第11話 作戦

僕は予言者の部屋を出る。

すると先ほどのソファが置かれた空間に出る。そこには輪堂さんとミキが二人、何かを話ながら向かい合うように座っていた。

「コウ」

ミキが僕に気がつき、神妙な顔をしていたが普段の表情に戻る。

「終わったのか?」

ミキは首をかしげながら聞いてきた。

「ああ。 予言者の言葉を貰ったよ」

「何かヒントになるようなことはあったか?」

ミキが聞いているのはきっと「箱」の居場所についてとこれからについてのことだろう。

予言者、エリザベスが言っていたことは理解できるがただどうミキに言えばいいのか分からず、返答に困ってしまった。

「うーん……。 『箱』についてよりも僕自身の未来について教えてもらったよ」

僕は半分、正直にもう半分は嘘をついた。

「そうか。 『箱』や、このについては自分の口から予言者に聞くしかないか……」

ミキは顎に手を当てながら反対の手で持っているをしげしげとみつめながら何かを思案していた。

多分、これから自分が『箱』の守人としてどう動くべきなのか彼女は色々と考えているのだろう。

僕には計り知れないことで、預言者にアドバイスを貰ったが、正直、彼女の助けになれるか不安になった。

そんな思考を切り裂くように輪堂さんが口を開いた。

「ではそろそろ時間だ。 部屋の中へ」

彼はミキに僕が今し方出てきたドアの方に顔を向け予言者の部屋の中へ入るように促した。「わかった」

ミキは一言、返答すると立ち上がり、ドアのほうへと歩いて行く。

「コウ。 すこし一人で待っていてくれ」

彼女は微笑みながらそう言うと輪堂さんと一緒に預言者の部屋の中へと吸い込まれるように消えていった。

僕は一人、ソファに腰かけると天井を仰ぎ瞼を閉じる。

誰もいない部屋に空調の音だけが伝わり、静けさを更に強調しているのが耳に残る。

ミキはこれからのことについて考えていた。

僕もミキの助けになるように自分の行動を考えなければ。

考えてみれば昨日までただの高校生でしかなくて波風のない日常を生きてきた。

そんな僕に厳しく冷たい世界で生きてきたミキの助けになるだろうか?

預言者は言っていた。

『貴方には本当に運命を変える力があるわ。 だから貴方の選択を間違えないでね』

僕はミキの助けになりたい。

それが純粋な願いで出会って間もない女の子の助けになりたいというのはおかしいかもしれない。

でもそれは迷ってはいけないことだと僕は改めて自分に言い聞かせることに決めた。

目を閉じそんなことを頭の中で整理していたら、静けさを裂くように声が聞こえた。

「おい」

僕はびっくりして目を開ける。

目の前にいたのはミキを預言者のところに送り届けた輪堂さんだった。

「すいません」

僕はソファに寄りかかっていた身体を起こす「いや、休んでいたのならすまなかった。置きあがらなくてもいい」

「いえ、大丈夫です。 すこし頭の中を整理していました」

「そうか」

輪堂さんは納得したのか一言くちにすると顎を片手で撫でながら何かを思案していた。

「話しがある。 すこしいいか?」

輪堂さんは厳つい顔を此方にむけながらぶっきらぼうに言った。

正直、厳つい顔にびびりそうになるが僕はそこは気にしないようにして輪堂さんに頷いた。「ではすこし質問があるがたしか名前は北神コウだったな」

「ええ。 そうです」

「では問おう。北神君。君は一体何者だ? 俺は予言者、彼女の指示で『箱』の守人と君を連れてくるように言われたが、正直、俺には君がなぜここに来たのか分からない」輪堂さんは首をすこし斜めにしながら僕のことを見ながら言った。

