第12話 帰宅

バスを乗り継ぎ、自宅まで向かう間、僕とミキは二人とも喋ることなくただ黙ったままだった。

「そういえば、私はここまでついてきたが大丈夫だろうか? 二日間もコウの家に世話になってしまう」

ミキは自宅から数メートルのところで前に突然、言い出した。

「いや、大丈夫だけど」

僕はしどろもどろで答える。

「しかし、迷惑ではないか? 私は確かに君に手伝って貰っているけれど……」

なんだかミキはバツが悪そうに言うとうつむく。

彼女は自身の現状よりもそこを心配するのかと関心してしまった。

僕はすこし可笑しくなり笑ってしまった。

それに気がついたミキは驚いた表情をし、口を開いた。

「な、なぜ笑う?」

「ご、ごめん。 笑うつもりはなかったんだけどミキは優しい人なんだと思って」

僕がそういうとミキは顔を赤くしうろたえる。「な、何をいっているんだ」

「いや、別に素直な感想を言っただけさ。それに悪いと思わないでよ。 君の助けになりたいと思ったのは本当だから。魔術では助けにならなくてもこういうところで助けにはなりたいから」

僕は正直な気持ちをミキに言った。

ミキは真顔で僕の顔をすこしの間、黙ったまま見つめると彼女も微笑んだ。

「コウこそ優しいな」

「そうかな?」

不意に言われ僕は首をかしげながら言うしかなかった。

突然にミキは頭を下げると言った。

「ありがとう。 コウの手を貸して貰う」

「頭を下げないで。 まだ事態は途中だから」

「そうだな。 事がすんだら何か御礼ができるといいな」

「いらないよ。そういうのは」

そう僕が言うとミキはいつの間にか笑っていた。

どうしても魔法にかけられたように彼女の笑顔をもっとみたいと思ってしまった。

そんな思考を頭の片隅に残しながら僕とミキは自宅へと歩いた。

家に帰ってきたという安堵を持ちながらドアを開けた時だった。

ドアの向こう側に仁王立ちに帰りを待っていた楓姉さんが立っていた。

「お帰り」

楓姉さんは無表情で言うと腕を組みながら僕のことを見る。

僕は一瞬で悟った。

ミキを連れ出したことに関して楓姉さんは怒っているのだと。

血の気がひいた僕は楓姉さんに一言返した。「た、ただいま」


「なんだ、そういうことだったの」

怒っていた楓姉さんは僕に詳細を話すように求め説明をし納得した顔をした。

居間へと向かう数歩が処刑台の階段のように思えたが、しっかりと楓姉さんに説明をしようとこころがけ、ミキにも説明の手助けをして貰い、なんとか許しを得た。

もちろん僕とミキは魔法というキーワードに触れるような内容の説明はしなかった。

ただ楓姉さんにはミキのことを早くに両親を亡くし、親戚の家に引き取られたものの別の親戚の家へたらい回しにされ、挙げ句の果てに追い出され、路頭に迷っていたというドラマでも描かれないくらいの嘘の出来事を説明し悲劇のヒロインとして伝えた。

嘘であるため、話が大げさで真実味がないため、楓姉さんが信じてくれるかどうか不安だったが、すっかり信じてくれたのか泣きながら、「いつでも頼ってね」とミキに言った。信じて貰ったことにより、ミキは僕の自宅に泊まることになった。

楓姉さんは夕食を作ってくれ、それを三人で話ながら口にした。

楓姉さんは明日の朝に仕事があると早めに自宅に戻った。

その際に「ミキに変なことしちゃダメよ」と釘を刺された。

確かに成人前の男女が二人っきりになるのはどうかと思うが、僕にはそんな下手な下心などは無く、何か間違いがあれば僕は間違いなくこの世にはいないことになりそうだ。

 僕はそんなことを考え、身震いした。

楓姉さんが隣の自宅に帰宅し、ミキと僕は話し合いの末、早く就寝することに決めた。

明日には輪堂さんたちについて行くことを決めていたため、身体を休ませるのが必要だった。

僕はミキに自宅の設備について説明し、彼女には一応、僕の部屋で寝て貰うことにした。

着替えなども全て用意し、彼女に任せることにした。

僕は一階のリビングで横になり明日のことに関してすこし考えを巡らせていた。

けれどやはり魔法の世界に関しては素人の為、何もアイデアなど出るはずもなかった。

一度頭をさっぱりさせる為に風呂にでも入ろうかと思い浴室へと足を運んだ。

「はぁ……」

僕はため息をつきながら浴室のドアを開ける。ドアの向こう側には脱衣室があり、すこしのスペースがある。

そこを視界にとらえた瞬間、僕は絶句した。

目の前にいたのは全身裸の生まれたままの姿のミキだった。

彼女は鏡の方を向いており、此方に背を向けバスタオルで頭を拭いていた。

ただ驚いたのはそれだけでは無い。

ミキの背中に赤い幾何学的な模様に見える痣

がついていた。

彼女の背中に一瞬、目を奪われた瞬間、ミキは鏡越しに僕と目が合った。

彼女は僕の存在に気がつき顔を一瞬で、ゆで蛸のように真っ赤に染める。

「きゃぁぁ」

「ご、ごめん」

ミキは自身の身体を隠すように体勢を変えながら叫び声を上げようとした瞬間、僕は神のごとき速さで謝りながらドアをしめた。

バタンという音と共にドアが閉まり、僕は浴室の前から逃げ、リビングへと向かいソファへとなだれ込んだ。

きっと僕は明日生きて入れるかわからない。

そう思いつつ、ミキの背中の痣のことが脳裏に浮かんだ。

なんだろうかあれは?

僕は天井を仰ぎながら自分で自分に問いかけた。

わからないし、何か意味があるとは思えない

から変な詮索は必要ないな。

僕はそこで思考を中断し、明日、ミキに命を奪われないことを祈りながら瞼を閉じた。

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