第21話 解放
目をつぶり右手を握りしめた。
自然と僕は鞘からナイフを出すイメージをしていた。
ボンヤリとした光が出現し、掌にミキから貰った錆びたナイフが表れる。
たとえ無駄だったとしてもやるしかない。
そう思った瞬間だった。
握った錆びたナイフを握る手が僕の意思とは関係なく急に震えだした。
「な、なんだ?」
思わず声を出してしまう。
そしてナイフは薄い青い色の光を放ち始めるとバリバリと放電し始め、一気に輝きが増しまぶしいくらいの光を放ちのように形を変えた。
その瞬間、予言者の言葉を思い出した。
『貴方には未来を選択できる力、さらに運命をねじ曲げる力を持っているの』
直感的に僕はこれが何なのか悟った。
『ルール・オブ・デスティニー(運命の法則)』
これが『箱』の中身を制御する為の力。
僕は自身の手を見つめる。
『いずれ選択を迫られるときが来るはずだから』
これが予言者の言っていた選択だろうか。
僕は自問自答し目の前の巨大な『龍』を見つめる。
そのとき横から声が聞こえた。
「なぜ貴様がそれを持っている!」
叫んだのは六菱だった。
「それは選ばれた者のみが手にする力、寄越せ!」
六菱は片手になりながらも叫びこちらに飛びかかってきた。
「私に寄越せぇぇぇぇぇぇ」
反応が遅れ、まずいと感じた瞬間、横から輪堂さんが僕の前に現れた。
「貴様に資格がなかったという事だけだ」
そう叫び飛びかかる六菱に右のストレートパンチを繰り出した。
「げふぅ」
もろにパンチをくらった六菱は後ろに吹き飛んだ。
すかさず輪堂さんは六菱と間合いをつめると六菱の胸ぐらを掴み、『龍』の方へと投げ飛ばした。
六菱は『龍の』目の前に投げ飛ばされ、その場に倒れ込んだ。
『龍』は六菱に反応し、大きく口を開け彼の胴体に噛みついた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
断末魔の叫びをあげる六菱。
『龍』はそのまま上を向き、六菱を飲み込んだ。
呆然としていた僕はハッと目の前で膝をつく輪堂さんの名を呼んだ。
「輪堂さん!」
「俺のことは気にするな。 早く手にしたそれを投げろ」
輪堂さんは叫び、『龍』の方をみて言った。『龍』のほうに視線を、向けるとそのまま術を破り、身体をこの世に出そうとしていた。「けど、どうすれば……?」
「あの『龍』の額めがけて投げろ。 それはお前にしかできないことだ」
輪堂さんは叫ぶ。
僕は一度、右手を見る。
は放電しているようにバチバチと強力な光を放っている。
僕はもう一度、『龍』に視線を戻す。
『龍』は咆哮をあげる。
僕はとにかく目の前の『龍』に向かい、手にしたを向ける。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
力が抜けそうになる身体を無理矢理動かし、振りかぶり、思いっきりを投擲した。
はそのまま真っ直ぐに飛び、『龍』めがけ飛んでいく。
そしてそのまま『龍』の額近くにはささる。
「ゴアァァァァァァァァァァァ」
が当たると『龍』は咆哮をあげながら苦しそうにもがき始めた。
同時に『龍』の周りにいくつもの緑色の光が出現し、それが段々と大きくなる。
そしてその光は収束していくと『龍』の姿すべてを包み込んだ。
「ゴァァァァァァァァァ」
『龍』がもう一度叫ぶと光が輝きを増し、包み込むようにまぶしいくらいに光を放った。
まぶしさに僕は目をつぶった。
すぐに瞼を開けると屋上から『龍』は消え、何もない夏の夜空が広がっていた。
「終わっ……た……」
僕は脱力しながら膝を地面につく。
当たりを身まわしても『龍』、魔方陣は消え去っていた。
気がつくと輪堂さんはその場に倒れ、気を失った。
他の反対派のメンバーも同じように気を失ったり、その場に膝をついていた。
僕はふと屋上のスペースの真ん中あたりに目をやる。
ミキがその場に仰向けになり倒れていた。
僕は気を失うのを我慢しながらミキの倒れている場所まで近づく。
彼女の横に膝をつき、様子を見る。
口元に耳を近づけると息をしているのが分かる。
僕は安堵し、耳元を彼女から離しすぐ側で仰向けになる。
雲一つない夜空が目に入る。
不思議とすっきりとしたような気分だった。
きっと僕はこの光景を忘れることはないだろうな。
そう思いながら、重たくなった瞼を閉じた。
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