「予言者の指示がなければ、北神コウ、君を入れることはなかった。 君は何が目的でここに来た? そしてなぜ『箱』の守人と一緒にいる? それを話して貰おうか」

輪堂さんは表情を一切、変えていないが視線の中に含まれる僕に対する疑念は増え、鋭さが増しているようにも思えた。

あたりの雰囲気が変わり、ピンと張り付くような緊張が生まれ、輪堂さんが僕のことを疑っていることが分かる。

威圧感の正体はそこだったのかと気がつかされる。

ここで答え方を間違えれば、僕は味方となる人の信用がなくなるわけだ

それだけではなく、ミキ、彼女の手助けをできなくなるということだ。

僕は一度。口を強くつぐみ、腹に力を込めてゆっくりと口を開き、輪堂さんにことのいきさつを話すことに決めた。

僕がただの高校生であること。

ミキに助けられ、行き倒れた彼女を助けたこと。

そして自らこの魔術の世界に足を入れることに関して選択し、ミキの助けになるように彼女と行動をともにすることを決めたこと。

ここに来るまでの間のこと。

僕はできる限り、簡潔にそして僕の考えを正直に口にした。

話している間、輪堂さんは一言も口を開くこともなく、ただ黙って僕の話に耳を傾けていた。

僕が話しを終えると、輪堂さんは口を開いた。「以上か?」

僕の方を吟味するようにジッと見ながら言った。

「そうです。 これ以上は説明することはありません」

僕は輪堂さんを見つめかえしながら言った。

「つまりは君はただの高校生で、『箱』の守人に助けて貰った恩を返す為にここまで彼女と共に一緒にいたということか?」

「そうなります」

輪堂さんは僕がそう返答すると無表情が崩れフッと微笑した。

「君はお人好しなのか、それともただの無謀な奴か」

輪堂さんはどうしようもない奴だなと言った。「何が可笑しいんですか?」

僕はバカにされた感じがしてすこしイラッとして質問した。

僕の表情を読み取ったのか

「いや、すまん。 別に可笑しいわけではない。自らこの世界に飛び込むとは勇気のあるやつだ。 それは認める。 だが……」

「…………?」

「この世界は思っているより血なまぐさいぞ? 北神君が思うよりも彼女が生きているこの世界は甘くない。 それでも彼女の助けになりたいか?」

輪堂さんは表情を変え、瞼を細め、ジッと僕を見つめる。

「君自身に命の危険があると分かってもそれでも決意は揺らがないか?」

輪堂さんは覚悟があるかと問いかけた。

まるで何か、試しているようにも思えた。

それでも僕はただ自分の気持ちを話すことに決めた。

「正直、彼女の手助けになれるかわかりません。それに命の危険があると言われて恐怖がないと言ったら嘘になります。 それでも僕はミキ、彼女が笑えるよう僕のできる限りの

ことをするまでです」

声は震えていないかわからないが、それでも自身の気持ちを言うことでしか今の僕には目の前の人物に証明することしかできない。

未来がどんな風になるか、わからなくてもだ。僕が言い終えると輪堂さんはまた微笑した。

「そうか。 決意はあるわけだ。 君のことを試すようなことをしてすまなかった」

「そういうことですか?」

「さっき君が預言者と対面している間『箱』の守人からも君の事を聞いていた」

輪堂さんは顎を手でさすりながら言った。

「ただ君本人の口から話しを聞いていなかった。 信用に当たる人物なのか試してみたかった。疑ったりしてすまなかったな」

輪堂さんはジャケットの裾をただし、僕の方に手を差し出す。

どうやら認めてくれたと受け取っていいのだろうか。

僕はその手を一瞬見つめ、輪堂さんの手を握り返した。

「これからよろしくお願いいたします」

僕は輪堂さんに向かって言った。

「こちらこそだ」

輪堂さんは表情を変えることはしなかったが、口調はすこし柔らかくなっている気がした。

僕はふと質問が思い浮かび、輪堂さんに聞いてみことにした。

「輪堂さん、質問があるんですがいいですか?」

「なんだ?」

「みんなが追っかけている『箱』の中身はご存じなんですか? 『箱』の中には何が入っているんですか?」

僕は輪堂さんが何を知っているのかが気になり、聞いて見ることにした。

輪堂さんは黙り、顎に手をやると口を開いた。「難しい質問だな。 正直なところ『箱』の中身について誰も知っている者がいない」

輪堂さんはあきらめたような口調で言った。「じゃあ、みんなは中身もわからないものを追いかけているんですか?」

僕は正直な意見を言った。

「手厳しいな」

輪堂さんは破顔し、苦笑した。

「すいません」

「いや、いい。 それは皆、考えずに今まで来たことだ。 確かに君の言うとおり中身を知らなければいけない。 だが……」

「…………?」

「君は『箱』の守人からは中身についての話は聞いているだろう」

「はい。災厄を及ぼすものでもあり、操れば力になるものだと」

僕はミキに言われたことを思い出しながら、言った。

「『箱』の中身についてのことは魔術に関わるものすべて聞いたことはある。 ただしその中身の細小について知っているものが一人だけ」

「知っている人がいるんですか?」

僕は驚き、輪堂さんに向かって身を乗り出した。

「いるというよりいたというべきだな」

「いた……? あっ」

僕はその一言で気がついた。

「気がついたか。 兵頭ミキの父親、前『箱』の守護者がすべてを知っていた」

確かにミキが出会った時に言っていた。

代々、『箱』を悪用されないように管理してきたと。

ということはその秘密や、使い方などもわかっているはず。

「しかし、彼は見知らぬ敵に襲われ、命を落とした。 守護者達は自身が死ぬ前にその秘密をすべて次の世代に教えてきた。 だが今回は特例中の特例だ。 兵頭ミキに伝える前に死んでしまったからな」

