第20話 真実
ただ龍と呼んでいいのか、まるで皮膚は炭のように黒くただれ、牙はまるでノコギリのごとくギザギザと鋭く恐竜をも彷彿させる姿だった。
ただ瞼を閉じているのか目が見えなかった。
「なんなんだ、こいつは?」
輪堂さんもうろたえるように言った。
「これこそが『パンドラの箱』の正体だよ。私の推測は間違ってなかった」
答えたのは六菱だった。
まるで『龍』を見る目は神聖な物を見るような純粋さと狂気を持っていた。
「だがまだ封印は全て解けていない。これからだ」
六菱が一人ぶつぶつと言っているが全員が『龍』の姿を見つめていた。
突然、『龍』は瞼を開きその目があらわになる。
まさか……。 僕は愕然とした。
『龍』の目を確認した瞬間、夢の中で出てきたあの目と一緒だった。
目は真っ赤に染まり感情すらも感じられない。僕は確信した何度もみた夢の中で出てきた姿は目の前の『龍』だった。
予言者は言っていた。
『貴方が見た夢はある意味、神託。 私が貴方に示すよりも先に貴方は行き着く先の未来を垣間見たと思うわ。 それはもう運命の法則の中に捕らわれていると思うの。 それに私の知る限りでは貴方が見た夢は目先の未来じゃない』と。
しかし、夢が現実になった。
予言者が言っていたことは間違いだったのだろうか?
現実離れした光景について行こうと必死で頭を動かそうとする。
しかしそれを打ち消すように『龍』は口を大きく開き、顔だけを空に向け、咆哮をあげる。耳をつんざくような声は大気を震わせ、その存在が畏怖すべきものだと証明するかのよう。僕は『龍』に視線を合わせたまま身体が恐怖で硬直していた。
そして『龍』は顔を戻すとゆっくりと呼吸をし息をはき出す。
その瞬間、急に身体の力が抜け、呼吸が苦しくなる。
「瘴気だ。 気をつけろ」
近くの輪堂さんも苦しそうに言う。
ミキは世界に災厄をもたらす物と言っていたがもし全ての封印が解けたらその時はどうなるのか?
そう思った瞬間、『龍』は天に向かい、咆哮する。
何をする気だと思った瞬間、『龍』は顎を大きく開け、喉の奥から一気に紅蓮に燃える炎を空に向かい、放出した。
炎は一筋の柱になり天に向かい、一気のびていき、辺りを明るく照らす。
離れているにも関わらず炎の熱気が伝わり、
肌がやけそうだった。
僕はその姿に恐怖よりもなんとも言えない感覚を覚えていた。
『龍』は炎を吐ききると口を閉じ、顔を戻し、此方を睨む。
そんななか六菱は『龍』の息から発せられる瘴気をものともせず嬉しそうに『龍』に視線を向けながら言った。
「素晴らしい。 これが『箱』の中の正体か! 全てを開放していないのにこの力を持つとはどんな魔術よりも最高だ。 この力が私の手で操れるとは……」
六菱はミキが持っていたを手に持ちながら『龍』を見ていた。
彼が手にしたがあればあの『龍』を操ることができる。
を手にした物が力を手にできるし封印もするこ事もできる。
ならあのを奪えば……。
僕はなんとかして立ち上がろうとする。
『龍』の瘴気で身体がやられ、身体が言うことを聞かない。
けれどここで諦める訳には行かない。
ふと横を見ると輪堂さん達も同じく立ち上がり六菱の方を向いていた。
僕はガクガクと震える足に力を入れ、こみ上げてくる吐き気をこらえながら六菱にむけて手にした銃を構える。
気がついた六菱は此方を向き、ニヤリと笑う。「苦しそうだな。 そんな状態で撃てるのか?」
「やって……、見ないと……分からない」
「そうか。 君は勇敢だな。 しかし、この状況はもう変えられないぞ」
六菱はあざけわらうように言った。
「そんなことはない」
横から輪堂さんが苦しそうにしながらも強いまなざしを六菱に向けて言った。
「この状況でも貴様だけなら止めることはできる。 何度でもやられてもな」
その言葉に反対派のメンバー全員が瘴気に当たりながらも六菱に向けて対する意思を見せた。
「ほう。 面白い。 力を手に入れた私に向かって来るか。 ならばこの手に入れた力で焼き払ってやる」
六菱は手にしたを『龍』の方へ向ける。
「これが最初の運転だ。彼らを焼き払え」
六菱はを上に一度構えると僕らに向けて振り下ろした。
僕は銃を持つ手に力を入れ、『龍』からの攻撃を受けたと同時に六菱に銃弾を発射できるように引き金に指をかける。
