第13話 突入
僕はなんとかミキに殺されずにすんだが、朝、顔を合わせたときはすこしだけ気まずい雰囲気だった。
僕とミキはとりあえず集合場所である反対派の集まる店へとむかった。
バスに乗り込み、目的地へと向かう間、僕とミキはお互いに話すことなく黙ったままだった。
輪堂さんに指定された時刻に間に合わせるため集合予定時刻より十分ほど早く到着した。反対派の集会所兼である「クロウリー」という店の前で二人立って待っていると目の前の道路に二台の黒い車が停まった。
車の形状からしてものものしい感じがしていたが扉が開き、中からサングラスをつけた輪堂さんが降りてきた。
サングラスと厳つい顔が合っていて本当に表社会の人間のように見えなかった。
ジャケットの襟を正しながら待っていた僕らを見る。
「待たせたな」
一言口にすると車の方をむく。
車からは昨日、集まった時にいた魔法使い達が降りてきていた。
彼ら全員五人ともローブでは無くまるで映画に出てくる特殊部隊の隊員が着ていそうな黒いベストを着ていた。
ふと僕がイメージする魔法使いじゃないなと思っていると片方の車のドアが開き別の人間の三人が降りてきた。
僕はその降りてきた人達を見て驚いた。
彼らの手には自動小銃が握られ、戦争にでもいくのかと思うくらいの武装をしていた。
すると驚いていた僕を見て、輪堂さんが言った。
「驚いたか?」
「あれってまさか……」
「そうだ。 銃だ」
動揺して質問する僕をよそ目に輪堂さんは当たり前だといわんばかりの口調で言った。
「なんで銃を?」
「目的はキーの所持者を護衛だが、狙ってくるのは何も魔法を使う人間だけじゃ無い可能性があるからな。知り合いに頼み傭兵を寄越して貰った。 念には念を押さなければ此方が痛い目を見るからな」
輪堂さんの眼の奥が鋭く光るような感じがした。
何者なんだろうと僕は純粋に思ってしまう。
そんな僕をよそ目に輪堂さんは言った。
「この国で所持は違法だが今はそんなことを言っている状況じゃ無い」
僕は輪堂さんの言葉に身震いした。
これから行こうとしているのはそういう可能性がある場所ということだ。
気を引き締めていかなければいけないなと僕は心の中で自分に言い聞かした。
「安心しろ。今回は何も無いと思う。何かあっても『箱』の守人と君には危害が及ぶようなことはしない」
輪堂さんは僕の気持ちを見透かしたように言った。
「私なら大丈夫だ。私は自分の身は自分で守れる。 私よりは彼を優先してくれ」
ミキは聞いていたのか、横から口を開いた。
「ということだそうだ」
輪堂さんは僕の方を向き、口元に笑みをうかべながら言った。
僕はそれにつられるように笑った。
車から全員が降りてきたのか、輪堂さんは魔術師達と武装した傭兵の方を向き、口を開いた。
「全員、そろったか」
彼がそう言うと、全員が何も言わずに首を縦に動かした。
「ではいこうか」
輪堂さんが言い全員、各自車に乗り込んだ。僕とミキは輪堂さんと同じ車に乗車し、そのまま目的地へと向かった。
目的地のビルまでは距離は遠くはないがそれでも緊張感が漂い、車内は沈黙に包まれていた。
十分たっただろうか、僕らを乗せた車は目的地へとすぐに近づいていた。
倉庫街からすぐに繁華街近くのビル街に入る。車は目的地のビルの裏手に周り、近くの駐車場に停まる。
周辺の建物には人が居るはずなのだが、人気が全然無いようにも思えた。
「人気が全然ないな」
僕と同じようなことを考えていたのかミキが当たりを見まわしながら言った。
「一般人が寄りつかないように低度の魔力が
ある結界を張っておいた。 敵にも気がつかれないようにはしてあるから張った本人達にしかわからない。 だから『箱』の守人の君でもわからなかった」
輪堂さんも車内からあたりを見まわしながら言った。
ミキはもう一度車内からあたりを見まわし、輪堂さんに質問した。