「ということはすべての情報が失われたということですか?」

「そういうことになる。『箱』の中身について誰も知る人物はいなくなったというわけだ。それに『パンドラの箱』だけではない」

輪堂さんは表情を硬くした。

「『箱』と同じく重要なの存在だ」

「ルール・オブ・デスティニー」

僕はその名前をつぶやいた。

「そうだ。 またも重要な存在だが使用方法など実際にわからない。先代の兵頭がいなければすべてわからないということだ。 ただ望みは消えていない。兵頭ミキにすべてでもなくとも情報の断片を伝えているはずだ。

それが一縷の望みとしてこれからに至るはずだ」

輪堂さんは一つため息をつくと言った。

「確かに君の言うとおり、我々、反対派を含め、魔術界の人間達は『箱』の中身を知らない。だがそれが何かはっきりとわからずとも中身を開けることによってこの世界が危険にさらされるのであれば我々、反対派は開封を阻止する」

輪堂さんは強く言った。

『箱』に関することは管理者である守護者でしかわからない。

けれどそれをわからなくても、必死に開けてはならないと信じて輪堂さん含め、反対派の人達は戦っている。

僕には理解できなかった。

なぜそこまでに『箱』という存在に踊らされなければならないのか。

それが僕の唯一の疑問と納得できないところだった。

「質問に答えていただいて有り難うございます」

僕は輪堂さんにお礼を言った。

「礼などはいい。 俺はただ答えられることを答えたまでだ」

彼はそういうと表情を引き締めた。

「まぁ、また何か質問があれば答えられる範囲なら答えてやる」

「わかりました」

僕はそう答えるとドアの方に向き直った。

ちょうどドアの向こう側からミキが帰ってきたところだった。

「なんだ? なにか話してたのか?」

ミキは僕と輪堂さんの顔を見比べながら首をかしげた。

「別に何もない」

輪堂さんはぶっきらぼうに言うとスーツの襟をただした。

「そうか」

ミキはそう言うとミキは僕の方をみた。

「ミキ。 予言者にはなんて?」

僕は戻ってきたミキにたまらず声をかけた。

「うーん……。理解できるといえば理解できたが、ただ内容は伏せておいた方がいいと彼女には言われた」

彼女とはエリザベスのことだろう。

ミキは額に人差し指を当てながら何かを思案していた。

「そっか……。 まぁ、それならしょうがないね」

僕はミキに言った。

「そうだな」

目の前のミキは苦笑するように口角をあげた。「では二人ともそろったな」

輪堂さんは僕ら二人を見る。

「二人とも予言者から言葉を貰ったと思う。ここからは俺が君たちにこれからについて話したいと思う。 それを聞き判断してほしい。いいな? 『箱』の守人とその助手」

そう言って鋭い視線を輪堂さんはこちらの二人に向けた。

僕はミキの方を見ることなく頷いた。

見なくても隣の彼女が強く頷いているように思えたからだった。

 僕とミキ、二人とも輪堂さんの案内で別室に移動することになった。

階段を降り、通された部屋は普段、VIP席として使われているのだろう、かなり部屋の大きさがあり、妖しい紫色の照明がつけられ部屋の中心には大きなテーブルが置かれていた。そしてそのテーブルを囲むように様々な色のローブを着た人が五人立っていた。