歯を食いしばり、恐怖を超えようとした。
そのときだった。
『龍』は六菱が命令した通りに動かず一度、天を仰ぎ咆哮した。
そしてそのまま顔を下ろすと六菱の方をジッと見る。
「な、なぜ言うことを聞かない?」
六菱は訳が分からないという感じで手にしたを『龍』に向けて突き出した。
その瞬間、『龍』は突き出されたを六菱の腕と一緒に口を開けて噛みちぎった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ブチブチと筋繊維が切れる音と共に六菱の叫び声が響き渡る。
『龍』は噛みちぎった六菱の腕とを飲み込み、ゆっくりとこちらを向いた。
そしてもう一度、『龍』は封印から出ようと
もがき始めた。
「ゴァァァァァァァァァァァァァァァァ」
巨大な体躯を震わせ、叫び、完全に復活しようと声を上げていた。
「な、なぜだ。 なぜ『ルール・オブ・ディスティニー』の効果がない」
六菱は噛みちぎられた腕を抑えながら狼狽えていた。
何かに気がついた輪堂さんはハッとした表情をし魔方陣の中心で横たわるミキの方を見て口を開いた。
「まさか先代の『箱』の守人が彼女に渡した『ルール・オブ・デスティニー』は偽物だったのか……」
その場の全員が驚いた表情をし、目の前の『龍』を見る。
「ならば本物の『ルール・オブ・ディスティニー』はどこにある?」
理性を無くした六菱が叫ぶ。
「我々が知るはずがないだろう。 今は貴様にかまっている時ではない」
輪堂さんは苦しそうにしながらも六菱に吐き捨てるように言った。
輪堂さんは少し体勢をふらつかせながらもき然と立ち上がる。
「全員いいか。 『龍』は制御するものを失った。このまま奴をほおって置けば封印は解かれ、この世界に放たれる。 その前にここにいる我々がなんとかするぞ。 死しても奴
の封印が解けるのを止めるぞ」
輪堂さんはそう反対派のメンバーに向けて叫ぶと反対派のメンバー全員が動いた。
魔法使い、傭兵達は一気に『龍』の近くへ寄り、魔法使いは杖を傭兵は銃を構え、『龍』へその先端を向ける。
魔法使い達は呪文を唱え、杖から糸状の光を放ち、『龍』にそれを絡ませていく。
「ゴァァァァァァァァァァァァァァァァ」
『龍』は動けないのが苦しいのか自身の身体に絡む糸状の光を振り解こうと顔を必死に動かす。
その間に傭兵達が銃で『龍』に向けて引き金を引く。
銃弾は『龍』に当たるが、まるで効果がない。輪堂さんは魔方陣の近くにいき、自身のグローブで魔術を上書きしようとする。
しかし、効果はなく全く収まる気配もない。
逆に『龍』は動きを激しくし魔術師達の糸状の光を振り解く。
そして『龍』は口から更に濃度の濃い瘴気を反対派のメンバー、輪堂さんにむかいはき出した。
「あぁぁぁぁぁぁぁ」
瘴気に当たった輪堂さんはその場に膝をつく。そして反対派のメンバーも倒れる者、膝を地面につきその場で倒れる者も。
『龍』は全員をあざ笑うように空に向かいもう一度、咆哮し、残った僕の方を見る。
僕と『龍』は目が合う。
『龍』のそれは真っ赤に染まり、まるで深い穴のように見えた。
心が真っ黒になるような絶望感が胸の中に広がりかける。
足がすくみその場所から動けず、手も震え固まってしまう。
思考が止まり、ただ『龍』の目をみつめるだけしかできない。
もう終わりだ。
その瞬間、ふとミキの顔が頭をよぎった。
彼女の笑う顔がみたい。
そして彼女を助けたい。
そう思ったのがきっかけだった。
真っ黒な穴が開いたような心に少しだけ暖かな光が表れるような気がした。
そう思った時、僕の身体は自然と動いていた。目の前の巨大な『龍』に向け、銃口を向けた。躊躇なく僕は引き金を引く。
銃弾は『龍』に当たるが効果はない。
それでも僕は銃を打つのをやめなかった。
銃弾はすべて無くなり、銃の中身は空っぽになる。
僕は銃を地面に捨てた。
何か打つ手はないだろうか。
無理だとしても僕の頭は必死で何かを探した
瘴気の毒気にやられ身体に力は入らなくなりそうになる。
けれど諦めたくはない。
ミキの、彼女の顔をもう一度見たい。
心にそれだけを誓ってここに来た。
だから……。
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