第7話 間奏

一人の男が窓の外を眺めていた。

男の前に広がるのは太陽に照らされ青々とした海原と五星ウォーターフロントのビル群、陸地にある五星市の街並みだった。

男は手にした小さな箱を感触を確かめるように触りながら、何か考え事にふけるようにただ外を眺めていた。

静けさが部屋の中を支配していたが、それを裂くように男の後ろの机に設置されていた電話が鳴る。

ランプは緑色に光っていた。

内線電話かと思いながら男は机に近づき箱を置くと、受話器をとった。

「私だ」

男は短く言いながら自身専用の椅子に座る。

『社長、今、お電話よろしいでしょうか』

電話の向こうから聞こえてきたのは男の秘書の声だった。

「大丈夫だ。 どうした?」

男は焦ることなく、聞いた。

『武田還流さまからお電話が入っております。そちらにつないでもよろしいでしょうか』

秘書がそう言うと男は一瞬、怪訝な顔をする。「ああ。つないでくれ」

そう男が秘書に伝えると了解しましたといい、受話器の向こう側の回線が切り替わる音がした。

『もしもし?』

受話器の向こう側から柔和な男の声が聞こえてきた。

「私だ」

男は受話器の向こう側の人間に言った。

『いつもお世話になっています、先生』

受話器の向こうの武田還流は穏やかな口調で言った。

「先生はよしてくれ。 こんな時間に君から連絡とは珍しい」

男は微笑しながら机の端においていた小さい箱を手に取る。

『いえ、珍しいことがありまして、ご報告をしようと思い、連絡させていただきました』「珍しいこと?」

『ええ。 『箱』の守人の娘が私のところに来ましたよ』

受話器越しの還流はおかしそうに笑いながら言った。

すると男はそれを聞き、窓の方に視線を向けながら、箱を机に置く。

「そうか。 例の物は持っていたか?」

『ええ。らしきものを持っていましたよ。大事そうにね』

還流は穏やかな口調で言っているがあざ笑うように聞こえた。

『しかし、先生。 すでに手元には望みの物があるのでは?』

「手に入れたのはいいが、偽物をつかまされた」

『偽物だったのですか!?』

「そうだ。 『箱』の守人もやってくれる。死んでも『箱』の在処を隠すとは」

男は悔しそうに言いながらもどこか声は愉しげな雰囲気だった。

「だがなんとしてでも「儀式」の刻までには手に入れてみせる」

『そうしたら先生の悲願も達成されるわけですね』

「そうだな。 君だって同じような考えだろう」

『いえ、私はあくまで中立ですから』

電話の向こうの還流は冗談のめかすような口調で言った。

『ですが私は先生の事を応援させていただきますよ』

「そうか。 何かあれば頼むさ」

そう言って六菱憲二郞は不適に笑った。

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