部屋に入るなり僕らの方を一斉にむくが彼らはフードをしっかりかぶっている為、口元しか見えなかった。

僕は気圧されそうになるが、しっかりと前を向いて彼らを視界に入れることにつとめた。

輪堂さんに誘導され、僕とミキはテーブルの上座の方に案内される。

「待たせた」

輪堂さんはローブを着た皆に向けて言うと全員が一斉にフードをあげた。

フードをあげた面々は皆、個性にあふれた格好や髪型をしていて男女問わずまじっていた。「この人達は?」

ミキは輪堂さんに質問した。

「彼らは反対派に所属する魔法使い達だ」

「魔法使い……」

僕は全員を見まわした。

頼もしく感じる限りでこの人たちが昼にあった武田還流と同じ魔法使いとは思えなかった。雰囲気が違うとでもいうのだろうか邪気のようなものが感じられなかった。

「そうだ。 彼らは頼りになる仲間でもある」

そう輪堂さんは言うと反対派の魔法使い達に言った。

「彼女は『パンドラの箱』の守護者にして『ルール・オブ・デスティニー』所有者。そして兵頭の娘、兵頭ミキだ。 隣の彼はその助手、北神コウだ」

輪堂さんは全員に僕らの紹介をする。

全員がざわつくがそれはミキの存在を知ったからだろう。

僕の存在はただの助手でしかないが別に気にしないことにした。

「紹介は以上だ。 これから説明に入る」

輪堂さんはざわつく魔法使い達に言うとテーブルの真ん中に置いてある小さい四角い箱に手を伸ばした。

するとまるで立体映像のように空中に透明で立体的な街の模型のようなものが浮かび上がった。

僕はびっくりしてミキに聞いた。

「これは?」

彼女はクスリと笑うと説明を始めた。

「これは魔術の地図だ」

「地図。 これが?」

「そうだ。 ある魔力を持った物を支点として街のあらゆるところに置くことで立体化してくれる。 ここまで大きいのはかなり魔力が強い人物が作ったのだろう」

「へぇ……。 ちなみにこれはどこだろう」

「五星市すべてだ」

ミキの変わりに答えたのは輪堂さんだった。

「これは魔術界ではオーソドックスな物だ」

輪堂さんは淡々と答えた。

僕はなんとなくミキが携帯という現代文明を持たなくても大丈夫だと言っていた理由がすこしだけわかった気がした。

僕は立体的に映し出された地図の方に視線をやる。

「説明を始めてもいいか?」

輪堂さんは僕とミキに問いかけた。

二人とも無言で頷いた。

輪堂さんも同じく無言で頷くと目線を地図に向け口を開いた。

「皆周知だと思うが今回、先代の『箱』の守人が亡くなった。 それに伴い、『箱』が何者かに奪われた。『箱』の所在に関して我々も捜索をしていたが今まで行方がわからず、奪った人物も同様にわからずじまいだ。「儀式」の時までには時間と猶予がある」

