第24話 エピローグ

目覚ましがなり、僕はゆっくりと瞼を開いた。

今日は夏休みも終わりに近づき、始業式を兼ねた一日だけの登校日だ。

僕はふと自身の手を見つめる。

セントラルタワーでの一件から数日がすぎた。反対派のギルドを後にしてから魔術界に関するところは触れてはいなかった。

自分があの『龍』を封印するを持っているなんて想像もつかないくらい普段の日常が戻ってきた。

『ルール・オブ・デスティニー』は今でも僕の手に魔法で収納されており、ミキに教わった通りにすれば必ず出てきていた。

ただ形はいつもの錆びたナイフの状態で『龍』を封印した時のような形にはどう頑張ってもならなかった。

魔術は手の中にあるが、何となくミキ達と過ごしたことが嘘のように思えた。

僕は何を考えているんだろうなと思いながら一人苦笑してしまった。

 階段を降りるとキッチンのほうから音がした。

キッチンで動く楓姉さんを見て僕は声をかけた。

「おはよう」

「あっ、起きた?」

楓姉さんはいつものように明るい表情をする。あの一件の後、楓姉さんにはミキの事を作り話であるが親戚でもいい人がいてその人の元に行ったと話した。

すると「よかったね。 いい子だったから……」と嬉しいのか泣いているのかよく分からない表情をしていた。

僕はふとそれを思い出し、笑ってしまった。

「何、笑ってるの?」

楓姉さんは怪訝な顔をした。

「いや、なんでもない」

僕ははぐらかし真顔に戻る。

「変なんの。 もうすぐご飯できるから待っててね」

そう楓姉さんはなんでもなかったようにキッチンへ戻る。

僕はソファに向かい、テレビをつける。

するとニュースがやっており、現在の話題を告げていた。

『あの有名な六菱重工の社長、六菱憲二郞氏が消息をたってから一週間がたちました』

画面に写るアナウンサーは真面目な顔をして原稿を呼んでいた。

なんだか変な感覚だった。

世間では失踪になっているが、実際はもうこの世にはいない。

それに数日前にはミキと訪れた教団の教祖である武田還流はテロを画策していたと教団ごと逮捕されていた。

僕は勝手に輪堂さん達が画策して何か手を打ったのだろうと思った。

きっとこの世界はどこかで魔術界と繋がっている。

それならばこの世界のどこかに兵頭ミキがいる。

またどこかで会えるなら……。

そう思って僕はテレビを消した。


始業式が終わりホームルームが始まるまで自身の教室でボンヤリとしていた。

あれ以来、僕の心の中はぽっかりと穴が開いてしまったような感じだった。

机に肘をつき、ただ窓の外を見ていた。

「どうした?」

タケルは僕の顔をのぞき込むと不思議そうにいった。

「別に何もないよ」

僕はやる気もないような感じでタケルに返答した。

「ふぅん。 なんだか何かあったって顔をしてるけど、何も聞かないでおく」

タケルは僕の隣の席に座り、持参したうちわをパタパタ仰ぐ。

「何があったか知らないが元気がでるような情報教えようか?」

タケルはニンマリと笑い言いたくてたまらないという顔をしていた。

僕は渋々、聞いてみることにした。

「なんだい?」

「喜べ、転校生がくるぞ」

「転校生?」

「そうだ。 なんでも女子だとか」

タケルは二ヒヒと笑う。

「そうなんだ。この時期に転校して来るなんて珍しいね」

「だろぉ。どんな娘なのか気になるぜ」

タケルは楽しみだと言わんばかりに顔を明るく輝かせていた。

「まあ、どんな人かは知らないけどクラスに溶け込めるといいね」

僕は興味がなく淡々と答えた。

「お前は変に淡泊すぎんだよ」

「そうかな? タケルがこの時代にしては珍しい人種なんじゃない?」

ここまで女子に興味を持ち、下心が見える人はこの携帯端末が発達した世界では珍しいと僕は思う。

「そういう考えが淡泊なんだって」

タケルは手を開いて肩をすくめた。

とくに意味のない会話をしているうちにチャイムがなり全員が席につく。

机に設置された端末がホームルームであることをつげているが気にせず窓の方を見ていた。担任が教室に入ってきて始まりの合図をし切り出した。

「今日はこのクラスに新しい仲間が加わります」

そう担任が言うと色めきだつ生徒が何人かいてその中にタケルもいた。

僕はただ黙って聞いていた。

色めきだち騒ぐ生徒に担任は静かにしてと注意するとそのまま続けた。

「じゃあ、これから紹介するから」

担任は教室の外に転校生がいるからか、教室のドアのほうへ一度出てそこにいる誰かに声をかけた。

担人が入り、次に転校生が入ってくる。

転校生は緊張した面持ちで教壇にたつ。

ベタすぎる紹介だなと思った。

それでも僕はそこに見入っていた。

転校生は自身の名前を告げる。

けれど僕はその名前を知っている。

短い間だけれど、僕は何度も彼女の名前を呼んだ。

担任が何かを説明していたが全くもって耳に入ってこなかった。

僕はただ彼女に第一声をなんてかけようか考えていた。

僕が座るこちら側を担任が指をさして転校生に教えている。

偶然にしてはできすぎているくらいに僕の隣は開いていた。

僕の席は真ん中窓側の席から二番目だ。

開いているのは窓側、一番、眺めがいい場所だ。

僕は教壇の方を再度見る。

転校生と僕の視線が合う。

胸の奥の鐘がものすごい速さで打ち始める。僕は今、どんな顔をしているのだろうか。

そんなことはどうでもいい。

転校生は表情を硬くしたまま、こちらに向かい歩いてくる。

クラスの何人かの視線がこちらに向いているが気にしない。

彼女は僕を一瞥すると指定された席に座る。

僕はゆっくり瞼を閉じ、目の前に集中するイメージする。

暗闇の中でかすかに青色の光が揺らめいていた。

瞼を開き首を少しひねり隣を見る。

席に座った彼女は教壇の方を見ていた。

ふと視線があい口を開いて、彼女は言った。

「よろしく、北神コウ」

その言葉は他の人には聞こえているのか分からないくらいの声だった。

「こちらこそ、兵頭ミキさん」

僕はそれにつられ微笑みながら返答した。

そして隣に座った兵頭ミキは笑う。

これが僕の見たかったものだ。

多分、僕は魔法にかけられたように視線を奪われていた。

これが運命か宿命かどうか分からない。

けれど今は隣にいるミキの笑顔をもっと見てみたいと思うばかりだった。

そう、これはここからまた始まる物語だ。

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