「で、これからどうするんだ?」
「これから正面の入り口を使わず、裏の非常階段から上がっていく」
「キーの所持者との待ち合わせ場所は?」 「目的のビルの六階、最上階だ。 そこで落ち合うことになっている。 早ければ十分も経たないで終わる」
輪堂さんは車内からビルの方に視線を向けて言った。
「ビルの裏手に階段があるだろう。 あれを使う。 正面玄関からでは眼がつきすぎるからな」
僕とミキはビルの方を車内から見る。
非常階段なのか外にむき出しになった階段がビルの最上階まで続いていた。
「そろそろ時間だ」
輪堂さんは腕時計に視線を落とし、言った。
彼の一言で全員、車を降りる。
自動小銃で武装した人達は一斉に僕らを囲むと銃を構えながらあたりを警戒する動きを見せた。
先頭に一人の魔術師、次に輪堂さん、そして僕とミキに続くのは他の魔術師達と武装した傭兵の人達が隊列のようなものを組みながらビルへとむかう。
階段を警戒しながら一人ずつ登っていく。
あたりは不気味なくらい静かで表の通りで車が走る音やビルの間を吹き抜ける風の音だけが耳に入る。
それが逆に緊張感をあおって心臓がペースをあげているのがわかっていたが自分で落ち着かせるようにつとめた。
先頭の魔術師がビルの一番最上階につくと異常がないかどうかを確認する作業なのか、イメージ通りの細長い小さい杖を出すと空中に円を描いていた。
僕はミキが教えてくれたようにそこを視覚でとらえようとせずに瞼を閉じて集中してみた。暗闇の中に緑色の光が巨大な柱となって出現する。
その緑色の一部に紫色の円が点滅しているのが確認でき、それが先頭の魔術師が行っていることだろうと僕は考えた。
瞼を開け、肉眼で魔術師達の方を見る。
輪堂さんたちに向かい、ジェスチャーで大丈夫と伝えていた。
目の前の輪堂さんは頷き、ドアへと向かい、ドアを開ける。
一度、後続の僕らの方を一瞥するとうなずき
、ドアの中へと入っていた。
それに続き、ドアへのほうへと全員向かう。
中に入ると人が二人横に並んで通れるほどの通路があり、その奥には一つのドアがあった。「あそこが待ち合わせ場所だ」
輪堂さんは奥のドアを指さすとスタスタと通路を歩いて行く。
全員、輪堂さんの後をついて行く。
一番奥のドアへと向かい、ドアを開け全員がその部屋の中へと入っていく。
中に入ると、部屋の中は意外と広いものの照明や壁紙などは取り付けられておらずコンクリートが至る所、むき出しになっていた。
ただ照明がない為、薄暗いが窓側の部屋なのか分厚いガラスがあり、そこの窓から光が差し込んでいて細部は見えないもののある程度なら視覚でとらえることができる状態だった。「ここのはずだが、まだ来ていないのか?」
輪堂さんは腕時計を一瞥するとあたりを見まわした。
「外の様子を一応確認しましょうか?」
魔術師の一人が、来たドアを開けようとした瞬間、輪堂さんは何かに気がつき、叫んだ。
「触るな!」
だが事は遅かった。
魔術師はすでにドアに触れていた。
次の時にはドアのほうに閃光が走り、魔術師
は何かに吹き飛ばされるように後ろに飛ばされた。
「何が起きた?」
ミキはドアの方を見ながら叫んだ。
他の魔術師が吹き飛ばされた魔術師に近づき抱きかかえる。
目立った外傷はなかったが、ぐったりとして気を失っているようだった。
別の魔術師が杖を出し、ドアに近き一言何かつぶやくと握った杖を降る。
すると杖の先端から小さい光が現れ、ドアの方へと光は移動し、ドアノブに触れた。
次の瞬間、光に反応するかのようにバチバチと音を立ててドアの周りに電流のようなものが走る。
「結界か」
ミキは現象を眼にし驚くように言った。
「誰が結界を?」
輪堂さんが眼光を鋭くしドアの方を睨み、疑問を口にした瞬間だった。
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