「ちょっと待て」

話しを折ったのはミキだった。

「『儀式』とは何の話しだ?」

彼女は眉間に皺を寄せながら輪堂さんに向かい詰め寄った。

「なんだ、父上から聞いていなかったのか? 『パンドラの箱』の開封の儀式を行うには適切な時間があると言われている」

輪堂さんがそう言うとミキはすこしうつむき、ぽつりと言った。

「父さん。 なんで教えてくれないの……」

ミキは下唇をかみ悔しそうな表情をする。

「君が父上から聞いていないのは知っている。だからそれを責める必要はない」

輪堂さんはそう言うと地図に向き直る。

僕は一つ気になり、彼に質問をすることにした。

「その『儀式』までの時間は後どれくらいになるんですか?」

「儀式の時間まで後二日だ」

輪堂さんは表情を硬くし、見た物を凍らせるような視線をする。

「てっことはもう全然、時間ないじゃないですか。 それに『箱』を奪った敵の正体と居場所もわからないのにどうやって止めるんですか?」

僕は思わず輪堂さんに向かって詰め寄った。「そう焦らなくとも手はある。 それに『箱』を奪った敵と思われる人物の目星はついている」

僕は驚き、無意識にミキの方をみた。

彼女は瞼を見開き、立体的に映し出された地図の方を向いていたが完全にそこに意識がないことはわかった。

ミキはゆっくりと口を開き、輪堂さんに問いかけた。

「その人物とは誰だ?」

「…………」

「答えろ!」

ミキは輪堂さんに向かい、感情を殺すことなくむき出しにしながら叫んだ。

「そう熱くなるな。 まだ確証できる段階ではない。 だが教えることはできる」

輪堂さんはミキの怒りを冷静に受け流すと腕を組み言った。

「疑わしいのは六菱憲二郞だ」

その場にいた僕を含む全員が一瞬でどよめいた。

ミキは聞いた瞬間、瞼を細め、つぶやいた。

「六菱憲二郞……」

彼女は覚えるように名前を繰り返す。

声は小さかったが僕は聞き漏らさなかった。

輪堂さんにう向き直り僕は問いかけた。

「六菱憲二郞ってあの六菱グループの会長?」

「そうだ。 なぜあの若さ、そして一代であそこまで大企業をまとめる人間になれたと思う? 不思議に思わないか?」

「いや、ただすごいとしか考えられないですよ」

一般人の僕からしたら超人かすごいエリートなのかとしか思わない。

「あそこまでになったのは六菱の成功の影には魔術師達が絡んでいるからだ。奴はこの業界でも有名人でな、何名もの魔術師達が奴の元で働いている」

「それって破壊活動とかですか?」

「そこまで過激な事はしないが、魔術師を使い未来を予測し、ビジネスに活用したりしている」

輪堂さんが言うとミキが口を開いた。

「確かに昔から有名な起業家などは占星術の力を借りたりして会社の運営の舵とりをしていたと言われている位だ。 不思議じゃないな」

「だが北神君が言うような事を六菱に言われ、実行している奴もいるという黒い噂もある」

輪堂さんは地図を見ながら言った。

「でもそれがわかったとしてもどうやって止めるんだ? いきなり疑いをかけて奇襲をかける訳にはいかないだろう?」

ミキは腕を組みながら言った。

「それをこれから説明させて貰う」

輪堂さんは魔法で動いている地図をすこし動かし、五星ウォーターフロントから五星市のお方に入り、市内でもウォーターフロントに次いでビルが多く立ち並ぶところを映し出した。

そこの一部を更に拡大し、一つのビルを映し出す。

「これは?」

ミキは輪堂さんに向かい訪ねた。

「まぁ、ただの雑居ビルだ」

輪堂さんは素っ気なく答えるとミキは納得しない顔をする。

「明日、ここでとある人物と待ち合わせをしている。 その人物はキーの所有者の一人だ」

ふてくされるような表情をしていたミキに向かい輪堂さんは言った。

「キーって確かミキが言っていた『パンドラの箱』を開ける為に必要な物だよね。確か七つあるって」

僕はミキに向かって訪ねた。

「そうだ。だがキーを所有している人物は世界中各地に散らばっていて確認するのにも大変なのに」

ミキは驚いたように目を丸くしながら言った。「そうだ。 『箱』の守人が言うようにキーの所持者たちは動き回っている。彼らも魔術者だから自分の身の安全は自分で守っている。だが今回一人、アポイントがとれた人物がいた。 その人物にキーを反対派で一時的に預かる変わりに身の安全を約束した」

「身の安全ってどういうことですか?」

僕は気になり輪堂さんに問いかけた

「つい最近までキーの所持者が襲撃される事件が世界中で起きていた。賛成派の人間が起こした物と我々は推測しているが真実は定かではない。 情報を集めている間に浮かび上がってきたのが六菱だ」

「そういうことだったのか」

ミキは顎に手を当てながら思案する仕草をする。

「その人を保護して、キーを反対派で預かるということですよね?」

僕は

輪堂さんに向けて問いかけた。

「そういうことになる」

「でもそうすることでなんで、これからしようとしている『箱』の開封を止めることができるんですか?」

「『箱』はキーすべてそろわなければ開かないからだ。 無理に開けようとしても開かない『箱』で開ける為に満月の夜に行い、すべてのキーを『箱』の近くへと置かなければならないと伝えられている。 つまり敵より先にキーを奪ってしまえば『箱』の存在は無意味に等しいと言える」

「ということは相手の行動をすべて無力化させるという考えですか?」

「そういうことになる」

輪堂さんは強く頷いた。

「我々、反対派はこのメンバーでこのビルへ向かい、キーの所持者と落ち合う予定だ」

輪堂さんは地図に写し出されたビルに指を向けながらミキと僕の方へむく。

「これから先の計画も考えているが、まずはキーの所持者と落ち合い、キーの確保と所持者の安全が第一だ。『箱』の守人、君ら二人はどうする?」

「私たちは……」

ミキは僕の方を向き、何かを言いたそうな顔をする。

僕は彼女が先に口を開く前に言った。

「僕のことは気にしないで。 君と一緒に行くから」

「…………そうか」

ミキは一度、瞼を伏せてからもう一度瞼を開き、微笑した。

彼女は輪堂さんに向き直ると口を開き言った。「私たちもそこについて行く」

彼女は輪堂さんに向かって強く言った。

すると輪堂さんは口元をゆがめ、笑う。

「そうか。 それが君らの決断ならば受け入れるとしよう」

立体的に映し出された地図を消すと輪堂さんは全員に向けて言った。

「今回の話はここまでだ。質問のある奴はいるか?」

全員、顔を動かすことなく、満場一致ということがわかった。

「これで以上だ。 明日は指定した時刻にここで集合。各自、明日に備えろ。そして二人」

「はい?」

輪堂さんは僕とミキに向かい、声をかける。

「今日はゆっくり休め」

彼がそう言うと僕とミキは頷いて答えた。

 僕とミキは輪堂さんに挨拶をし、そのまま反対派の集会所を後にした。

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