第22話 行方
あれから意識を失った僕は駆けつけた残りの反対派のメンバーに助けられ、反対派の協力者が経営している病院に運び込まれた。
輪堂さんや反対派のメンバー、そしてミキも同じく運び込まれた。
『箱』の中身である『龍』の瘴気に当たったため、それなりの検査と入院を要した。
ただ意識を取り戻した時にはすでに輪堂さん、反対派のメンバー、ミキも病院から姿を消していた。
なぜか会えないことに僕は寂しさを感じたが
それを消すように楓姉さんが病院に訪れていた。
「大丈夫だった?」
看護師の彼女は知識があるため、僕の容体を聞き、かなり心配してくれていた。
ただなぜ病院に運びこまれたのかという事情を説明しなければいけないのかと僕は心配したが、どうやら反対派の関係の病院だからか、楓姉さんにはある程度それなりの理由をつけ説明してくれていたらしい。
体調の方も問題はなく医師から退院の許可が降り、僕は自宅へと戻った。
これでいままでの日常に戻る。
それはそれでいいだろう。
けれど何となく釈然としなかった。
ボンヤリとした感覚にしっかりとした答えを出すために僕は何ができるだろう。
そう考えた。
一言も挨拶もかわさずに消えるなんて。
次の日にはいても立ってもいられず僕は一人、反対派の集会所まで足を運んでいた。
集会所である店の前までいくと店の前で輪堂さんが立っていた。
「やっぱり来たか」
輪堂さんは黒いジャケットを着込み、かけていたサングラスをとると僕を見た。
そして何も言わずに踵を返し、振り返らずに言った。
「ついてこい」
僕はその言葉通りにする。
輪堂さんは黙りながら店の中へと入っていく。僕も同じように一言も喋らずに後をついて行く。
通されたのは二階にある予言者の部屋へと繋がる部屋だった。
「ここで待っていろ。 すぐに扉が開く」
輪堂さんはそう言うと黙り予言者の部屋の方を見ていた。
僕は何も言わない輪堂さんに向かい、切り出した。
「なんで一言声をかけてくれなかったんですか?」
輪堂さんに向け質問をした。
数日間、胸に秘めた疑問を解くには方法が他にはない。
「それにミキ、彼女はどうしたんですか? あの事件以来、姿を見ません。 どこへ行ったんですか?」
僕も輪堂さんの方をみずにただ予言者の部屋の扉の方を見ていた。
輪堂さんは口も開かず、ただ黙っていた。
二人ともただ黙り、重たい空気感だけが漂う。それを切り裂いたのは輪堂さんだった。
「声をかけなかったのは君のためだった」
僕は輪堂さんの方を向き、聞いた。
「どういうことですか?」
輪堂さんは僕の方を見ずにただ続ける。
「実際に『箱』の正体が分かった今、『箱』開封に関する賛成派、反対派間での緊張は今までより高まっている。 それにこれから『箱』の正体を知った賛成派はこれからより兵頭ミキを狙うだろう。
そうなれば戦いはより過激になる。ただ幸いなことに『箱』の中身を封印することができる『』を持っているのは魔術界から一番遠い君だということだ」
輪堂さんは淡々と続ける。
「もし他の奴がそれを手にし兵頭ミキの持つ『箱』を手に入れて悪用した場合取り返しの事態になる。 ただ知っているのはここにいる俺を含め、反対派のメンバーと予言者、そして兵頭ミキだけだ。 本来であれば反対、賛成、中立派の代表に報告するがこちらでそれは危険だと判断し、伝えてはいない。知っている人物を限定すれば『』も奪われたり君に危害が及ぶ確率はかなり少なくなる。君から危険を避けるためにもこちらから身を引いた」
輪堂さんはありのまま事実を述べているが何となく釈然としなかった。
「兵頭ミキについて答えられるのはここにいないということと、彼女は今、『箱』の守人として正式に受け継ぐという報告をしている」
いないことにびっくりしたが報告をするとはどういうことだろうかと思った。
「報告ってどういうことですか?」
「先代の守人が先日亡くなったのは覚えているな」
僕は声にだして返事もせずただ頷く。
「彼女は今回の一件では正式な『箱』の守人ということではなく代理だった。だが今回、先代がいなくなり正式に彼女が受け継ぐということになる。
それを賛成派、反対派、中立派の一番、力を持つ人物達に報告しに行った。当然、彼女自身が『箱』というのは伏せているがな。
報告することで『箱』という危険な存在がちゃんと守られ管理されていることが分かる」
ただ表向きはなと輪堂さんは顔色を変えずに言った。
そうだ。
ミキの父が守っていたというのは全て偽物の代物だった。
偽物を作ることで悪用されるのを防いでいた。しかし、真実を知った一部の人間にとっては複雑な話だなと思った。
もやもやとした気持ちで質問を輪堂さんに投げかけようとした時だった。
目の前の扉が開き、予言者の部屋への入り口が開いた。
「予言者が北神君と会いたがっている」
「僕にですか?」
「そうだ。 三十分後には迎えに行くから気にせず行ってこい」
輪堂さんは淡々と業務的な感じで言うと踵を返した。
質問をいくつかしたいと思ったのをこらえ僕はドアの中へと入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます