を包む。
フロアを半周するような形で進んでいき、屋上へと向かうドアのある場所へと近づいた時だった。
先頭を進む魔術師と軍人が止まれと合図する。すぐに何が起きたのは分かった。
僕らの目の前に六菱の手下である金髪碧眼の少女が目の前に立っていた。
まるで来るのを待っていたかのように両手にはすぐに戦闘を始められるようにナイフがそれぞれ握られていた。
「カァァァァァァァァァァァ」
少女は息を吐きながら、僕らを睨むと膝を曲げ、ナイフを構える。
「簡単には通す気がないらしいな。 人をただで舞台に招待しておきながらチケットが必要とはな」
輪堂さんは皮肉をいいながら、ジャケットを脱ぎサングラスを外し額の傷跡が現れる。
「ここは俺が行く。 全員、待機しろ」
輪堂さんは格闘家が使うような手の甲を覆おい指先がないタイプのグローブを手に装着する。
「すぐに終わらせる。 手を出すな」
輪堂さんはそういうと戦闘の魔術師と軍人の前に出てボクシングのような構えをとる。
すると少女がにやりと気味の悪い笑みを浮かべる。
「ダレが出てきても同じダ」
少女は無駄だと言わんばかりに否定の感情がこもった声で言う。
「無駄口を叩いている時間は無いぞ。雑魚」
輪堂さんが一言、吐き捨てるように言う。
次の瞬間、少女は叫び跳躍した。
「コロス」
輪堂さんは焦ることなく、丸太のように太い足で空中に浮いた少女に蹴りを繰り出した。
太い足が斧のように少女の身体めがけ、軌道を描く。
しかし、少女は輪堂さんの足が当たる前に空中から姿を消す。
するとぱっと突然、輪堂さんの背後に少女が出現し、ナイフを横に振りかぶる。
「輪堂さん!」
僕は思わず危ないと叫ぶ。
しかし、輪堂さんは焦ること無く、蹴った足が地面につくと同時に少女の方を向き、上体を後ろに反らし、ナイフをかわす。
ナイフは鼻先をかすめるが、空を切る。
すかさず輪堂さんが上体を戻すと同時に左の拳で目にもとまらぬ速さで拳を繰り出し、少女に向かいジャブパンチを打つ。
少女はそれに反応し、あっという間にその場から姿を消す。
すぐさま輪堂さんの後ろに姿を表した。
それと同時に輪堂さんは動きを呼んでいたのか身体を反転させながら、裏拳を繰り出す。
少女は予想外の攻撃にかわし切れず咄嗟に腕を盾代わりにして頭をガードする。
勢いがついた輪堂さんの攻撃をくらい少女は近くの壁まで吹き飛ばされ、身体を壁に激突させる。
ものすごい音がしたが、少女はすぐさま魔法を使い、姿を消す。
輪堂さんは辺りを見まわす。
すると瞼を閉じ、胸の前で拝むように両手を合わせる。
「輪堂さん!?」
何をやってるんだと僕は叫びそうになるが、仲間の魔術師に止められる。
数秒後、輪堂さんの頭上に少女が現れる。
すると瞼を開けていないにも関わらず輪堂さんは上体を後ろに倒し、サッカーのオーバーヘッドキックのような形で蹴りを少女に繰り出す。
少女は咄嗟に反応し、姿を消す。
輪堂さんはそのまま地面に背をつけながら受け身をし、すかさず起き上がる。
すぐに少女が輪堂さんに攻撃を仕掛けようと姿を表し、逆手に持ったナイフで斬りかかる。輪堂さんは焦ることなくバックステップしながらナイフの軌道をうまく読みかわしていく。すかさず輪堂さんはかわしながら少女の腕をつかみ、腹に向かい膝蹴りを入れる。
少女は捕まれた腕をふりほどくことができずもろに膝蹴りをくらう。
「コフッ」と小さく少女の息が吐く声が聞こえた。
そのまま輪堂さんは容赦なく少女を地面に向けて力づくで叩きつけた。
少女は叩きつけられ痛みに顔を歪めるがすかさずナイフを輪堂さんの顔に向けて繰り出す。輪堂さんは咄嗟に少女の腕を離し、距離をとるがナイフは彼の頬をかすめ、傷をつける。
少女は立ち上がり、肩で息をしながら輪堂さんを睨みつけると口を開いた。
「オマエ、何をした?」
少女は呻るように言う。
何のことだと僕は思いつつも黙り、事の成り行きを見る。
「マホウがツカエナイ。オマエ、何をした?」
魔法が使えないということはあの姿を消す魔法ができないということだろうか?
輪堂さんは目の前の金髪碧眼の少女を見据えると口を開いた。
「お前が魔法を使おうとするときに俺がお前の身体をつかみ強制的に俺の魔法で上書きしている。 簡単に言えば、お前の魔法を使えなくする魔法でブロックしている。 それで説明は満足か?」
輪堂さんは少女にグローブを見せるようにしながら言った。
「カァァァ!」
少女はいらだちを隠せずに叫ぶと、輪堂さんに向けてナイフを構えて突進をしかけた。
「そろそろ潮時だ。 貴様にかまっている暇はない」
輪堂さんは吐き捨てるように言うと迎撃の体勢、ボクシングのような構えをとり、何か一言、口元でつぶやいた。
一気に少女は輪堂さんと間合いを詰めると、ナイフの刃先を首元に向けてつきたてようとする。
輪堂さんはすかさず反応すると、グローブをはめた右手を盾のようにしてガードする。
危ないと思いながらも一瞬、目を見開いたまま状況に目を奪われる。
ナイフが輪堂さんの手を貫通してしまうと思った時だった。
ナイフはそのまま輪堂さんの右手に当たると
普通なら刃渡りが大きいナイフは貫通するはずが予想に反し、ナイフは硬い物に当たったかのように簡単に折れてしまった。
少女はその光景に驚き、一瞬、動きを止める。そこに輪堂さんは素早く少女の胸ぐらをつかむと、そのまま床に向けて投げるような感じで持ちあげる。
だが輪堂さんは手を緩めず、そのまま反対の手を振りかぶり、少女が床に向かい落ちていくのに合わせて反対の手をパーにしたまま振り下ろした。
輪堂さんの手は少女の顔面を捉える。
少女は反撃や逃げる隙もなく、そのまま、少女は頭から床に叩きつけられた。
ドンというけたたましい音が室内に響き、少女が叩きつけられた振動が僕らにも届いた。輪堂さんはそのまま少女を押さえつけるような感じで手を押し当てながら様子を見ていた。数秒後、少女が動かない事を確認し、手を亜離す。
少女は金色の髪で顔を隠しながら床に横たわっていた。
「殺したんですか?」
僕は思わずそんな言葉を輪堂さんにかけていた。
輪堂さんは手をぶらぶらと振りながら僕の方を向いて首を横にふった。
「死んではいないと思う。脳震盪を起こして気を失っているだけだと考えるがな」
輪堂さんは興味なさそうに言い、僕は気になり少女の方をのぞきこんだ。
確実に死んでもおかしくない角度で落ちて更に輪堂さんの掌低打ちを食らっている。
僕は少女が敵だったが心配してしまう。
輪堂さんはジャケットを仲間から受け取り袖を通し、サングラスをかけながら少女の方を見る。
「まだ自身の力を過信し魔術に頼り過ぎていたな。 通行料にしては安い。残念だ」
輪堂さんはそうぽつりと呟くとすぐに僕や、反対派の魔術師と軍人に向き直る。
「まだやることはある。行くぞ」
輪堂さんはそう言い踵を返し、屋上へ通じるドアの方へ、向かった。
僕らも後に続いた。
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